リン
「鈴川沙綾です。夢は異世界へ行くことです!」
ワタクシが小学生6年生になって、新しい学校に転校して来た初日、こんな自己紹介をしてクラスのみんなに大笑いされた事件があった。
なんで笑うのです?異世界に行きたい願望を持つのはおかしい事なのですか?
その自己紹介が原因で、私はクラスで孤立した。
『あの子、ちょっと変わってるね』
『異世界に行くための方法とか、本気で話し始めるし』
『勉強出来ても、あれはないな~』
ワタクシに関する話題は、こんな物ばかりでした。話しかけても無視され、異世界菌が移るから近寄るなと言われ、状況はどんどん悪化していきましたわ。
ワタクシは1年間、ずっと我慢して過ごしました。中学に入る前に引っ越す事が決まっていたから、もう、ここの人達とはお別れ。
両親は転勤が多く、転校ばかりしていた私は1~3年で人間関係がリセットされることに慣れていた。
早く……早く転校したい。
◇
中学に入ってからは、異世界願望がある事を隠して過ごしました。あの時の孤立は、ワタクシの心に大きな傷跡を残しトラウマになってしまったから。
優等生として過ごす事に決めたワタクシは、本を読み漁った。本の中には別の世界が広がっていて、自分がその世界の住人になった気分にさせるのです。
けれど、その本の中に行きたいって気持ちを口に出すと、またバカにされてしまうのかしら。
将来は、小説家になろうか研究者になろうか悩んでいます。小説家になって本の中に自分の世界を作ってしまおうか…研究者になって異世界転生の実験をしようか。
早く……早く大人になりたい。
◇
隣のクラスに、姫宮沙耶という凄まじい人気を誇る女子がいます。成績優秀でテストの結果もワタクシとほとんど同じ点数で、何かと比較されることが多いですわ。
年に一度行われる運動会。そこで私は最後の種目、クラス対抗リレーでアンカーを任されることになりましたわ。
リレーは白熱して、ワタクシは一番でバトンをもらい、姫宮さんのクラスが2秒程遅れて二番目でバトンを受けた。
ワタクシはクラスの中で、一番速いタイムだったからアンカーを託されました。
けど、姫宮さんは悠々と私の上をいった。バトンを受けてコーナーを曲がる頃には追い抜かれてしまい、結果は二位。
『せっかくアンカー託したのに、逆転負けか』
『やっぱ、姫と委員長じゃ比較にならないな』
『まぁ、最初から信用してなかった』
周りはワタクシと姫宮さんの比較で盛り上がってる。なんで、ワタクシは叩かれているんだろう。精一杯やりましたのに。
次の日から、ワタクシは早朝のランニングをするようになった。
速く……もっと速く走りたい。
◇
中学二年目も終わりに近付いた頃、ワタクシは次期生徒会長に立候補しました。全校生徒の前で当たり障りのない演説をして、結果は姫宮さんに負けて投票数は二位。演説内容はみんな同じような内容だったので、結局最後はタダの人気投票になっていたのですが、元々やる気のなかった推薦枠の姫宮さんは辞退という形で私が生徒会長に決まった。
なら最初から立つな!と、思いたくもなるのですが、投票が終わるまでは辞退も出来ないルールを作った学校側に責任がありますわね。
「ごめんッ☆ごめんッ☆」なんて、軽い態度でわざわざ謝りに来た彼女とは、よく口論になります。
そういえば…こんな風に感情をぶつけ合って口論するのなんて初めてですわね……。
◇
生徒会の仕事をしていると、可愛い女の子から声をかけられた。
NWでお世話になったと言ってましたけど、ちょっと何を言ってるのかわかりませんでしたわ。もしかして、異世界からの使者だったのかしら。
◇
世間が大規模記憶障害事件で騒がしい。一体、何が起きているのか。まさか異世界転生の前触れなのでしょうか。
ニュースをチェックすると、原因となったゲームの制作会社の会見が始まった。
NWというゲームが原因らしい……NW?どこかで聞いた気がしますわ。そうだ……確か、あの時に出会った異世界の使者が口にしたワードですわ!NW社の会見を見るに、このNWというゲームが新しい世界だとか。
異世界移住の準備しなくちゃいけませんわね。
◇
お昼休みに屋上へ行くと、偶然、異世界の使者と遭遇しました。あの後気になって調べたのですが、名前は確か……神崎茉莉さん。
NWについてに聞いてみたら、いかに素晴らしいゲームかを熱弁されましたわ。
聞けば聞くほど楽しそうですわね、オンラインゲームを買った事がないので、どうやってプレイするのかわからなかったワタクシは、神崎さんと姫宮さんにご教示願う事になりました。
早く……早く新世界に行きたいですわ。
◇
二人を家に招いた時、大事件が起きてしまいました。
聖書を発掘されてしまったのです。
ベッドの下に隠せば大丈夫だと思いましたのに!
