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村作り

 姫宮さんと並んで、同じ帰り道を歩く。


「まさか、同級生だったとはね~」


 こちらは昨日のサーヤさんの発言によって同級生だと確信を持っていたけど、私はリアルに関する情報を口にしていなかったため、サーヤさんが私の事を同級生だと気付かないのは仕方のない事だと思う。


「ごめんなさい。勝手に調べたりして……」

「いいのいいの!私が無用心であんなこと言っちゃったからねー。でもまさか同級生とは思わなかったな」


 サーヤさんから見て、私は何歳くらいに見えていただろうか?

 私が初めてサーヤさんと会話した時、凄く素敵な年上の女性で、女子大生くらいだと勝手に想像してしまった。

 これを言うとサーヤさんはどんな反応をするのか気になったけど、怒られそうなので心の中に仕舞っておく事にした。


「なんだかイメージと違って、間違えちゃいました。最初は生徒会長に話しかけちゃって……」

「あ~、そういえば、あの人の名前って沙綾だっけ。紛らわしい名前つけちゃったね。ごめんごめん!」


 最初に姫宮さんをパスしたのは名前のせいではなく、ギャルみたいな話し方のせいだが、二人きりでしゃべってみると、意外と普通だ。



「ひ、姫宮さんが悪いわけじゃないですよ」

「沙耶でいいよ。私もマリって呼んでいいかな?」


 な…名前で呼んでいいんだ……。

 なんだか恥ずかしいな。


「あ、はい。えっと……沙耶さん?」

「呼び捨てにして」

「えぇ……無理です~」

「なんでよー!」


 昨日の今日出会ったばかりの人を、いきなり呼び捨てなんて恐れ多くて出来ないよ。


「こういうのって、後になればなるほど余計に呼べなくなっていくの!早めに呼んでおいたほうが慣れるよ。ほら、マリ!」


 う……あっさり私の名前を呼んでくれる。

 呼び捨てで名前を呼ばれる事なんて滅多にないので、名前を呼ばれた瞬間、少しドキッとした。

 私だって名前を呼びたくないわけじゃない、むしろ呼んでみたい。

 ドキドキしながら、その名前を口にしてみる。


「沙耶……」

 う、思ってた以上に恥ずかしい!


「うん、改めてよろしくね!マリ」

「よ、よろしく!沙耶」

「マリはイメージ通り、可愛いね」

「え?え?」


 可愛い?お世辞だとわかってる。

 でも、可愛いと言われて凄く嬉しくなり、ニヤニヤしてしまう。


「そ、そんなことないよ!可愛いなんて言われたの初めてだし、友達も全然出来ないし」

「あなたが自分をどう思ってるか知らないけど、私はマリを可愛いって思ってるの」


 こんな台詞がすらすらと出てくるんだもん。

 沙耶の周りに人が集まる理由がよくわかる。


「沙耶って、もし男だったら絶対ナンパ師になってると思う」

「ええ!何よそれ~」


 お互いの顔を見て、二人でクスクス笑う。



 ◇



「そろそろ家着くけど、マリの家は?」

「まだ少し先、500mくらい離れてるかな?」

「いつでも遊びにいける距離だ」

「う、うん。今度、家に来てくれたら嬉しいな……」

「約束ね!じゃあ、着替えたらログインするから、また後でね」

「うん、また後で」


 急いで帰ろう。

 たった数分でも、沙耶に会えない時間を寂しいと感じてしまう。


 家に着いた私は、制服を着替えてログインする。

「沙耶はもうログインしてるかな……」


 ログインすると、昨日ログアウトした場所でサーヤさんが待っていた。


「お帰り、マリ」

「ただいま、サーヤ……さん」

「もぉ~、こっちでも呼び捨てでいいってば」

「えへへ」


「それはそうと、なんだか木材が散乱してるね。何かあったのかな」


 辺りを見回すと、確かに木材があちこちに転がっている。

 家の残骸らしき物も確認出来た。


「うーん……モンスターにやられたのかな?」

「建てた家がモンスターに破壊されたってこと?だとしたら、建てる場所も考えないといけないわね」


 すると、背後から声をかけられる。


「その家は昨日の深夜に建てたんだけど、壊されちゃってさ」

「あら、ツルギさん。昨日ぶりね」

「おう、今日も二人なんだな」


 一方、ツルギさんは1人だった。


「そっちは1人なのね。カーマさんは?」

「その事なんだが、皆がバラバラに家を建てても、モンスターに壊されちまうんだ。だから集落をつくろうって話になっててさ、僕は、そのことを知らせて回ってる。あいつは今、北のほうで建設中さ」

