防具を強化しないといけませんわ!!
「防具を強化しないといけませんわ!!」
私達がNWを始めてから約一ヶ月。夏休みに入ろうかという頃、トリデンテにあるマイホームでくつろいでいた私と沙耶に、会長がまくし立てる。
「どしたの急に」
「あなた達!最近だらけていませんこと? この世界で生き抜く事になったら装備の強さが物をいいますわ」
あの事件以降、目立ったイベントもなく、私達は家具の素材になりそうな物を集めたり、釣りをしたり、トランプをして遊んで過ごす事が多くなっている。
「た、確かにそうですね。特に防具は身を守るための装備だし」
「その通りですわ! だから競争率が上がる前に良い素材を確保しないとなりませんわ」
防御を強化したい…その希望はわかるんだけど、私には他に物凄く気になってる事があるのだ。
「会長、その前に1つ聞いてもいいですか?」
「あら、なんですか?」
「な、なんでいまだに武器が初期装備の木の枝なんですか…?」
そう、会長はNWを始めて一ヶ月近く経とうとしているのに、未だに冒険初日に拾った木の枝を使っているのだ。
「え、だってこの武器は"伝説の"木の枝だと以前おっしゃったじゃありませんか」
伝説の木の枝……始めて間もない会長に沙耶が確かに言った気がする。
それを聞いた沙耶が『え…まだ信じてたの…?』と、申し訳なさそうな顔をして言う。
「う、嘘だったと言うのですか」
「ごめんごめん。いや、まさか信じると思ってなくて」
会長は木の枝を見つめて黙り込む。
お…落ち込んでるのかな…。
そう思った瞬間、すぐに顔を上げると、
「例えこれが一般人にとってはただの木の枝であったとしても、ワタクシにとっては、お二人と一緒に初めて冒険した記念の証。伝説の武器にも匹敵する価値のある木の枝ですわ!」
「会長…そうですね! 素敵な考えですよ!」
私も、沙耶に作ってもらった木刀を記念に飾ってあるのだ。沙耶から初めてもらったプレゼントだから…私の大切な宝物。
「いやいや、いい話っぽくまとめようとしてるけど、木の枝じゃ限界あるってば!いくらアンタのNos.スキルが強くても二時間に一回しか使えないんだから」
「む、では武器も新しい物を作らないといけませんわね。この木の枝はワタクシの部屋に飾っておきましょう」
そういうと会長は自分の部屋に入って行き、私と沙耶の二人きりになる。
「いや~まさか、まだ信じてると思わなかったよ…」
「なんだか会長に悪い事しちゃったね」
「んじゃ、お詫びにうんといい装備を取りに行くとしますか!」
そう言って私達は掲示板やSNSでレアモンスターや素材の情報を集める事にした。
以前のデスサイズ・マンティス戦と違って今は18人の大規模討伐軍が組めないので、3人で倒せるような小型のレアモンスターがいいかなぁ…。
現在トリデンテの住人は3人。ツルギさんやカーマさんは引退し、数人は執行者にPKされ、残りはあのロスト・メモリーズ事件以降ログインしてきていない。結果、残ったのは私、沙耶、会長の3人だけになってしまった。
◇
「情報が出回ってるのは、アライアンス必須の強モンスターばっかりだなぁ」
沙耶がため息混じりに言う。
情報がないとなれば、自分達で探し出すしかないだろうか。
「ねぇ、沙耶。海辺の洞窟って知ってる?」
「洞窟? そんな所あったかな」
NWで実際に行ったことはないのだが、現実世界では海の近くに小さな洞窟があり、子供の頃、私はよく1人で遊んでいたのだ。
「へぇ…なんだか良さそうだね。行ってみよっか」
「うん! ……あれ、会長遅くない?」
二人で会長の部屋に行くと、会長はまだ木の枝をどこに飾るか悩んでいた。
「いつまで悩んでるのよ…コップに立てておけば?ほら、歯ブラシみたいに」
「思い出の品を歯ブラシと一緒にしないでください!」
結局、木の枝は会長の部屋のドアにネームプレート代わりに取り付けることになった。
◇
私達は近くの海辺まで辿り着き、隅の方にひっそりと存在する洞窟を確認する。
「よかった。こっちの世界にも洞窟あるみたい」
「なんだか本格的なダンジョンっぽいですわね」
「現実世界ではもっと小さい洞窟なんですけど……NWでは大きな洞窟に改良されてるみたいですね」
私が遊んでいた洞窟は10メートルあるかないかのちょっとした洞窟だったが、この洞窟は奥が見えないくらい深い。本当に三人で大丈夫かな…。
「まぁでも洞窟ってことはデスサイズみたいなアライアンス必須の巨大モンスターはいないんじゃないかな。ほら二人とも行くよ!」
沙耶は先陣を切って突入する。確かに巨大モンスターが配置出来るほど大きくはないのだが、フィールドと違って暗いので独特の雰囲気がちょっと怖い。
「沙耶ぁ…そんなに急いで進まないでよ~」
私は沙耶の袖を掴みながらおっかなビックリ進んでいく。だって、こういう雰囲気の場所っていきなりモンスターが……。
そう思った瞬間、予想通りバタバタと音を立ててモンスター現れた。
「ひぃぃ!」
思わず沙耶にがっちりとしがみ付く。
「ちょ…マリ! 戦闘準備しないと!」
敵は小さいコウモリ型のモンスター、【リトルバット】の群れだ。沙耶は剣を抜いて構え、私も弓を射る準備をする。会長も武器を構えて………ない。どうしたんだろう?
