表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/117

いつだって

「ほら、こっち!」

 まずは先陣を切った沙耶がヘイトを集めるスキル【挑発】を使う。すると敵は全速力で沙耶に向かう。


 次いでツルギさんがサポートに入る。

 沙耶のHPが減ったら、同じく【挑発】を使い、自分に注意を向かせ、その隙にヒーラーが沙耶を回復する。

 防具を強化しているおかげで先程一戦交えた時より、だいぶダメージを軽減出来ているので余裕があるみたいだ。ツルギさんの指揮の下で、他のみんなも的確に動いていく。


 サポーターは敵の動きを遅くする【グラビティ】、攻撃の命中率を下げる【ブラインド】などを使い弱体化させる。

【透視】を使って敵の残りHPなどの詳細を確認することも出来る。


 デスサイズ・マンティス

 HP100000

 弱点:炎


「弱点は炎か…魔法アタッカーは炎系スキル中心にアタックしてくれ!!」

「OK!…って言っても下級魔法のファイヤーボールしかないけどね~」



 魔法アタッカーのファイヤーボールがデスサイズ目掛けて飛んでいく。500前後のダメージが入り、デスサイズの体力ゲージがわずかに減少した。想像以上にHPが多いし、魔法ダメージも通らない。


 弱点である炎魔法のファイヤーボールでも、単純計算で200発撃ち込む必要があることになる。

 近接アタッカーは盾役がヘイトを稼いでる間に一気に総攻撃を仕掛けてるが、ダメージはあまり通ってないようだ。

 私も矢を射るが、30前後のダメージでロクなダメージソースにならない。これは、かなりの長期戦になりそうだ。


 このゲームにおけるMP回復方法は3つ。

 1つ目は瞑想状態に入り、ひたすら待つ。この状態では無防備になるので、1人のヒーラーが瞑想中は、別のヒーラーが盾役にヒールをかけて順番に回していく。


 2つ目はアイテムでの回復。様々なアイテムがあるけど、あまりアイテムが豊富ではない冒険序盤なのでMP回復アイテムを用意出来なかった。


 3つ目はスキル【魔力供給】だが、こちらも習得している人はまだいなかった。

 つまり瞑想を上手く使って、ヒーラーが交代で盾役をサポートするしかない。魔法アタッカーも瞑想でMPを回復しつつ、という形になる。


 しばらくデスサイズ・マンティスの通常攻撃を受け続けていると、デスサイズ・マンティスの鎌が光る。

 先程の戦いで真空波の予備動作を見ているので、私はとっさに叫ぶ――

「真空波、きますッ!!」


 鎌が振り下ろされ、真空波が巻き起こり、対象目掛けて飛んでいく。しかし、その対象は盾役じゃなかった。


「うわぁ!!」

 近接アタッカーの1人が真空波に切り刻まれ、HPが半減する。防御が薄いので、かなりのダメージを受けてしまっている。

 ヒーラーがアタッカーにヒールをかけるが、ここで大きくバランスが崩れてしまった。


 ここまで盾役にヒールをかけ続けていたことでヘイトが蓄積されていた所に、HPが大幅に減っていたアタッカーを回復した結果、盾役のヘイトを上回ってしまったのだ。


 デスサイズ・マンティスの攻撃対象がヒーラーに移り、一撃でヒーラーのHPを半分奪う。沙耶とツルギさんの【挑発】を受けても奪い返せず、二発目の攻撃でヒーラーが1人沈んでしまう。


「蘇生アイテムも蘇生魔法も、まだ誰も入手してないか…」

「これ以上ヒーラーが沈んだらまずいことになるよ。瞑想でヒール回しが出来なくなる」


 ヒーラーが1人になると、瞑想でMP回復をしている間の第二ヒーラーがいなくなるので、盾役が沈んでしまうことになる。これ以上ヒーラーが沈むのは避けたい。


「すまん!アタッカーは真空波を受けても、そのまま耐えてもらうしかない、薬草やポーションを持っているなら各々使ってくれ」


 苦渋の決断だけど、アタッカーはアイテムでの自己回復の手段を取るしかなかった。


 今、重要なのは絶対にヒーラーを死守することだ。

 PTが崩壊する前に、なんとかしてデスサイズ・マンティスを倒そうと必死に戦い、ようやくHP2割まで削りきったが、定期的に飛んでくる真空波がアタッカー陣を襲い、残りのメンバーは盾2人、ヒーラー2人、サポーター2人、アタッカー5人にまで追い込まれていた。


 そしてデスサイズ・マンティスが再び、真空波の構えに入る。

「気をつけて!真空波来るよ!」

 放れた真空波が向かった先は…私だ。

 回避行動を取ろうと、ステップを踏むが追尾性能が有り、避けきれずに被弾してしまう。

 私のHPは残り1割まで減ってしまうが、魔法アタッカー3人が放ったファイヤーボールがデスサイズ・マンティスに命中し、敵のHPも減っていく。


 ――と、次の瞬間デスサイズ・マンティスは再び真空波の体制に入る。


「連続真空波!?」

 まずい、挙動が変わった!


