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輪唱

 モンスターであるはずのセイレーン、ヒビキにはリアル側のプレイヤーが存在する。その事を知った私達は、イヴさんからの指示でリアル側の(ヒビキ)を探す事になった。


「どうしよう……」


 とりあえず本名だけを伝えられた私達は、どうしたらいいのかわからずに途方に暮れる。



「あー……高校生って言ってなかった?」

「そ、そういえばそうだね。とうしよう……私、年下なのにヒビキちゃんとか呼んじゃった。怒られないかな?」

「あ、心配するポイントそこなんだ……?」



 天王寺響という名前と高校一年生。

 この二つの情報だけで探せと言われても…。



「こんなときこそネットで検索ですわ!」


 会長が携帯端末を掲げて叫ぶ。

 確かにネットを日記のように使う人は多い。名前を検索してみればSNSとか出てくるかもしれないし、一番簡単で有効な捜索方法だ。

 私達は、それぞれの端末で【天王寺 響】というワードを検索する。



「珍しい名前だと思いますけど、結構な数の候補がいますのね」


 ヒットしたのは10人程度で、ひとつひとつプロフィールを確認して、社会人や大学生を選択肢から排除していった結果、現役高校生で天王寺響という名前は一人に絞られた。

 さっそく響さんのページに飛んで、何かしら情報がないか調べてみる。


 最終更新日は5月下旬……今は8月なので更新が止まってから2ヵ月ちょいかな。スクロールして過去の投稿を見てみると、友達と一緒に撮った写真やペットの写真が並んでいる。


「うーん…手がかりになりそうな物は……」

「これは?」


 最近の投稿の確認をすっ飛ばして昔の投稿から調べていた沙耶が2年前の投稿を見せてくる。


「ホール?凄い立派な場所だね」


 画像を見るとコンサートホールのような場所の画像がアップされている。


「凄く本格的な場所だね。どこだろう?海外かな……」

「おそらくオーストラリアにある歌劇場ですわね。オペラやミュージカル、オーケストラの公演なんかをやる場所ですわ」


 海外まで見に行くなんて、よっぽど好きなんだろうか?画像と一緒に投稿されているコメントには「いつかここで」と書かれている


「ん~……どんな人物かはわかったけど、この情報で天王寺響を探せるかと言えば微妙か」


 出身地でも書いてあれば、どこに暮らしているかくらいはわかるけど、不特定多数に見られちゃうSNSで無闇に個人情報を垂れ流すのは危険なので、知り合いだけで繋がっていたら、わざわざアピールするものでもない。


 出身地……そういえばNWは現実の地形を元に作成され、初回にログインした位置情報がそのままゲームに反映されるシステムだ。もし響さんが正規にログインしているのなら、近くに住んでいる可能性もあるかもしれない。

 私は、とりあえず近場から当たってみようと提案した。


「イヴさんが把握していないイリーガルPCな時点で正規ログインしてるとも思えませんが、それしかないですわね」

「じゃあ、近場の高校を手当たり次第に当たっていこっか」


 高校を訪ねるなら制服を着たほうが何かと都合が良いので、1度家に戻り制服に着替え、生徒手帳を持って近くの高校に向かった。制服でいけば「来年の為の見学」とでも言えば怪しまれずに調査が出来るかもしれない。




 ◇



 最初は最寄りの高校へ向かう。

 男女共学の高校で、部活動に力を入れているらしく、野球やサッカーなどが、よく全国大会に出ているらしい。


 しかし部外者である私達が勝手に中に入るのはマズイかな…。

 いくら夏休み中とはいえ、グラウンドには部活動を行っている生徒が大勢いる。話しかけて天王寺響さんについて聞きたいのだが、顧問である教師の怒号が響いているガチガチの体育系のノリに私達は怯んでしまう。



「運動部の人達に声をかけるのはやめよっか。危険な匂いがする」


 珍しく沙耶が弱気だ。普段は決めたら即行動の沙耶も軍隊のような厳しい練習をしている運動部に近付いていく勇気はないみたいだった。私達は校門の前で通りかかる生徒を待って声をかけることにした。


「突然失礼します。少しお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」


 校門で待っていると、制服を着た女生徒が歩いて来たのを見て会長が声をかける。


『なんでしょうか?』

「この高校に天王寺響さんという在校生はいませんか?一年生だと聞いたのですが」

『天王寺響?う~ん、同学年だけど、私は知らないなぁ』

「そうですか。ありがとうございました」



 一人に聞いただけでは、まだわからないので数人に話を聞いてみたが、この学校にはいないみたいだ。

 その後、近場の学校を数件訪ねたけど、天王寺響という名前の人物を知る人はいなかった。


「残るは一校のみだね」


 海清(かいせい)女学院、それなりに有名なお嬢様学校だ。


「ちなみに海清は私の志望校!」

「えっ!沙耶、海清いくの!?」


 入学する条件は厳しく、倍率もかなりの物だとか。正直、沙耶と一緒の高校に行きたいと思っていた私は、その言葉を聞いて絶望した。


「憧れだったんだよね~、ここに通うの。マリは志望校決まってるの?」

「ま、まだ全然……」


 沙耶は一瞬考え込んでから、とんでもない提案をしてくる。


「じゃあさ、マリも一緒に受けない?」

「え…ええっ!?無理無理!私の学力じゃ無理に決まってるよ!」

「う~ん、マリはその気になれば勉強なんて簡単にこなしちゃうと思うけど」


 また適当な事を言う。簡単に勉強をこなせるなら、とっくにこなしてるってば。


「ワタクシも姫宮さんと同意見ですわ。NWでのマリさんを見ていると、常に自分で考えて行動し、窮地を脱出する方法を導きだして周りを救っていますし、やる気になれば勉強だって出来ますわよ」