「集落……なるほどね。村を作れば防衛もしやすいってことか」

「そういうこと。君らも家を建てるなら一緒に村に来ないか?」


「マリ、どうする?私は行ってもいいと思うけど」

「わ、私も賛成!」


 せっかく建てた家が壊されちゃったら嫌だろうし、とりあえずみんなで結束したほうがいいと私も思った。


「じゃあ決まりね。私達も、その計画に参加させてもらうわ。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「おう、よろしく!じゃあ、ついてきてくれ。僕らのパーティリング渡しておくよ」


 ツルギさんのパーティリングを指にハメてパーティを組む。

 パーティーリング【ID:197584】


・パーティーメンバー

 Lv9【ツルギ】

 Lv9【カーマ】

 Lv5【サーヤ】

 Lv5【マリ】


 パーティに入ると昨日のネカマさんもいた。

「あれ、昨日の子猫ちゃん達?」

「私達も参加させてもらう事になったの。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします。ネカマさん」

「カーマなんだけど…」




 ◇




 集落までの距離はそこまで遠くないので、道中は安全……そう思っていた。


「おいおい、冗談だろ」

「何、アレ……」


 そこには、体長5メートル近くはあるかという巨大なカマキリが、周囲にいるモンスターを食い荒らしていた。当然、こちらにも気付く。


「に、逃げたほうがいいんじゃ……」

「確かに敵う相手じゃなさそうだな、逃げるぞ!」


 駆け足で逃走しようとするが、巨大カマキリは両手の鋭い鎌を振りかざし、真空波となって襲ってくる。


「うわっ!」

 ツルギさんのHPが一気に半分程削れる。


「一撃でこれかよ!二人は先に逃げろ」

「かっこつけてるんじゃないわよ!このゲーム、デスペナは?」



 オフゲーならば、PTが全滅した時にセーブポイントや戦闘直前からのやり直しが一般的だろう。

 一方ネットゲームでは、稼いだ経験値や所持品のロストが設定されている事が多い。


 サーヤが素早くツルギさんに薬草を使う。


「デスペナは所持品全ロストと、大幅な経験値ダウンだ…」

「はぁ!?」


 所持品全ロストは痛すぎる……。

 ここで死ぬと、昨日の狩りで手に入れた素材を、全て失うことになる。

 そうなったら、家を建てるための素材が不足しちゃう。


 巨大な鎌が、サーヤ目がけて振り下ろされる。


「くっ!」


 サーヤは間一髪回避するも、すぐさま追撃される。木刀でガードするも大きく吹き飛ばされ、HPは一気に3割を切った。


「おい、大丈夫か?ヘルプいったほうがいい?」

 ネカマさんが心配そうに言う。


「いや、今来ても共倒れだ。なんとかして逃げるから、待っててくれ」


 まともに直撃すると一気にHPを削られるので、二人は減少したHPを薬草で回復しつつ回避している。しかし、回復アイテムを使う時に発生する硬直時間のせいで、回避もギリギリだ。


