畑を耕しませんか?
「畑を耕しませんか?」
一学期の終業式が終わり、ようやく夏休みに入った日。とあるTV番組に影響された私は自分でクラフトしたクワを担いでトリデンテのマイホームで沙耶と会長の二人に提案した。
「どしたの急に」
「畑仕事……ワタクシも是非やってみたいですわ」
「この世界で生きていく事になったら、食糧確保が必要になるかもしれないよ!」
「でも、今の所は空腹ゲージとかないよね…このゲーム」
NW社の会見の時に空腹に関する質問もあったが、【食事なんて面倒だから廃止派】と【食事は人生の楽しみの一つだから必要派】で意見が割れている状態らしい。
今後のアップデートで空腹ステータスが追加される可能性はあるらしいが、現在の食事アイテムは、一時的にステータスを上昇させるドーピングアイテムの役割を果している
「……でも畑耕したくない?」
野菜の栽培を一度やってみたいという理由も、もちろんあったが、一番の理由は村の申請書を提出して正式に村と認められた場所で作られた野菜は、その地域の特産品扱いされて名前に地名が付加されることになる。
例えばトリデンテで育ったキャベツはトリデンテキャベツ、トリデンテニンジンと言った風に特別な名前のアイテムになるのだ。せっかく正式に村として認められたのでやってみたいなと思った。
「確かに村に食料があったほうが何かと便利かもしれませんわね」
「まぁ、それもそうだね…よし、じゃあ耕しますか!」
◇
さっそく作業を開始した私達は、まずは畑のスペースを確保することに。以前はいくつも家が建っていたけど、ログインしていないユーザーのマイホームは、たまに襲撃してくるモンスターによって破壊されてしまった物がいくつかある。なので、その跡地を畑のスペースとしてもらう事にした。
落ちている石や木の枝を取り除いて、地道にクワで耕していく。住人が三人しか居ないので、まずは小さい畑を作って作物を育てることにした。
「うーん、何作る?」
種は採取で入手したり、モンスターからドロップする事がある。
現在所持してる種は5種類
・キャベツ
・とうもろこし
・ニンジン
・ダイコン
・スイカ
「どう料理するかによるんじゃありませんか?マリさんは何を作りたいのです?」
料理かぁ……。夏と言えばスイカだけど、スイカは料理って感じじゃないし、ダイコンはなんだろう……おでん?
「うーん、無難にキャベツにしようかな。生でも美味しいし、炒めてもいいし」
「よし、じゃあキャベツの種を蒔こうか」
耕した場所に沙耶がキャベツの種を蒔いていく。
そういえば潮風が吹く場所は野菜によくない影響が出るって聞いたことがある。トリデンテは海の近くの村なので、潮風はモロに直撃する……キャベツは大丈夫だろうか?
「水は一日二回やったほうがいいらしいですけど…品質に影響が出るだけで一日一回でも枯れることはないみたいですわね」
「夏休み期間は二回でも大丈夫だけど、学校があると二回は厳しいですよね」
「そこでNCじゃない?ほら、二人の遺伝子データを混ぜてNPCを生み出すってやつ」
NC…ネクストチルドレンが実装されれば、生み出したNCに店番をさせたり、村の雑務をまかせたり出来るらしい。
つまり、私がログインしていない時も畑に水をやったり、店を開いて店番をしてくれたり、村を襲撃に来たモンスターを撃退したりもしてくれる。
ただし、自我のあるNPCなので100%指示通りに動いてくれるとは限らない。まぁ、言ってしまえば私達人間との違いはないに等しい。生まれが現実世界か電脳世界か…ただそれだけの違いだとイヴさんは言っていた。
「NCシステムですか。夏の大型アップデートの目玉と言われてますわね」
「聞いた話によるとメイドみたいな感覚っぽいけど」
「そういえば、あなた達は二人でNCを作るって言ってましたわね」
あなた達とは、私と沙耶の事だろうか。
いや、聞かなくてもそれしかないんだけど…
「い、言ってませんよ!アレは沙耶の勘違いで…」
「ふーん。じゃあマリは私とNC作るの嫌なの?」
「嫌じゃないけど…もっとよく考えたほうがいいかなって…ほら、新しい命なわけだし、そんな簡単に決めれることじゃないよ」
ただのNPCならともかく、自我を持っているNCだ。ちゃんと責任を持って考えたいなって思った。
「そっか……そうだね。でも、私はマリと一緒にNC作りたいから、考えておいてね!」
「う、うん」
NCを生み出すのは、この村にとっても良い事なんだと思う。私達3人がログアウトしてる時は、村が無人になってしまうから防衛の面で不安があるのだ。
そんな事を考えながら蒔いた種に水をやり、今日はログアウトした。




