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執行者

 赤く光る十字傷…心当たりがある。確かアレは私達の村で……。


 私達の村でPKが……?それもただのPKじゃない。キルしたPCを永久にNWから追放する執行者。それが私達の村に現れたんだ。



「あ、あの!私、その十字傷見ました!私達の村に確かに刻まれてて……」

「え?じゃあ近くに例のPKがいるって事?」

「近くにいるだけじゃないですよ。被害者がいると思います……私達の村から少なくとも一人」



 もし遭遇したら…キルされてしまったら、私は二度とNWにログイン出来なくなる……今後、現実世界がどうなるのかわからない以上、それだけはなんとしても避けなきゃならない。


「村に戻ったら、遭遇してしまうかもしれませんわね」


 あの十字傷があったのは村だけど、執行者が村に留まっている可能性は低いと思う。

 十字傷を見たのはNW社の会見があった日の夜。それから何度かログインしたけど執行者らしき人物とは遭遇していないし、あの会見後に村で見かけたプレイヤーはセーラさんだけだ。



「相手もあちこち動いてるみたいだし、どこにいても結局は同じじゃない?」


「そ、そうだね。沙耶の言う通りだと思う……それにマイホームには許可がないと入れないし」


 まぁ、許可がなくても壁を破壊したら無理矢理入れるのだが、壁が破壊されるような荒い攻撃をしたら、こちらも気付くはず。

 戦闘体勢に入ったら戦闘が終わるまでログアウト出来なくなるけど、攻撃される前にログアウトしてしまえば問題ない。



 ◇



 レベル上げも一段落して村に戻ると、さっそくみんなを十字傷の場所へと案内する。

 私達の家からは離れた村の中心地にある家の壁、そこに執行者が残したであろう傷跡…十字傷が刻まれていた。



「本当にありましたわね……神崎さん、この傷は一体いつからあったのですか?」

「3~4日前からありました」



 時期的には噂が出始める前か、その直後の出来事だろうか?



「ふ~ん……。マリちゃんってリアルの名前、神崎マリちゃんなの?」


 え、なんで?と思ったが、翌々考えたら会長ってば私の事を現実世界と同じように苗字で呼んでる……。


「会長~!マリって呼んでくださいよ~!ここNWの中なんですから」

「ご、ごめんなさい。私としたことが…つい」

「へぇ~、リンさんは会長なんだ?」

「あ……ごめんなさい会長……つい」


 しまった。私も会長を会長と呼ぶ事が当たり前になっていたので自然と出てしまった。リアルの知り合いとゲームをすると、こんな罠が潜んでいたなんて。



「これからはマリさんと呼ばせてもらいますわね」

「は、はい!私も、これからはリンさんって呼ばせてもらいます!」

「別に私は会長のままでいいですわよ。隠す事でもありませんし……それよりも!姫ッ――……サーヤさん!その名前をなんとかなさいな」


 会長に名前を指摘された沙耶は「なんでよー!」と膨れっ面になって反論する。現実世界の会長の名前が『沙綾』なのでサーヤと呼ぶのに抵抗があるらしい。



「いやー、そんなこと言われても名前変更システムないし」


 基本的に名前は重複不可のオンリーワン。同じ名前のPCは存在しない仕様になっている。



「ならば、私も沙耶と呼ばせていただきます」

「だーめ、その呼び方はマリだけに許した特別なんだから」


 お、覚えててくれたんだ!その事が嬉しくて、あの時はナンパ師なんて言ってごめんねと心のなかで謝っておく。

 セーラさんが「この二人のノロケに飲み込まれちゃダメよ!」と会長に声援を送るのを見て、ノロケてません!とお決まりの台詞を返す。


「仕方ありませんわね。ではサーヤの名前は譲って差し上げます」


 譲るも何も私のだし!とツッコミを入れながら、こちらもいつものじゃれ合いが始まり、先ほどまでの暗い雰囲気が吹き飛んでいった。

 ただ、警戒だけはしっかりしておくべきなので、みんなで用心しておく事を確認し合って、この日はお開きになった。





 ◇





 ずいぶん遅い時間まで遊んじゃったなぁ。時計を見ると、深夜の二時になろうかという時間。


 寝ようかと思ったけど、噂のPK【執行者】の事が気になって、少し調べてみる。噂の出所はSNSだったっけ。

 私は前に作ったまま放置していたSNSのアカウントにログインして気になるワードを検索をかけた。




 ◇




【アニータ】

 今日NWにログインしたらPKされたんだけど、そいつにPKされてから何故かログイン出来なくなったわ。なんでだ?


【椎名】

  お、噂のPKじゃね?そいつどんな格好してたん?


【アニータ】

 フードでPCの顔は見えなかったよ。アサシンみたいな格好で、背後からいきなりやられた


【椎名】

 性別もわからんのか


【アニータ】

 わからん




 ◇



 フードを被り、性別もわからないPCかぁ…。これだけではよくわからないので、他にも何件か調べてみる。



 ◇



【じゃがいも畑くん】

 噂のPKに遭遇して戦ったけど、あっさり負けました。まじでログイン出来ない


【ポテトサラダ】

 NW社に問い合わせした?


【じゃがいも畑くん】

 問い合わせたけど、テンプレ回答しか返って来なかったよ。こんな適当な対応で、新世界がどうとか言われてもねぇ。


【ポテトサラダ】

 確かに(;´д`)PK見かけたら、仇打ちしておくわ!

 戦闘スタイルはどんな感じだった?