異世界菌の再来かと思いましたけど、二人はワタクシの事を避けたりしなかった。一緒に遊んでくれる…そう言ってくれました。
とても嬉かった……神崎さん、姫宮さん、ありがとうございます。
◇
初めてNWにログインしました。その景色の美しさに夢中になっていて、後ろから来たネズミの存在に気付きませんでしたわ。
キラーマウスの【ポイズンブレス】→リンは毒になった
「なに?なんですの!?前が見えませんわ!体力も減ってるじゃありませんか!」
キラーマウスの攻撃→リンに37のダメージ
キラーマウスの攻撃→リンに57のダメージ
キラーマウスの攻撃→リンに43のダメージ
リンは戦闘不能になった……
異世界に降り立った直後だというのに死んでしまいました。
ゲームでなければ、人生が終了する大惨事ですわ。この世界が独立する前に、もっと学ばなくては……。
神崎さんと姫宮さんが助けに来てくれましたけど、蘇生魔法を覚えていないらしく諦めてスタート地点へ戻る事にしました。
私が蘇生魔法を覚えたら、二人は喜んでくれるでしょうか?役に立って、恩を返せるでしょうか。
◇
ワタクシの家が完成しましたわ!
色々ありましたが、お二人と一緒に住む事になりました。ここがNWでの私の家……こっちの世界では、みんなでテーブルを囲んで一緒にご飯を食べたいですわ。
◇
不穏な噂を聞きました。
他人のアカウントを破壊し、永久にログイン制限をかけるPKがいるらしいのです。この美しい世界で楽しむ権利を無理矢理剥奪するなんて、退場させられた人の気持ちを考えると胸が痛いですわ。
◇
皆さんはまだログインしていないので、今日は一人でレベル上げをしてみますわ!
昨日は皆さんと一緒に狩りをして、戦闘のコツも掴みましたしスキルも色々と習得出来ました。
しばらく狩りをしていると、マリさんからメッセージが届きました。
近くに噂のPKがいるらしいのです。ワタクシは急いで村に戻りましたが、そこで目にしたのは二人組の前で横たわるマリさん。
相手に気付かれないように視界を奪う魔法を唱えて奇襲を仕掛け、マリさんに蘇生魔法をかける。マリさんは喜んでくれたかしら?
『来てくれるって、信じてました』
よかった。自分を信頼してくれる仲間がいるって、こんな気持ちですのね。
その言葉がほしくて、ワタクシは頑張った。
努力もしたし、無理もしました。
あなたの、その一言がワタクシの心に力をくれた。
◇
1度は好転した状況でしたが、相手の強力なスキルによって、マリさんが再び戦闘不能に……。
ワタクシはすぐにリザレクションで蘇生を試みますが、相手の攻撃によって詠唱は中断させられてしまう。
攻撃魔法で牽制しようとするも、そちらも中断させられてしまった。
執行者は赤く光るエフェクト発してスキルを発動しようとしてる。
おそらく、この攻撃を受けたらワタクシはアカウントを破壊されてしまうでしょう。そしてマリさんも。
ここで倒れてはいけない
ワタクシは託されたんです
ワタクシに託してくれた想いを…もう後悔させたくない!
速く、もっと速く……
加速して…ワタクシの想い!
― skill No.7 ―
【ファストアリア】