 なんとかしなきゃ……。


 私はスキルポイントの画面を開き、戦闘スキルを確認する。

 いくつかの項目を確認して、今必要なスキルを選択し、習得した。


 敵に気付かれることなく背後に回りこみ、一気に距離を詰める。


「おい!お嬢ちゃん、近付きすぎると危ないぞ!」

「マリ?何を……」


 そして、巨大カマキリの足元へ素早くスキルを繰り出す。するとカマキリの足がピタリと止まる。


「い、今のうちに逃げてください!」

 私の声を聞いたサーヤとツルギさんが急いでダッシュする。私も、すぐに距離を取って逃走した。


 10秒程でカマキリは動きだしたが、私達が逃げるには十分な時間を稼げた。距離が開きすぎたため、巨大カマキリは追ってこなかった。


「ハァ…ハァ…逃げ切ったみたいだな」

「マリ、凄いじゃん!どうやったの?」

「えへへ」


 私が獲得したスキルは3つ


 1つは【ステルス】

 姿を消して、敵に気付かれなくなるスキル。

 しかし、近付きすぎると足音で感知する敵もいる。

 まずはこれを使って自分の気配を消して、敵の注意を逸らした。


 2つ目は【縮地】

 瞬間的に数メートル移動して、対象との距離を詰めるスキル。

 ステルスを使ってるとはいえ、近付きすぎると感知されたり、範囲攻撃に巻き込まれる可能性もあったので、対象との距離を瞬時に詰めるスキルを選んだ。


 3つは【影縫い】

 敵の影を地面に縫い付けるスキル。

 これにより、相手は移動が不可能になる。

 弓のような遠隔武器を使用していれば遠くからでも発動出来るが、近接武器を装備している場合は対象に近付かないと発動出来ない。



「スキルポイントは昨日溜め込んだ分、まだ使ってなかったので」


「なるほどな。あの一瞬で大した判断だ」

「闇雲に戦ってた私達じゃ、八方塞がりだったもんね」

「…悔しいが、その通りだな」

「ありがとう。マリ」

「そ、そんな!私も、ずっと助けてもらってるし」


 少しでもサーヤ……沙耶の役に立ちたいから頑張った。

 なんて、少し照れくさくて口に出来なかった。


「よっし、目的地まで急ごう」

「はい!」


 ツルギさんの後についていき、ようやく集落建設予定地に辿り着く。数十人のプレイヤーが集まり、既に、いくつか家も建っているみたいだ。


 すると、1人の女性アバターがこちらに寄ってくる。

「こんにちは。村作りに協力してくれるの?ありがと~!」


 緑色の髪に、ポーニーテール。

 どこか活発な印象の少女だ。


「こちらは、セーラさん。みんなで村を作ろうって言い出したのは彼女なんだ」

「よろしくね。えっと……」


「私はサーヤ。よろしく~」

「マ、マリです。よろしくお願いします!」


 ペコリと頭を下げると『小動物みたいで可愛い』と優しく頭をポンポンを叩かれた。

 沙耶と同じ反応だ…。そんなに小動物っぽい見た目はしてないのだが、オドオドした雰囲気がそう思わせるのかな…。



 ◇



「結構開拓進んでるのね」

「素材さえあれば壁や天井を組み合わせて簡単にクラフト出来るからな。君達も試してみなよ」


「じゃあ、私が」

 沙耶が建設スキルで壁を作り上げる。

 手の平をかざして配置する場所を決定して壁を置く。現実の建設と違って、余計な手間がかからないのでサクサク家が作れるらしい。


「1人辺りに与えられる土地の制限とかあるの?」

「いや、まだそこまで細かくルールは決めてないんだ。とりあえず、まとまって家を建てようって話したくらいさ」


「そうなんだ…とりあえず二人が暮らせるスペースをもらうわね。マリ、私達の家を建てる場所、選ぼうか」

「あ、うん。私も一緒にいいの?」


 いきなりのお誘いだったので、少し戸惑う。

 だって私は、お友達を家に招いた事もなければ招かれた事もないのだから、それがいきなり一緒に暮らそうだなんて、ゲームの中とはいえ、どんな生活になるのか想像出来ない。


「私はそのつもりだったけど、嫌だった?」

「ううん、そんなことない!私も、沙耶と一緒に暮らしたい!」

「じゃあ、決まりね!」


 これからもずっと一緒に冒険してくれるってことなのかな?正直、凄く嬉しかった。


「ていうか、さっきからリアルネームで呼んでるよね」

「あ、ごめん。つい……」

「まぁ、あんまり変わらないし、いいか。マリだけ特別ね」

「特別とか、気安く使わないほうがいいと思う…」


「気安くじゃないよ。私が特別だと思ったから特別なの」


 沙耶は、こうやって相手をおだてるのが得意なのだろうか?私が沙耶の特別なわけない……わけないけど、やっぱり言われると嬉しい。


「沙耶が男性だったら、私は勘違いして舞い上がってると思う……」

「女だったら?」

「舞い上がってます……特別なんて言われたら、誰だって嬉しくなっちゃうよ」


「ふふっ」と、いじわるな笑みを浮かべて満足気な沙耶。

 やっぱりナンパ師だ。



 ◇



 家の建設は結構単純だったので、私も建設スキルを取得して手伝うことにした。素材をクラフトして床、壁、屋根を繋ぎ合わせて形を作っていく。


 コテージのような二階建ての木造の家をつくり、家具を配置していく。

 座り心地の良さそうなイス、机には女の子らしくピンクのテーブルクロス、暖かそうな暖炉、庭を見渡せる窓にレースのカーテンを設置した。


 残念ながらテレビのような機械的な物は、素材が足りないのでまだまだ作れないみたいだけど、この世界が発展していくと、現実世界みたいな便利な家電だらけになったりするのかな。