【じゃがいも畑くん】

 近接攻撃メインで、魔法スキルは使用してなかった。


【ポテトサラダ】

 ほ~。なら遠距離から魔法でサクッと不意打ちを……。


【じゃがいも畑くん】

 むしろ相手が不意打ち狙ってくるから、先に見つけるの無理かも。




 ここまでの情報をまとめると、執行者はフードを装備して顔を隠したPCで、魔法を使わない近接タイプ。正面から来るのではなく、不意打ちを狙って来る。そのままPKされるとログインが不可能になる。

 普段ならタダの噂話として無視するけど、この執行者が近くを徘徊している可能性があると思うと、安心して冒険出来なくなっちゃうよ……。



 とりあえず、今日はもう寝る事にする。そういえば、沙耶と会長に明日の予定を聞いてなかったなぁ……。まぁ、起きたらメッセ送ればいいかな。





 ◇





 翌朝、10時になっても布団に包まってスヤスヤと寝ていた私は、雪ちゃんに叩き起こされ、まだ寝ていたい気持ちを抑えて、泣く泣く一日をスタートさせる。

 こんな遅い時間に食べると朝食なのか昼食なのかわからないが、雪ちゃんの用意してくれた食事をチマチマと食べていく。



「お姉ちゃん、最近ゲームばっかりしてるね。今年は受験なんだから成績落とさないでよね」


 受験かぁ……未だに志望校すら決めてない私は、適当に近くの高校に進学しようと考えているので、あまり重要なイベント感がない。成績は中の上で、褒められもしなければ怒られもしない平凡なラインだ。


 そういえば沙耶や会長って、どこの高校に進学するんだろう……。あの二人は学年トップを争ってる優等生中の優等生だから私とは目指す場所が違う気がする。


 こんな風に二人の事を考えていると私が二人と一緒にいるのが、ますます不思議に思えてくる。

 まぁ、少し前までは縁もゆかりもない人達だったしなぁ……二人に志望校を聞いてみようと思いスマホの画面を見ると会長からメッセが届いていた。



【沙綾】

 みなさんまだ寝てるのかしら?私は先にログインしてレベルを上げておきますね。



【沙耶】

 一応起きてるよ~!用事済ませたら合流するね。





 会長、もうログインしてるんだ。沙耶は用事があるので、今日は遅れるらしい。





【茉莉】

 私は今起きたよ~。ご飯食べ終わったから私もインします(#^^)/





 そういえば、いつも沙耶と一緒に冒険してたから沙耶のいないNWにログインするのって初めてかも。会長は始めたばかりなのに、もうソロでレベル上げ行ってるんだ。と……そこで私は不吉な事を思い出してしまう。

 ソロプレイヤーを後ろから不意打ちで切り裂き、強制的にNWから排除する執行者の事を。




――会長が危ない!!




 食器洗っていってよ!と怒鳴る雪ちゃんを他所に、私は急いで自分の部屋に戻りNWへログインする。







 ログインすると、すぐに異変に気付く。

 傷だ……二つ目の十字傷が、地面に刻まれていた。

 またここで誰かがPKされた……?


 私は不安になり、急いで会長にメッセを飛ばす。





【マリ】

 無事ですか?どこにいますか?1人は危険です


【リン】

 あら、マリさん。大丈夫ですわよ。

 ソロで狩れる敵を選んで慎重に狩りをしていますわ。


【マリ】

 執行者が近くにいるかもしれないです。

 ソロプレイヤーを後ろから不意打ちする事が多いらしくて


【リン】

 そ、そうなんですの?たしかに、近くにいる可能性が高い今は危険かもしれませんわね。急いで村に戻りますから、そこで合流しましょう。





 とりあえず、会長は無事みたい。よかったぁ……。

 と…安心した私だったが、その瞬間、背後からの鋭い一閃が体を貫いた。




 unknownの攻撃→マリに93のダメージ。



 え?



 不意をつかれた私のHPが減少していく。

 まさか…と思い振り返り、その姿を確認する。



 フードを被り仮面で顔を隠した不気味な風貌、背後からの襲撃、間違いない……執行者だ。

 名前を確認すると、unknownと表記されている。unknownという名前ではなく、ステータスや名前を他人に知られたくないときに使うコマンドを使用している時の状態…それがunknown。



 大丈夫、思ったよりも冷静だ。

 とにかく、時間を稼げば会長も駆け付けてくれる。

 いくら執行者でも、数的有利を作り出せば対処出来るはず。


 戦闘体勢に入ってしまった以上、今からログアウトして逃げることは不可能。会長が到着するまで、少しでも時間を稼ぐんだ。


 私は執行者と距離を取って対峙する。私は可変武器を使っているので、近距離なら大鎌、遠距離なら弓で使い分ける事が可能だ。どちらにも対応出来るから、例え実力で負けていても、可変武器の特性を活かして1vs1である程度有利に戦えるはずだ。


 本来、武器の持ち変えをすると、10秒のペナルティーが発生して大きな隙を与えてしまうが、可変武器は1つの武器を変化させて戦うのでペナルティーは発生しない。



 私は対峙した執行者を見つめる

 しかし…そこで私は、ある事に気付く



 相手の武器は槍…

 そして、その槍には見覚えがあった。


 ちょっと待ってよ…

 何故、執行者が…その武器を持っているの?

 だってその槍は…トリデンテは……セーラさんの武器だよ…。




「返してよ……その槍は、私の仲間の物だ!!」

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