いつだって
「ほら、こっち!」
まずは先陣を切った沙耶がヘイトを集めるスキル【挑発】を使う。すると敵は全速力で沙耶に向かう。
次いでツルギさんがサポートに入る。
沙耶のHPが減ったら、同じく【挑発】を使い、自分に注意を向かせ、その隙にヒーラーが沙耶を回復する。
防具を強化しているおかげで先程一戦交えた時より、だいぶダメージを軽減出来ているので余裕があるみたいだ。ツルギさんの指揮の下で、他のみんなも的確に動いていく。
サポーターは敵の動きを遅くする【グラビティ】、攻撃の命中率を下げる【ブラインド】などを使い弱体化させる。
【透視】を使って敵の残りHPなどの詳細を確認することも出来る。
デスサイズ・マンティス
HP100000
弱点:炎
「弱点は炎か…魔法アタッカーは炎系スキル中心にアタックしてくれ!!」
「OK!…って言っても下級魔法のファイヤーボールしかないけどね~」
魔法アタッカーのファイヤーボールがデスサイズ目掛けて飛んでいく。500前後のダメージが入り、デスサイズの体力ゲージがわずかに減少した。想像以上にHPが多いし、魔法ダメージも通らない。
弱点である炎魔法のファイヤーボールでも、単純計算で200発撃ち込む必要があることになる。
近接アタッカーは盾役がヘイトを稼いでる間に一気に総攻撃を仕掛けてるが、ダメージはあまり通ってないようだ。
私も矢を射るが、30前後のダメージでロクなダメージソースにならない。これは、かなりの長期戦になりそうだ。
このゲームにおけるMP回復方法は3つ。
1つ目は瞑想状態に入り、ひたすら待つ。この状態では無防備になるので、1人のヒーラーが瞑想中は、別のヒーラーが盾役にヒールをかけて順番に回していく。
2つ目はアイテムでの回復。様々なアイテムがあるけど、あまりアイテムが豊富ではない冒険序盤なのでMP回復アイテムを用意出来なかった。
3つ目はスキル【魔力供給】だが、こちらも習得している人はまだいなかった。
つまり瞑想を上手く使って、ヒーラーが交代で盾役をサポートするしかない。魔法アタッカーも瞑想でMPを回復しつつ、という形になる。
しばらくデスサイズ・マンティスの通常攻撃を受け続けていると、デスサイズ・マンティスの鎌が光る。
先程の戦いで真空波の予備動作を見ているので、私はとっさに叫ぶ――
「真空波、きますッ!!」
鎌が振り下ろされ、真空波が巻き起こり、対象目掛けて飛んでいく。しかし、その対象は盾役じゃなかった。
「うわぁ!!」
近接アタッカーの1人が真空波に切り刻まれ、HPが半減する。防御が薄いので、かなりのダメージを受けてしまっている。
ヒーラーがアタッカーにヒールをかけるが、ここで大きくバランスが崩れてしまった。
ここまで盾役にヒールをかけ続けていたことでヘイトが蓄積されていた所に、HPが大幅に減っていたアタッカーを回復した結果、盾役のヘイトを上回ってしまったのだ。
デスサイズ・マンティスの攻撃対象がヒーラーに移り、一撃でヒーラーのHPを半分奪う。沙耶とツルギさんの【挑発】を受けても奪い返せず、二発目の攻撃でヒーラーが1人沈んでしまう。
「蘇生アイテムも蘇生魔法も、まだ誰も入手してないか…」
「これ以上ヒーラーが沈んだらまずいことになるよ。瞑想でヒール回しが出来なくなる」
ヒーラーが1人になると、瞑想でMP回復をしている間の第二ヒーラーがいなくなるので、盾役が沈んでしまうことになる。これ以上ヒーラーが沈むのは避けたい。
「すまん!アタッカーは真空波を受けても、そのまま耐えてもらうしかない、薬草やポーションを持っているなら各々使ってくれ」
苦渋の決断だけど、アタッカーはアイテムでの自己回復の手段を取るしかなかった。
今、重要なのは絶対にヒーラーを死守することだ。
PTが崩壊する前に、なんとかしてデスサイズ・マンティスを倒そうと必死に戦い、ようやくHP2割まで削りきったが、定期的に飛んでくる真空波がアタッカー陣を襲い、残りのメンバーは盾2人、ヒーラー2人、サポーター2人、アタッカー5人にまで追い込まれていた。
そしてデスサイズ・マンティスが再び、真空波の構えに入る。
「気をつけて!真空波来るよ!」
放れた真空波が向かった先は…私だ。
回避行動を取ろうと、ステップを踏むが追尾性能が有り、避けきれずに被弾してしまう。
私のHPは残り1割まで減ってしまうが、魔法アタッカー3人が放ったファイヤーボールがデスサイズ・マンティスに命中し、敵のHPも減っていく。
――と、次の瞬間デスサイズ・マンティスは再び真空波の体制に入る。
「連続真空波!?」
まずい、挙動が変わった!