「……武器がありませんわ」
「え?」
「木の枝を部屋に飾ってしまったので武器がありませんわ!」
……そうだった。
そういえば会長って木の枝しか持ってなかったから手放したら武器がなくなるわけだ。
「なんで新しい武器入手してから飾らなかったのよ!」
「だってアナタ達も止めなかったじゃないですか!!」
「き、来ますよ!」
リトルバットの数は全部で五匹。私は一匹に矢を撃ってこちらに引きつける更にもう一匹に【影縫い】を発動して、移動の制限をした。
会長は武器がなくてもメインは魔法攻撃だ。武器の魔力補正がなくなるので威力は落ちるけど問題なくダメージは出るはず。
「会長、一匹足を止めたので魔法を!」
リンは【スノードロップ】を唱えた → リトルバットに 200 のダメージ
その一撃でHPはがっつり減る。大量に配置されている雑魚モンスターなのでそこまで強くはないらしい。
残りの三匹は、防御力の高い盾役の沙耶が引きつける。沙耶はレア装備であるリッターシールドを装備しているので、雑魚モンスター三匹程度なら余裕で耐えられるはずだ。
私と会長はそれぞれの担当したリトルバットを撃破し、沙耶に加勢して難なく片がついた。
ドロップアイテム
【コウモリの羽】
【コウモリの牙】
クラフト画面を開き、作れる装備を確認する。
【コウモリマント】
ただ防御力が上がるだけの装備みたいだ
「マントかぁ……これじゃ会長の武器作れませんね」
「マント! ワタクシ、マントに憧れがありましたの。是非作りましょう」
「あ、はい。そういえば防具も強化するんでしたね」
会長は建築のクラフトスキルしか解放していないので代わりに私がクラフトしてマントを作成していく。
どうやら会長はレベル上がった際のスキルは全部魔法習得に使っているらしい。そのうちバトルに特化した戦闘狂みたいになりそうだ。
◇
その後も雑魚モンスターを狩りながらどんどん洞窟を進んでいく。思ってたよりも深いなぁ……帰り道わからなくなったりして……。
「ねぇ、見て! なんか洞窟の奥が光ってない?」
先頭を行く沙耶が指差す方を見ると、洞窟の奥が金色に輝いていた。死角になっていて見えないが、その輝きは財宝の山を予感させる。
「宝箱ですわ! 宝箱に違いありません!!」
会長はそう言うと、光の方向へ走って近付いていく。徐々に見えてきた光の正体、当然のようにお宝だと思って近付いたのだが、そこに待っていたのは宝箱ではなく黄金に輝くコウモリ……【ゴールデンバット】だった。
「なっ…なんですかこのコウモリ!」
明らかに他の雑魚モンスターとは違う雰囲気のコウモリを見て、急いで沙耶が会長の前に立ち、体勢を整える。ゴールデンバットの数は二匹……。
ゴールデンバットAの攻撃 → サーヤに 106 のダメージ
ゴールデンバットBの攻撃 → サーヤに 122 のダメージ
「うわっ、思ったよりも攻撃痛いんだけど!」
「まかせなさい!ワタクシのNos.スキルで一気に殲滅しますわ!」
「あ、会長! 待っ――」
リンの【ファストアリア】が発動
リンは【川霧の舞】を唱えた
→ ゴールデンバットAに 400 のダメージ
→ ゴールデンバットBに 400 のダメージ
その後も会長が【ファストアリア】の効果で連続範囲魔法を叩き込んで大ダメージを与え、合計4回程撃ちこんだところでMPが尽きる…。
……MPが尽きるだけならいいのだが、大ダメージを与えた術者は当然ヘイトを稼いでしまうわけで……。ゴールデンバットは、それまで攻撃を受けていた沙耶を完全に無視して会長に全力で攻撃を仕掛けてくる。
ゴールデンバットAの【ゴールドウィング】 → リンに 580 のダメージ
ゴールデンバットBの【ゴールドファング】 → リンに 639 のダメージ
会長の最大HPは1500、一気にゲージが減って赤くなる。
「守って…【アイギス】」
沙耶のNos.スキル【アイギス】が発動して会長を守り、更にダメージをHPに変換する効果で会長のHPはだいぶ回復する。
「まったく、あんたの【ファストアリア】が強いのは認めるけど、使い所を考えなさいよ」
瞬間的な火力は高いけど、その分だけ瞬間的にヘイトを稼いでしまうので開幕から使うと当然バランスが崩れて集中放火を食らってしまう。
「む、ボス戦では使い難いのですか……このスキルがあれば無敵だと思ってましたのに」
「HPが多い敵には終盤の追い込みで使うのがベストだと思います」
「なるほど……ではサーヤ! リキャストタイム回復までの二時間耐えなさい!」」
「無理に決まってるでしょ! さっさと追撃してよ!!」
会長はMPが尽きているので瞑想体勢に入り、MP回復に努め、私は弓で遠距離から狙いを定めてゴールデンバットにスキルを発動する。
マリの【乱れ撃ち】が発動
ゴールデンバットAに 850 のダメージ
ゴールデンバットBに 797 のダメージ
あ、あれ? こっちもダメージ出すぎじゃない!?
