正体
その槍はセーラさんの物だ。
何故、執行者が…その武器を持っているの?
いくつかの可能性を考えた私は、目的を時間稼ぎから仮面の破壊に変更する。
マリの攻撃→unknownにミス
私は弓を構えて執行者の顔面を目掛けて弓を射るが、あっさり避けられてしまった。
対モンスターとの戦闘と違い、対人戦はお互いのHPがモンスターと比べて少なく短期戦になりすいので、相手の攻撃をいかに回避するかで勝敗が決する。
いくら不意をつき有利な状況を作り出して戦っている卑怯者とはいえ、噂になるくらいの人数をPKしてきた猛者だ。そう簡単には当たらないか……。
私は執行者との距離を保ちながら、何度か矢を放つが全て避けられてしまう。
遠距離から矢を放っていれば相手の攻撃を受ける事もないけど、こちらの攻撃も届くまでに時間がかかるため、1vs1の対人における弓の通常攻撃は相手にとって避けやすいタダの威嚇射撃みたいなものだ。
かと言って得体の知れない執行者と近距離で1v1の殴り合いをする度胸が私にはない。キルされたら、そこで終わりなんだ。慎重かつ迅速に事を進めないと。
何かしらの変化をつけないとダメだ。
(なら、これで……!)
私はスキル【乱れ射ち】を発動する。空に向けて放った矢は、まるで花火のように散らばり、矢の雨となって降り注ぐ。
その一瞬で放たれた矢は、実に20本。いくら執行者といえ、頭上から降り注ぐ矢の雨を全て回避する事は不可能だろう。
執行者は必死に回避を試みるが、矢の数が多すぎて避けきれないようだ。
異質な見た目で不気味だから、まるで何をしても敵わない理不尽なボスキャラやチートキャラかと思ったけど、そうじゃない。この執行者は間違いなく、人間が操作してるPCだ。
マリの【乱れ撃ち】が発動→unknownに合計179のダメージ
ヒットしたいくつかの矢が,執行者のHPを削る。ゲージを1割程削った所で矢の雨は止まるが、仮面の破壊を目的をしてる私は、間髪入れずに再び執行者の顔面を目掛けて矢を放つ。
しかし、執行者は余程仮面の下を見られたくないのか、ピンポイントで顔面を狙って来る矢を的確に回避する。
――!そこまでして顔を見られたくないの…?
執行者は私との距離を詰めようとダッシュで駆け寄ってくるが、私はスキル【影縫い】で、執行者の足を止める。
これで動けない内に矢を……。
と、執行者が技を繰り出すモーションに入る。
腰を深く落とし、槍を後ろに引いて力を溜める。
え…そんな距離から出せる技があるの?と思ったが、あの槍はデスサイズ・マンティスの素材で作ったレア武器…つまり専用スキルがあるんだ!
気付いた時には、もう遅い。執行者は槍を突きだすと、槍の尖端から放出された風が回避する間もなくレーザーのように私を貫いた。
unknownは【真空一閃】を発動→マリに411のダメージ
最初の不意打ちのダメージと合わせて私の残りHPは50%になる。
(マズイ…さすがにダメージをもらいすぎちゃった)
回復アイテムを使いたいが、アイテムを使った直後の硬直は約5秒。その隙に高火力の攻撃を受け続けたら回復した意味がなくなる。だったら回避に重点を置いて隙を伺うほうが安全だ……だけど今は、あまり時間を掛けたくない理由がある。
救える命があるかもしれない。もしかしたら、その人はもう…この世界にいないかもしれない。だけど、例えそれが1%の確率でも…私は――
【乱れ射ち】!
先程と同様に乱れ射ちで上空に注意を向け仮面に向けて矢を放つ。当然、注意を怠っていない執行者は矢をひらりと交わす。
私の矢に注意が向いているうちに【ステルス】を使い姿を隠すと、私の姿を見失った一瞬の隙をついて即座に【縮地】を使い距離を縮め、背後からスキルを撃ち込む。
マリは【サイレントアロー・零式】を発動→unknownに944のダメージ
背後からゼロ距離で放たれた矢は最高倍率の火力を叩き込み、予想外の奇襲を受けた執行者のHPは40%まで減少し、形勢逆転。だが、まだ手を緩めない。
零式を叩き込んだ際に巻き起こる土煙に紛れ、私はそのまま武器を大鎌に可変させ、【真空波】を発動して仮面にピンポイントで叩き込み、部位破壊を行う。
執行者のHPは10%にまで減少。執行者は想像以上の猛攻に焦ったのか、背を向けて逃げ出そうとする。
「逃がさない!聞きたいことがあるんだ!」
私は、逃げようとする執行者を【影縫い】で足止めし、その正体を見届ける。
「その仮面の下を見せてよ……執行者!」
執行者の仮面に、ひび割れのエフェクトが入り、ゆっくり崩れ落ちていく。
その仮面の下から出てきた顔は、本当に私が見たかった物なのか、見なければ良かったのか……わからない。
なんで…なんでよ……
なんでアナタが、こんな事をしているの……?
あんなに楽しそうにNWをプレイして……
みんなを守る事に必死になって
一緒に村を作って……
一緒に戦った仲間なのに……
――なんでよ、ツルギさん……