 放たれた真空波はサポーターを直撃し、戦闘不能になる。そして間髪いれずに三連続で真空波を放つ、次は盾役であるツルギさんを直撃するが、なんとか耐え切る……が、更に四連続目の真空波の構えを取る。


「ダメだ、止まらないぞ!防御を捨てて全力で削りきるんだ!!」


 それを聞いた沙耶もネカマさんも攻撃に移り、削りに参加していく。

 先程からロクなダメージを与えられない私は、削りに役立つスキルがないか、弓の攻撃スキルの項目を確認する。


【サイレントアロー・零式】

 敵との位置、距離で倍率が変動する。


 この説明文だけでは、何がなんだかわからない。だけど、条件付きで倍率が変動する技なら、強力なスキルの可能性があるので習得してみる事にした。


 条件が不明なので、とりあえず敵と距離を取り、中距離から【サイレントアロー・零式】を発動する。

 サイレントなどと銘打っている割に、ド派手なエフェクトが現れ、敵に向かって飛んでいく。

 ダメージは……100ダメージしか通ってない!


「えぇ、何これ~…」


 そんなことをしているうちにも、真空波は次々にPTメンバーを薙ぎ倒していく。

 そして、ついに連続真空波に回復が追いつかず、ツルギさんも倒れてしまう。


 デスサイズ・マンティスの残りHPを確認すると、残りHP約5000

 魔法アタッカー次第では削りきれるはず…



 デスサイズ・マンティスの連続真空波は止まらずに続いてネカマさんが沈む。

 もうヒーラーもいなくなり、いよいよピンチになる。鎌が振り下ろされ、次に真空波が対象に選んだのはセーラさんだった。ここで魔法アタッカーが沈めば終わりだろう。



 今、私に何が出来るだろう?

 私がすべき事は

 私が、ここにいる意味は――



 私は【縮地】を使い、魔法アタッカーの場所まで瞬時に移動した。


「マリちゃん!身代わりになる気!?」


 そしてセーラさんの前に立ちはだかる私に真空波が襲い掛かり、ド派手なエフェクトが巻き起こって周囲が土煙に包まれる。


「マリちゃん!」

「大丈夫!セーラさん、魔法を!」

「え、無事なの?わ、わかったわ!」

 真空波が飛んできても無事な私を見て、セーラさんは少し驚いた表情を見せたが、すぐファイヤーボールを唱え、デスサイズ・マンティスのHPを削る。

 もう1人のアタッカーのファイヤーボールも直撃し、HP残り4000。


 再び真空波の構えに入り、今度は、もう1人のアタッカーに向けて真空波が飛んでいく。

 今度は、もう1人のアタッカーの前に立ちはだかり、真空波を防ぐ。その隙に、セーラさん達のファイヤーボールが発動する。


 残りHP3000!


 私は次の真空波が来る前に、再びセーラさんに前に移動する。

「マリちゃん、あなた一体…あっ」

 セーラさんが言い終わる前に、私はスキルを使う。

【建設】で木の壁を作り出し、真空波を受け止める。

 耐久性はそこまで高くないので、一撃で粉々に散ってしまう。

 でも、この場を凌ぐだけなら……みんなが魔法を唱えるための、わずかな時間を稼ぐ事は出来るはず!


 残りHP2000!


「でも…ごめんなさい、ここまでみたいです…」


 私の持っている木材が底を尽きてしまった。この壁を作るには、素材を消費しないといけないので、この戦法はもう使用出来ない。


「どうしよう、このままだと削りきれない…このスキルの最高倍率条件さえわかれば…」

「スキル?何を習得したの?」


 先程習得した【サイレントアロー・零式】のこと説明すると、セーラさんは覚悟を決めた表情をして


「なるほど、これに賭けるしかないみたいだね」


 そうこうしてる間に、もう1人の魔法アタッカーは真空波でやられてしまっている。残るは三人だ。


 先程は中距離真横から射抜いてもダメだった。

 それなら、長距離か、それとも……


「危ない!」


 セーラさんが、襲い来る真空波から私をかばう。


「マリちゃん、いって!」

「は、はい!」


 考えてる暇はない。

 私はデスサイズ・マンティスに向かって走り出した。



【縮地】を使うにはまだ距離がある。

 おそらく【縮地】発動前にもう一度、真空波が来る。私のHPは残り1割、木の壁もないし、回避しても追尾され、直撃したら確実に沈むだろう。


 でも、大丈夫だよね

 いつだって、あなたは私を支えてくれる

 いつだって、私を守ってくれる


 だから――


 デスサイズ・マンティスが真空波の構えに入った。


「沙耶!」

「マリ!」


 真空波が私目掛けて飛んで来るが、沙耶が私の前に陣取りスキルを発動する。


「守って……【アイギス】!!」


 沙耶がスキルを発動すると、神々しい巨大な盾が出現し、私達へのダメージを無効化する。

 私は、すぐさま【縮地】を発動し、弓矢を構えた状態のまま瞬時に距離を詰め、デスサイズ・マンティスの元へ滑り込む。


「ゼロ距離!」

 と、同時に【サイレントアロー・零式】を発動した。


「いっけええええええええ!!」


 光に包まれた矢は、勢い良くデスサイズ・マンティスに突き刺さり、大きな爆発と共に散開した。


 残りHP0!


「勝った……?勝ったんだ…!」


「やった!やったよマリ~!」


 駆け寄ってきた沙耶が、私を抱きしめる。恥ずかしかったけど、死闘を制した高揚感もあったので、私も沙耶を抱きしめ返す。


 こんな達成感、初めてかも…。


「最後、守ってくれて嬉しかった。沙耶はナンパ師なんかじゃないね……沙耶は、私の王子様だよ」

「………」

「沙耶?」

「そんな恥ずかしい台詞がすらすら出てくるなんて、マリはナンパ師だね」


「えぇ~……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