 なんだか、この世界観には合わない気もするけど、自分達で作る世界なので、将来的にはどんな世界になっていくのかわからない。



 この場所をホームポイントとして、復帰地点に設定出来るオブジェクトもあるので、沙耶が設置する。


「これで今後、戦闘不能になったら、ここが復帰地点になるから安心!」



 私は全滅した時が不安なので、アイテムの保管出来る家具を探す。


「あ、倉庫があるみたい。開けるのにカギが必要だから、家が壊されても自分で取りにくれば大丈夫みたいだよ」


 倉庫に保管したアイテムは死亡時にロストしないので、使用しないアイテムは基本ここに収納しておく事にした。




 ◇




「おーい!お二人さんも、ちょっと来てくれー!!」

 家の建設も終わりに近付いた頃、外にいたツルギさんに呼び出される。


「どうしたの?みんな集まって」

 外に出ると、ツルギさんを中心に集落の人々が集まっていた。


「さっきの巨大モンスターの事だよ。あのまま無視するわけにもいかないと思ってさ」

「確かに、人が集まったとはいえ、この場所を狙われると結構な被害で出そうだね」

「やられる前に、こっちから仕掛けてやろうってことさ」

「でも、どうやって倒すの?一撃でかなりのHPを削られたから、まともにやりあってもジリ貧じゃない?」

「基本的にPTは6人までだが、アライアンス機能を使って6人PTを3つまで繋げられるんだ。この村から戦闘メンバーを18人選出して挑む」


 18人も……?

 そんなに大勢で挑むなら、さっきと違って少しは善戦出来るかもしれない。


「そこで、まず盾役を2人、回復役が3人、バフ、デバフ等のサポート役を3人、残りをアタッカー枠で挑もうと思う。誰か立候補する人は?」


「盾は私がやる」

 沙耶が即答した。

 私を助けるために何度もかばってくれたし、沙耶は確かに盾役が向いてる気がする。


「じゃあ、もう1人の盾役は僕が」

 もう1人の盾役はツルギさんになった。

 この二人が壁になってくれるのは、かなり頼りになりそうだ。


「ヒールは習得済みだし回復は私がやるわよん」

 ネカマさんが回復役に、セーラさんは魔法アタッカーに、他のみんなも立候補して、残りの役割も埋まっていく。

 そして残りはアタッカー枠が1人になった。


「残り1人誰かいないか~」

「いやー、俺はまだレベルも低くて戦闘もそんなに…」

「私も…」


 残りのみんなは、まだ戦闘に自信がないようで積極的に参加しようとしない。私も、その1人だった。


「んー、マリ嬢ちゃんはどうだ?さっき一戦交えたし経験があるのは大きいと思う」


「えッ!?私もあんまり自信ないんですけど……」

 重要な戦闘で自分が何かヘマをして全滅でもしたら……と思うと正直、荷が重い。


「私もマリを推奨する!さっきの戦いもマリがいてくれたから助かったし、自信持って!」

「う、う~ん…。そこまで言うなら、役に立てるかわからないけど、頑張ります」


 これ以上断っても無駄な気がしたので、引き受ける。何よりも必要とされてるなら、それに応えてみたい。アタッカーは大勢いるから、周りの動きを見ながらついていけば大丈夫だよね。


「盾役は防具や回復アイテム、アタッカーは武器を充実させよう」



 ◇



 村のみんなで素材を持ち寄り、クラフトで質のいい装備を作っていく。

 私は弓矢を装備して挑む事にした。


「沙耶、そっちはどう?」

「うん、盾と鎧と片手剣作ったよ。準備万端!」

「沙耶は敵の攻撃を受ける役でしょ?死なないように気をつけてね」

「私は大丈夫だって!それよりも、マリのほうこそ気をつけてね。アタッカーがヘイト稼ぎすぎると、そっちに攻撃いっちゃうから」

「う、うん。お互い頑張ろ!」


 各々準備を済ませ、PTを編成して先程カマキリと一戦交えた場所まで移動する。

 巨大カマキリは、まだ同じ場所で周囲のモンスターや、通りかかったPCを狩り続けていた。


「そこの団体さん助けてー!」

 今もまさに女の子のPCが鎌に挟まれ、もがき苦しんでいる。


「ありゃ助からんぞ」

「言ってないで助けるよ!カーマさん、プロテクトスキンかけて」

「了解!」


 沙耶がネカマさんに防御上昇魔法をもらって一気に突っ込んでいく。

 いよいよ戦闘開始だ――

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