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一緒に暮らしませんか?

 会長と冒険する約束をしてから二日間。私と沙耶は、会長とレベル差が開きすぎるとPTバランスが悪くなってしまうので、なるべく戦闘は避けることにし、会長の家にNW専用VRが届くのを待ちながら1日30分程度ログインして、釣竿を作って釣りをしたり、マイホームでゆっくり雑談したりして過ごした。


 会長のためにアイテムや装備を用意しておこうか迷ったけど、結局用意しない事に決めた。

 始めたばかりの初心者にアイテムをあれこれ渡してしまうと、自分で強くなる楽しみを奪ってしまう気がしたから。


 この期間中、出会った村の住人はセーラさんただ一人だった。みんな、あの騒ぎでNWと距離を置いているのかな。



 ◇




 翌朝、沙耶と待ち合わせしてる交差点に向かうと、沙耶の横にもう一つ人影があった。


「おはよう沙耶!会長も、おはようございます!」

「おはよ!マリ」

「おはようございます。神崎さん」


 今日、会長の家にVRが届くらしく、夜になったら一緒にプレイしようと約束した。明日は休日なので長い時間ログインしていられる。


「はぁぁ……楽しみですわ。新しい世界!次なる世界!地球とサヨナラする日がついに!」

「いや、まだサヨナラ出来ないから」


 すっかり異世界への切符を手にした気になっている会長は浮かれ気分でスキップをしていた。あの会見が本当の事を言っているとは限らないから、ぬか喜びにならないといいけど。


「とりあえず、移住とか世界の終焉とか考えずにゲーム楽しんでみてよ。絶対楽しいから!」


 私も、沙耶の意見に同意だ。確かに会長がNWに興味を持ったきっかけは、あの会見かもしれない。だけど、最初は単純にNWの楽しさを感じてほしいなって思った。



「そうですわね。NW社が言うには、NWをプレイして、魅力を感じた人だけが新世界に移住すればいいとの事でしたし」


 会長も、ただ異世界へ行けるというだけではなくゲームそのものにも興味を持ってくれていた。武器の作り方や、どんなモンスターがいるかなど、熱心に事前情報を集めて予習してるみたい。



「じゃ、とりあえずお昼は屋上集合だからね!」

「…アラームセットしておくね。もう授業遅刻して怒られたくないよ」




 ◇





 お昼休み、いつもの場所へ行こうとすると、空が曇って雨が降ってきた。

(天気予報じゃ晴れだったのに……)

 スマホを見ると沙耶から連絡があり、待ち合わせ場所を変更して私のクラスでお弁当を食べる事になった。





 ◇




 沙耶と一緒にいるだけで注目されるのに、今日は生徒会長まで一緒のテーブルを囲っている。しかも、この二人が犬猿の仲なのは有名だったらしく、その二人が同じテーブルでお弁当を食べているのは私が原因だとか噂されてしまっている。


「神崎さんが原因というのは、あながち間違いでもないですわね」


 会長が周囲の声を拾い、話題に出す、


「私がですか……?」

「あの時、神崎さんがワタクシに話しかけてこなければ、こうして一緒に居ることもなかったでしょう?」



 確かにあの時、私が人間違いで会長に声をかけてNWの事を口走ってしまい、NW社の会見を見た会長が偶然屋上で会った私と沙耶に……って流れだった。


 いや、でもNWを始めた私に最初に声をかけてくれたのは沙耶で、それがきっかけで一緒に冒険するようになったし…沙耶のせいかも。


「沙耶のせいだよ」


「ちょっと~!なんでよッ」


「沙耶が私にナンパしたのが始まり」と呟くと、私達の会話に聞き耳を立てていた野次馬がざわつく。


 しまった……変な誤解をされたかもしれない。



「うーん。まぁ確かに…マリは私の初めての相手だったし、運命感じちゃったんだよね~」


 その発言も際どいっ!


「ワタクシも、ついに今日、初体験ですわ……なんだか緊張しますわね。神崎さん、優しく教えてくださいね」

「は、はい。私も不慣れですけど…頑張ります!」



 それを聞いた野次馬がまた湧いている。

 やってしまった。この二人、野次馬の反応見ながら、わざと際どい発言してる……なんて事を思いながら、私はお弁当を食べた。


 二人って仲悪く見えるけど、なんだかんだで沙耶も素の自分を出してるし、会長も凄く楽しそう。これがいわゆる『喧嘩するほど仲が良い』ってやつなのかな。


 私は喧嘩する相手なんていないから、この二人の関係も少し羨ましいなって思った。まぁ、沙耶とは喧嘩なんてしないで、ずっと仲良くしていたいけどね。




「会長はキャラの名前は決めましたか?」


 NWを始めるにあたって、まず一番最初にやることはキャラメイク。私は現実世界の自分に寄せて作り、名前もそのままマリにした。沙耶はクールな女騎士をイメージした美人でカッコいいキャラ、名前はリアルネームをもじってつけたサーヤ。