放たれた真空波はサポーターを直撃し、戦闘不能になる。そして間髪いれずに三連続で真空波を放つ、次は盾役であるツルギさんを直撃するが、なんとか耐え切る……が、更に四連続目の真空波の構えを取る。
「ダメだ、止まらないぞ!防御を捨てて全力で削りきるんだ!!」
それを聞いた沙耶もネカマさんも攻撃に移り、削りに参加していく。
先程からロクなダメージを与えられない私は、削りに役立つスキルがないか、弓の攻撃スキルの項目を確認する。
【サイレントアロー・零式】
敵との位置、距離で倍率が変動する。
この説明文だけでは、何がなんだかわからない。だけど、条件付きで倍率が変動する技なら、強力なスキルの可能性があるので習得してみる事にした。
条件が不明なので、とりあえず敵と距離を取り、中距離から【サイレントアロー・零式】を発動する。
サイレントなどと銘打っている割に、ド派手なエフェクトが現れ、敵に向かって飛んでいく。
ダメージは……100ダメージしか通ってない!
「えぇ、何これ~…」
そんなことをしているうちにも、真空波は次々にPTメンバーを薙ぎ倒していく。
そして、ついに連続真空波に回復が追いつかず、ツルギさんも倒れてしまう。
デスサイズ・マンティスの残りHPを確認すると、残りHP約5000
魔法アタッカー次第では削りきれるはず…
デスサイズ・マンティスの連続真空波は止まらずに続いてネカマさんが沈む。
もうヒーラーもいなくなり、いよいよピンチになる。鎌が振り下ろされ、次に真空波が対象に選んだのはセーラさんだった。ここで魔法アタッカーが沈めば終わりだろう。
今、私に何が出来るだろう?
私がすべき事は
私が、ここにいる意味は――
私は【縮地】を使い、魔法アタッカーの場所まで瞬時に移動した。
「マリちゃん!身代わりになる気!?」
そしてセーラさんの前に立ちはだかる私に真空波が襲い掛かり、ド派手なエフェクトが巻き起こって周囲が土煙に包まれる。
「マリちゃん!」
「大丈夫!セーラさん、魔法を!」
「え、無事なの?わ、わかったわ!」
真空波が飛んできても無事な私を見て、セーラさんは少し驚いた表情を見せたが、すぐファイヤーボールを唱え、デスサイズ・マンティスのHPを削る。
もう1人のアタッカーのファイヤーボールも直撃し、HP残り4000。
再び真空波の構えに入り、今度は、もう1人のアタッカーに向けて真空波が飛んでいく。
今度は、もう1人のアタッカーの前に立ちはだかり、真空波を防ぐ。その隙に、セーラさん達のファイヤーボールが発動する。
残りHP3000!
私は次の真空波が来る前に、再びセーラさんに前に移動する。
「マリちゃん、あなた一体…あっ」
セーラさんが言い終わる前に、私はスキルを使う。
【建設】で木の壁を作り出し、真空波を受け止める。
耐久性はそこまで高くないので、一撃で粉々に散ってしまう。
でも、この場を凌ぐだけなら……みんなが魔法を唱えるための、わずかな時間を稼ぐ事は出来るはず!
残りHP2000!
「でも…ごめんなさい、ここまでみたいです…」
私の持っている木材が底を尽きてしまった。この壁を作るには、素材を消費しないといけないので、この戦法はもう使用出来ない。
「どうしよう、このままだと削りきれない…このスキルの最高倍率条件さえわかれば…」
「スキル?何を習得したの?」
先程習得した【サイレントアロー・零式】のこと説明すると、セーラさんは覚悟を決めた表情をして
「なるほど、これに賭けるしかないみたいだね」
そうこうしてる間に、もう1人の魔法アタッカーは真空波でやられてしまっている。残るは三人だ。
先程は中距離真横から射抜いてもダメだった。
それなら、長距離か、それとも……
「危ない!」
セーラさんが、襲い来る真空波から私をかばう。
「マリちゃん、いって!」
「は、はい!」
考えてる暇はない。
私はデスサイズ・マンティスに向かって走り出した。
【縮地】を使うにはまだ距離がある。
おそらく【縮地】発動前にもう一度、真空波が来る。私のHPは残り1割、木の壁もないし、回避しても追尾され、直撃したら確実に沈むだろう。
でも、大丈夫だよね
いつだって、あなたは私を支えてくれる
いつだって、私を守ってくれる
だから――
デスサイズ・マンティスが真空波の構えに入った。
「沙耶!」
「マリ!」
真空波が私目掛けて飛んで来るが、沙耶が私の前に陣取りスキルを発動する。
「守って……【アイギス】!!」
沙耶がスキルを発動すると、神々しい巨大な盾が出現し、私達へのダメージを無効化する。
私は、すぐさま【縮地】を発動し、弓矢を構えた状態のまま瞬時に距離を詰め、デスサイズ・マンティスの元へ滑り込む。
「ゼロ距離!」
と、同時に【サイレントアロー・零式】を発動した。
「いっけええええええええ!!」
光に包まれた矢は、勢い良くデスサイズ・マンティスに突き刺さり、大きな爆発と共に散開した。
残りHP0!
「勝った……?勝ったんだ…!」
「やった!やったよマリ~!」
駆け寄ってきた沙耶が、私を抱きしめる。恥ずかしかったけど、死闘を制した高揚感もあったので、私も沙耶を抱きしめ返す。
こんな達成感、初めてかも…。
「最後、守ってくれて嬉しかった。沙耶はナンパ師なんかじゃないね……沙耶は、私の王子様だよ」
「………」
「沙耶?」
「そんな恥ずかしい台詞がすらすら出てくるなんて、マリはナンパ師だね」
「えぇ~……」




