繋いだ手
そんなこんなで、私は沙耶とキスしてから一晩中悶々としていたのだ。
ゲームの中とはいえ、とんでもないことをしてしまった気がしてならない。テンションが上がったり、ふざけあってキスする人達は度々いる。けど、昨日のアレはそんな軽々しいノリではなく、恋人同士がするようなロマンチックなキスで…。だから、どんな顔をして沙耶に会えばいいかわからないのだ。
「おはよう、マリ」
突然声をかけられてビクッとする。考えながら歩いていたから待ち合わせ場所に到着している事に気付かなかったんだ。
「お、おはよ…」
まともに沙耶の顔を見れない…私は一切目を合わさずに返事する。胸がドキドキする……二人きりだと耐えられそうにない……!会長、早く来て!
「じゃ、いこっか」
「え、あれ?会長は?」
いつもなら、私、沙耶、会長の3人で一緒に登校しているはずだ。
「マリ、見てないの?生徒会の用事で早く登校するから来れないってメッセ来てたよ」
言われてから確認する。確かに昨日の夜に会長からメッセが届いていた。沙耶の事で悶々としていたから確認してなかったんだ。つまり、二人きりで登校……。
「マリ、どうしたの?なんか様子おかしいけど」
むしろ沙耶が普通すぎるっていうか、多少気にしてもらわないと私だけが舞い上がってるみたい。ゲームの中の出来事だし、やっぱりそれほど気にしてないのかな……。
「沙耶は気にしてないの?昨日のこと」
私が意を決して聞くと、沙耶は「なんのこと?」と首を傾げた。私はちょっとムッとしてしまう。
「だから!その……キ…キ…」
「キスの事?」
沙耶が私の耳元に小声で囁く。
ゾクゾクっとして、まるでNW内での回避行動のようにステップを踏んで距離を取ると、目を細めた小悪魔スマイルで私を見ていた。最初から、わかっててからかったな…。
「沙耶のバカ」
「ごめん、ごめん。もっとしたいなら帰ってから、たっぷり…ね」
「ちがっ…そういう意味じゃないから!」
◇
「NCが生まれるのは一週間後だっけ、長いね」
あのキスの後に、動揺しながらも、しっかりとNCを作ったのだが、私と沙耶のNCは一週間後まで生まれないらしい。早い人は1日で生まれるのだが、遅い人は3~4日で生まれる。一週間を必要とするNCは今の所、報告はあがっていない。
「データ量が多いほど、生まれてくるのが遅いらしいけど、やっぱり沙耶のNos.の影響とか?」
「どうだろう?マリのスケベ心のデータ量が多いのかもよ」
「もう!沙耶ぁ!」
沙耶はちょっとした冗談を言って、緊張している私の気分をほぐしてくれる。沙耶のこういう小さな気遣いが大好き。
「ていうか遅刻しそう。ほら、いこ!」
沙耶が手を差し出してくる。
最近、沙耶と手を繋ぐことが多い気がする。自然に沙耶の手を取って、繋いで歩いてるけど……私は気になって周りを見回す。
友達同士で登校している人は、いっぱいいるけど……手を繋いでる人っていないよね。周りから見たら私と沙耶って、どんな関係に見えるんだろう?私は特に周りの目を気にしてしまうタイプなので、どんな風に思われているのか気になった。
「ねぇ、沙耶」
「うん?」
「私と沙耶の関係ってなんだろう?」
友達、恋人、家族、夫婦。
自分でもハッキリしていない沙耶との関係が気になった。
「私は友達以上の関係だと思ってる」
私の手を握ったままの沙耶は、なんの迷いもなく答えた。
そうだよね。今の二人の関係を明確に言い表す言葉って、私もよくわからない。だから曖昧な答えになるんだ。
「沙耶は私にとって大切な人。今はそれでいいんだよね」
「うん。周りの目、気になる?」
「ちょっとね」
でも、繋いだ手は離さない。
ずっと、ずっと、この手の温もりを感じていたいから。