 キャラクリエイトは自分の好みや個性が出るので、会長がどんなキャラを作るのか興味があった。



「名前はリンにしますわ」


 リン…リアルの苗字をもじった名前だろうか。



「へぇ~。鈴川……鈴……リンって事?安直だなぁ」


「あなた達二人に言われたくないですわ!ていうか、なんでアナタがサーヤを名乗ってるのですか!交換なさい!」






 ◇






 学校も終わり家に帰宅してログインした私は、沙耶と一緒にマップを確認しながら会長の元へと急ぐ。会長の家には先日行ったばかりなので場所は大体把握している。スタート地点は、ここからそう遠くないはずだ。

 道中絡んでくる敵を倒し進んでいくと、ようやく会長が見えた。会長がどんなキャラを作ったのかワクワクしながら近付いていくと……うつ伏せになり、ピクリとも動かない。


 死んでる…見事なプリケツを晒しながら。


「ありゃりゃ、合流間に合わなかったね」


「い、良いお尻してますね」

 なんと言っていいかわからず、とりあえずお尻を褒めてみる。


「いやぁぁ!見ないでください!……って、もしかして神崎さんと姫宮さん!?は…早く蘇生を!」


 現実世界のスムーズに仕事をこなすデキる女、鈴川沙綾の姿はどこへやら、まさかこの世界で初めて目にする会長の姿が、こんなに情けない姿だとは。


「あ、ごめん。私もマリも蘇生魔法習得してないんだよね。悪いけどチェックポイントに戻ってよ。まだアイテムも経験値もないから大丈夫なはず」


 熟練者ぶってた癖になんで蘇生も出来ないのですか!と言いながら会長は言われた通りにチェックポイントへ戻る。

 まだ家を作っておらず、ホームポイント設定をしていないので数十メートル離れたスタート地点に戻されたみたいだ。



 会長のキャラは黒髪に短めのポニーテール、身長は私より高め。容姿も現実の会長に似ている感じだった。



「まさか、いきなりネズミが襲いかかってくるとは思いませんでしたわ!こちらは丸腰だといいますのに」


 どうやら会長も、私と同じく巨大ネズミに絡まれたらしい。武器や薬草さえあれば苦戦せずに倒せるのだが、毒のブレスで視界を奪ってきたり、丸腰の状態で出会うことの多い初心者キラーになっている。


「聞いた話によると、神崎さんの時はピンチに颯爽と現れ、見事救出したそうですわね。何故ワタクシの時は…」


「だから間に合わなかったんだってば。死ぬの早すぎでしょ」


「これがリアルならワタクシの人生終わってましたわ。異世界……なんて恐ろしい場所なの……」


 実際プレイヤーのHPが0になることが【死】だとしたらリスクがかなり高い世界になる。地球で例えるなら、いきなりサバンナに放り出されるようなものだ。この世界で暮らすなら、まずは自分の身を守る力が必要になるだろう。


「ところで、武器はどこで手に入れるのですか?私はエクスカリバーやミョルニルがほしいのですが」


「あんた意識だけは高いね……」


 伝説級の武器が序盤から入手出来るわけもなく、とりあえず落ちている木の枝を拾って、その場を凌ぐ。

『なんで私が木の枝なんかで戦わねばならないのですか…』と渋っていたけど、沙耶が「それは伝説の木の枝だよ」と、口からデマカセを言うと、会長はあっさり信じこみ木の枝を大事そうに抱えて歩き出した。



 沸き出てくるモンスターを三人で倒しながら私達の村に向かう。レベルアップした会長は、魔法をメインに習得している。

 私達が蘇生魔法を持っていなかった事が余程尾を引いているらしく、ならば自分が魔法を!と意気込んでいる。会長曰く異世界と言えば魔法らしい。


 結果的に沙耶が盾、私がアタッカー、会長は回復や攻撃魔法を使う万能型の後衛になり、かなりバランスの取れたPTになって、三人で行動する際は安定した戦闘が期待出来そうだ。



 ◇



 村に着くと、私達の家に会長を招き入れる。


「私とマリは一緒に住んでるけど、あんたはどうするの?一緒に住むなら、もうちょっと家を広くするけど」


「そうですわね……その提案も魅力的ではありますけど…ワタクシ 、自分で家を作ってみたいので、ひとまず一緒に住むのはやめておきますわ」



 会長は自分で家を作る事を決めて、さっそく建設作業に取り掛かる。場所は私達の家のすぐ隣で、材料は、ここに到着するまでの道中に拾った物を使い、足りない分は村で管理してる倉庫から頂くことにした。