 NWでの行動を勉強と結びつけられても、いまいちピンと来ない。けど、私はNWを始めて沙耶に出会った事で、自分にかなりの変化はあったと思う。挑戦くらいはしてもいいのかな……。


「受かるかはわからないけど、頑張ってみようかな」


 元々進路に関しては無関心だった私は、目標になる物を見付けて進学への意欲が沸いてきた。


「会長はどこか志望校あるんですか?」

「ワタクシは寮がある高校を受けるつもりですわ。親がいつ転勤になるのかもわかりませんし」


 会長は幼い頃から転校を繰り返していたので、両親の元を離れて寮か一人暮らしをする道を選ぶらしい。今は残りの中学生活を無事に過ごす事が最大の目標だとか。


「まぁ、例え別の学校になっても、貴女方とはNWで会えますしね」


 確かに、最近は毎日NWにログインしていてリアルで会う時間よりもNWで会う時間が増えていっている。それにイヴさんの言っていたNW移住計画が動けば、将来的には一緒に暮らす家族みたいなものだ。

 そんな会話をしていると、校内から出て来た部活帰りの在校生がこちらに歩いてくる。


『ごきげんよう。何か御用?あら、その制服…近くの中学の制服ですね』


 校門の前で怪しげな行動をしていた私達を不審に思ったのか、あちら側から声をかけてきてくれた。


「海清の見学希望ですか?」


「あ、はい。来年はこちらの海清に進学したいと思っていまして…」


 沙耶は自分が受験者だと言って生徒手帳を見せる。


「静月中学3年の姫宮沙耶さん…ですか。私は海清女学院一年生の東雲(しののめ)葉月(はづき)です」


 優雅にお辞儀をする動作に思わず見惚れてしまう。さすがお嬢様学校、仕草ひとつひとつが御上品だ。


 よ…よし、私も!


「わ、私は神崎茉莉です!よ、よろしくお願いします!!」

「あら、可愛い。よろしくね茉莉ちゃん」


 あれ、優雅に挨拶したつもりなのに…このお姉さんも、みんなと同じで小動物を愛でるかのように頭を撫でてくる。


「あ、あの…」

「あら、ごめんなさい。つい」


「ふふっ、マリはどこに行ってもマリだね」

「ええ?どういう意味?」


「うーん、まぁ、簡単に言うと可愛いってことかな」

「難しく言うと?」

「可愛い」

「もぉ~…」


「…え、えっと、見学って事でいいのかしら?とりあえず先生方がいらっしゃる場所まで案内するわね」



 ◇



 校舎に着くまでに長めの遊歩道があり、周りは木々に囲まれていて森林浴でもしているかのような気分だ。きっちり整備されている綺麗な道に私は目を輝かせる。


「綺麗だなぁ~」

「ふふっ、毎日通う事になったら有り難みも薄れちゃうけどね」

「そ、そうなんですか?でも、毎日こんな素敵な道を歩けるなんて、なんだか憧れちゃいます」


 しばらく歩くと、ようやく校舎が見えてきた。最近校舎の改装をしたらしく、かなり綺麗な外観の立派な校舎だ。


 教師に聞く前に、東雲さんに天王寺響さんの事を聞いておいたほうがいいだろうか。そう思って私達の少し前を歩いている東雲さんに後ろから声をかけた。


「あ、あの!ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど…」

「うん?なぁに?」

「東雲さんは天王寺響さんって方を知らないでしょうか?」


 その名前を聞いた瞬間、東雲さんの足はピタリと止まった。ゆっくりと後ろを振り返り、少し曇った表情を見せて答える。


「……なんだ、響の知り合いだったんだね」


 天王寺響さんを知ってるんだ。ようやく辿りついた手がかりなのだが、東雲さんの表情が少し曇った事が気になる。何かあるのだろうか。


「もしかして、響に憧れて海清に?」


 憧れる…?そんなに凄い人なんだ。確かSNSではオペラなどを嗜んでいる雰囲気はあった…セイレーンを演じているくらいの人物だ。歌の才能があるのかもしれない。


「えっと、そういうワケではなくて」

「違うの?響の歌は聞いたことある?」

「い、いえ。…あ、でも、ネットでなら少し」


 ネットと言っても、セイレーンであるヒビキの歌声なのだが、その時に聴いた歌はすごく美しい声だった。



「そっか、残念。響の歌声は本当に凄かったんだよ。出来れば生で聴いてほしかったな……もうこの世にいないなんて、信じられないよ……」



「…………え?」



 この世に……いない?

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