乱れ撃ちはダメージが分散するから複数の敵に撃った場合もっとダメージが低くなるはずなのに!
「マリ、そっちいったよ!」
大ダメージを受けたゴールデンバットが、今度は標的を私に変更して突進してくる。一匹は沙耶が【挑発】を使い引き戻すが、もう一匹までは手が回らないようだ。
ゴールデンバットAの攻撃 → マリに 316 のダメージ
ただの通常攻撃なのに結構なダメージを受けてしまう。このコウモリ、防御力が低いけど代わりに攻撃力が高いんだ。
攻撃を受け続けると、さすがに厳しいので、私は【影縫い】でゴールデンバットAを縛り付け【透視】でHPを確認する。
【ゴールデンバット】
HP10000
弱点 雷 弓
耐性 闇 風
なるほど…弓が弱点だから想像よりも大きいダメージが入っちゃったんだね。飛行タイプの敵に弓矢がよく効くのはRPGではよくあることだ。
会長の魔法ダメージが400×4、私の乱れ撃ちが約850ダメージで残りHP7550くらいだろうか。
開幕で全力を出した会長にああ言ったけど、弓が弱点で尚且つ極端に防御力の低い相手に最高倍率の【サイレントアロー・零式】を叩き込んだら、どうなるだろう……っと、ちょっと想像してしまう。
「沙耶、ごめん! ちょっと無茶するね」
「え! あ、うん!?」
私は【縮地】を使い、一気にゴールデンバットAとの距離を詰めて【エアリアルアロー】を打ち込む。そしてそのまま体操選手のように空中でひねりを入れて回転し、相手の背後に着地して【サイレントアロー・零式】を最高倍率で発動する。
マリは【サイレントアロー・零式】を発動 → ゴールデンバットAに 10660 のダメージ
マリはゴールデンバットAを倒した。
「き……気持ち良い!!」
「とんでもないダメージがでましたわね……」
NWを始めて以来、最高記録のダメージを更新した私は、あまりの快感に舞い上がりログをスクショして保存する。
「す、凄いのわかったから、こっちにも加勢して……こいつの攻撃痛いから私でも死にそうだってば」
「ご、ごめん」
会長が沙耶を回復し、スキルのリキャストタイムが終わると、私はもう一度大ダメージを撃ち込んで戦闘を終わらせた。
ドロップアイテム
【黄金バットの羽】x4
【黄金バットの牙】x4
「まぁ! レアっぽい素材がいっぱいですわ!」
「えーっと、作れる装備は…光杖・イルミナルだって!」
「ぉぉ! 杖ってことは後衛タイプの会長にピッタリですね」
必要素材の牙4つと羽1つで杖をクラフトして会長に手渡す。
これもまた思い出の品になるんだよね。こうして1つずつ私達の宝物が増えていくんだ。
「あ、残りの羽で丁度マント3つ作れるみたい」
そう言って沙耶がマントをクラフトする。
そうして完成した品を受け取り、みんなで装備していくが、装備してみるとなんとも言えない気持ちになる。
「こ…これはなんというか…」
「うん…」
ダサい。とてつもなくダサい。
金色に輝くマントを三人で羽織ってる姿はなんともシュールな光景だろう。私と沙耶は無言でマントを取り外したが、会長だけは違ったようだ。
「黄金に輝くマント! 素敵ですわ!……あら? 二人共、何故マントを外すのです?」
「え!? えっと…」
「黄金に輝くマントを羽織るのは異世界の申し子に許された特権……私達は、まだそのレベルに達していないのよ」
また適当な事言ってる……。
「まぁ! そうだったのですね。これからはこのマントに恥じない行いをしなくては」
そう言って会長は黄金のマントを愛おしそうに見つめる。
まぁ、これも宝物……なのかな?




