【四日目】双海瞳子
双海さん視点
修学旅行四日目
最後は沖縄の町をざっと見て、お土産などを買い、帰りの飛行機に乗った。
私の隣には、神崎さんが座っている。
行きの飛行機と席が違うのは私が無理を言って、姫に席を交換してもらったから。
「ごめんね。神崎さんと姫の時間を奪ってしまって」
「いいよ~。沙耶も疲れて寝てるみたいだし」
前の席には姫とミドリが座っているが、二人ともぐっすりと寝ている。
神崎さんは姫と一緒の時間を過ごしたかっただろうけど、私はミドリの横にいると、どうにも失恋のショックが顔に出てしまうようで事情を知っている神崎さんに甘えて協力してもらった。
隣の席を見ると、神崎さんが何か聞きたそうな顔をしてコチラを見つめている。聞きたいけど聞いてはいけない。そんな心境だな、きっと。
しかし可愛らしい顔でそんなに見つめられたら、無視する事は出来なかろう。散々付き合わせておいて真相を話さないのも失礼だ。そう思って私は口を開いた。
「二人はNWに移住する気はないんだってさ」
「えっ!?」
寝ているが、一応ミドリに聞こえない程度のボリュームで語り始めた。
女性しか愛せない私がミドリを好きになったのはいつだったか、ひとついえる事はミドリにオカの件で相談されるよりも前だってこと。
ずっとミドリが好きだった私は、ミドリの相談に対して協力したくない、と思った。
簡単に言えば嫉妬。私はこんなにもミドリの近くにいるのに、性別の壁が邪魔をする。
逆にオカは、あっさりとミドリの心を奪ったのだ。嫉妬しないわけがなかった。
私はミドリの相談に対して特別なアクションは起こさず、静観するだけだった。応援するでもなく邪魔をするわけでもなく、一歩引いて見ているだけ。
数年後、オカに告白された時はバカじゃないの? と思った。
ミドリみたいな大和撫子が傍にいるのに何故私を選んだのか。
女性しか愛せない私は、当然オカの思いには応えられない。希望も持たせるよりは完璧に断ち切ってあげたほうが本人のためだと思い、厳しい言葉で返事をした。
子孫を残すために神様が作ったシステムが男女の恋だとするならば、神に従えなかった私は一体なんなのだろう。そんな想いが膨らんでは胸を締め付けた。
私に希望が見えたのはNWというゲームを始めてからだ。
最初はただのゲームだと思っていたNW。それが新しい世界への入口になると聞き、さらにNCシステムの存在を知った時に、チャンスかもしれないと私は思った。
現実世界では偏見のある同性愛者も、このNWの中でなら何もおかしくはないのでは、と。
だってそうでしょ? 女性同士で子供を作れるのならば、神様が作ったシステムから外れた私でも偏見を持たれることはない。
だけど、舞い上がっていたのは私だけ。ミドリにNWで暮らす意志があるか聞いた私は、その言葉に絶望した。
「私は移住はしないよ。ただの遊びとしてやっているだけだし。岡崎くんもNW移住はしないって」
ミドリに対する私の恋は終わったんだ。そう思った。
ずっと同じ道を歩んできた幼馴染みの道はここで袂を分かつ。
私が最後にミドリに出来ることはなんだろう? 考えるまでもない。相談された時は協力してあげられなかった恋のサポートをしよう。私の想いは叶わなかったけど、せめてミドリには幸せな恋をしてほしい。
「まぁ、そんなこんなで今に至るわけよ」
「そっか……」
「ちなみに神崎さんに協力してもらったのは神崎さんに興味があったから」
「興味?」
「だって神崎さんって私と同じでしょ?」
神崎さんは、どういう意味? といった表情をして首を傾げている。
私は、別に今さら隠さなくてもいいのに、と思った。
「姫とNC作っているし、そういうことなんでしょ?」
それを聞いた神崎さんは「あぁ、なるほど」と言って私の言葉の意味を理解した。
「私は双海さんとは少し違うかな」
「ウソばっか」
「私は女性しか愛せないわけじゃなくて、沙耶しか愛せないの。世界の常識や流行が移ろい変わっても、この想いだけは変わらない」
敵わない、と思った。
神崎茉莉が姫宮沙耶に向ける想いにも、神崎茉莉に一途な想いを向けてもらえる姫宮沙耶にもだ。
こんな一途な想いに触れたら、私の考えは甘えだったのかと後悔の念すら沸いてくる。
「私がミドリに想いを伝えていたら、何かが変わっていたのかな……」
神崎さんは答えない。当たり前だ。
肯定も否定も今の私には意味をなさない。そこにあるのは双海瞳子の恋が終わったという事実だけなのだから。
「私、神崎さんに恋したかも」
「あはは。さっき言ったけど、私は沙耶しか愛せないから……ごめんなさい」
冗談と思われたか本気と思われたかはわからない。神崎さんは、ちょっと困った顔をして返事をする。
こうして私の二回目の恋は始まった瞬間に終わりを告げた。
これも当たり前だ。だって私は姫宮沙耶を一途に想う神崎茉莉を美しいと思ったのだから。