 家は既に数十件建っているのだが、なんだか廃村みたいになってるのが悲しい。

 このゲームは初期から配置されているNPCがいないので、PCがログインしていないと町は静まり返っている状態だ。


 NW社の会見に、NPCについての質問もいくつかあったのを思い出す。

 現在NWにNPCは存在しないけれど、後々はプレイヤー同士でPCの遺伝子データをやり取りして新しい【ネクストチルドレン】を作り出すシステム、通称NCシステムを導入するという。

 簡単に言うと子供を作るという行為と同じなのだが、生まれる命は乳児ではなく、二人のPCの情報を受け継いで生まれることになる自我を持ったNPC……いや、人工知能…AIと言った方が近いかもしれない。

 ある程度生活に必要な知識も受け継がれるため、本格的な子育てなどは必要ないという。電脳世界ならではの便利さと言った所だろうか。



「マリ、どうしたの?」


 NPCについて考え込んでいた私に沙耶が話しかけてきたので、NCシステムについて聞いてみた。


「子供かぁ…まだ私達には早い気がするけど…マリがほしいなら、私はいつでもOKだから」


 うん?私がほしいなら?いつでもOK?

 意味がわからず、聞き返す。


「えっと、何が?」


「え?わざわざNCについて聞いてくるから、私との子供がほしいのかなって」


「なっ…ナニ言ってるの!エッチ!ヘンタイ!」



 沙耶は、私が求愛してるように見えたらしく、とんでもない勘違いをされてしまった。

 珍しく…というか初めて声を荒げてる私を見て、一人でクラフトしていた会長も作業を中断して「なんですの?」と、近寄ってくる。


「沙耶が唐突にセクハラ発言を……」

「ええ!?先に話題を振って来たのはマリでしょ!」

「あ、そういえば、沙耶って前もエッチなサイト見てウィルスに感染してたよね!」


 それを聞いた会長が、沙耶に軽蔑の眼差しを向ける。


「ちょっと!それ違うから!マリ、また記憶飛んでるでしょ!」



 事情を聞いた会長は「あなた達って絶対に喧嘩しないと思ったけど、痴話喧嘩はしますのね」と、呆れてクラフト作業に戻っていってしまう。私と沙耶は「違うから!」と、会長の後を追いかけて会長の作業を手伝う事にした。




 ◇




「近くない?」


 作業をしていると、沙耶が唐突に呟く。そう、会長の家と私達の家の距離が明らかに近い。人ひとり入れる隙間もない程に。


「そんなことありませんわ……このくらい普通です」

「いや、どう考えても……あんた、もしかして寂しいの?」



 そういえば、会長の両親は仕事で忙しくて帰ってこないことも多いんだっけ……。



「あ、あの。やっぱり会長も一緒に暮らしませんか?みんで暮らす方が、賑やかで楽しいですよ」


「ま、まぁ…どうしてもというなら、一緒に暮らしてあげなくもないですけど」


 似たような台詞を数日前にも聞いた気がする、私と沙耶は二人で同時に叫んだ。


「どうしても!」


 会長は少し照れながら「仕方ないわね」と頷いてくれた。


「じゃあ、家と家を繋げちゃおうか」

「そんなことが出来るのです?」


 沙耶は会長の家に隣接してる壁を取り壊し隙間を埋めて家と家を繋げると、2つの家はあっさり1つに繋がった。



「凄いですわね。こんなに簡単にリフォームまで出来るなんて」

「データ世界ならではの特権だね」




 無事に家も完成し、三人で今後どうするか話し合っていると、セーラさんがログインしてくる。

 会長とセーラさんは顔を合わせるのは初めてだった為、セーラさんに会長を紹介して四人でレベル上げしに行くことに。






 ◇






「噂話……ですか?」


 狩りの最中、セーラさんが、掲示板で話題になっているNWの噂について語り始めた。


「そう、そのPCは無言で近付いてきて、NWを楽しんでいるプレイヤーを見つけては有無を言わさずにPK開始……そして、その戦いに敗れると負けたプレイヤーは二度とログイン出来なくなる」



 PKかぁ……私達はまだ村周辺からあまり行動範囲を広げていないけど、冒険を続けてたらいずれは遭遇するのかな。



「ログイン出来なくなるって、アカウント停止になるような行為してた人の言い訳じゃなくて?」


「どうだろうね~。3日ほど前からSNSで拡散され始めた噂だよ」



 もし、そのPKが存在するとしたら、正体はやはりNW社の人間なのだろうか?運営がアカウント停止者を処分するための演出……としか考えられない。

 沙耶も私と同じ考えらしいが、会長は『気になる噂ですわね。もっと詳しく』と、真剣な表情でセーラさんの話に食いついている。異世界転生願望の件といい、会長は刺激を求める人種なのかな。



「まぁ、常識的に考えたら運営が犯人なんだけど、キルされたプレイヤーは普通に遊んでいたって言い張ってるし運営は問い合わせに対しても、そのような事実はございません。のテンプレ回答なんだよねぇ」





『それと、その噂のPKは現場に特殊なサインを残すんだって』




――赤く光る十字傷を

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