呼ぶ声
双海視点
「ねぇユキ、シウスちゃんがNos.に発現したって!」
「それどころじゃないんで集中してください! 目の前のミルナーさんをなんとかしないと……」
シウスちゃんがNos.に目覚めて盛り上がってる片隅で私とユキは操られているミルナーさんと地味な勝負を繰り広げている。ミルナーさんの扱う大鎌はリーチと攻撃範囲に優れ、迂闊に近付くと二人同時に被弾してしまう。
「私が先陣を切るので、ミルナーさんが私に向かって鎌を振り下ろしたら先輩はその隙を狙ってミルナーさんに攻撃を仕掛けてください」
「ちょいちょいちょい! 待った待った!!」
「なんですか、おかしな事言いました? 一番有効な作戦ですよ」
「それはそうだけどさーー、瞳子ちゃんがそんなことを許すと思うかい?」
「……言ってる意味がわからないんですけど」
「可愛い後輩に先陣切って囮をやらせるなんてこと、瞳子ちゃんが許すと思うかい……ってこと!!!」
「先輩風吹かせてないでいきますよ! しっかりやってください」
「うをい!」
ここは私がかっこよく囮を引き継ぐ流れじゃないのか!?
ユキは私の言い分をあっさり却下すると有無を言わさずミルナーさんに突っ込む。本当に可愛くない後輩だ。ていうか先輩なんだから先輩面させてよ。普段から先輩って呼ばれてるし!!
「先輩!!」
ほらまた先輩って呼んだ。
ユキはミルナーさんに突っ込み、ミルナーさんはユキに対して鎌を力いっぱい振り回す。それを軽やかにジャンプで回避する。元々囮が目的で、回避に集中していたこともあり、あっさりを回避に成功している。それを見た私はタイミングを見計らって勢いよくミルナーさんに向かって突進して刀を突き刺した。
「どうだ!!」
私の渾身の突きを受けたミルナーさんの動きが止まり「やったか!?」と高らかに叫ぶ。しかしその言葉を聞いたミルナーさんはぴくっっと反応し、手にしていた釜を私に向けて一振りした。
「ぎゃん!! 生きてるじゃん!!」
「ああ、なんで先輩が被弾してるんですか!」
完全に気を抜いた私はミルナーさんの攻撃を受けてしまい吹き飛ぶが、今度はユキが背後からミルナーさんを一突き…………しようかという所で手が止まった。そしてユキは大きくバックステップをする。
なんだ?
おかしい……今の瞬間、ミルナーさんは完全に無防備だった。何故、ユキは攻撃を躊躇った? しかしユキの言葉を聞いて、本当におかしいのは私だと思い知った。何故そこに頭が回らなかったのだろう、と。
「先輩……ここでミルナーさんを倒したら……ミルナーさんはどうなるんですか……?」
「あ……」
そう、蘇生が機能していない今の状態でミルナーさんのHPを削りきり、戦闘不能に追い込むとどうなる?残機を奪う事になるのだ。それも……私達の手で、直接。
まずい、どうしたらいい?いくらなんでも自らの手で人の残機を奪うなんて事、できるわけない。
「きゃあ!」
「ユキ!!」
考え込んでる間もミルナーさんは攻撃の手を止めてくれない。そもそもミルナーさんのこの状態、いつまで続くのだろうか。時間がくれば自然に解けるのか、死神を倒すまで解けないのか、それともミルナーさんを倒さないと解除されないのか。効果時間が設定されているならば解除されるまで耐久戦に持ち込めばいいので話は早いが、そうでなければ何かしらの手段を考えないといけない。
頭の回転が遅い私は良い案が思い浮かばずに「うーんうーん」と唸る。
「先輩、何か相手の動きを止めるスキル、ないんですか!」
「動きを止める……影縫いは効果時間短いからなぁ」
「麻痺とかそういうのは!?」
刀にそのようなスキルはなかったはず。
ならば蛇流根はどうだろう、と自分の習得しているスキルを思い返す。
――――あった!
【グラウンド・インパクト】
ジャンプして地面に向かって大きく蛇流根を振り下ろし衝撃波を発生させるスキルで稀に気絶効果を付与する。
気絶は相手が一切行動不能になる効果。気絶中に再び攻撃すると効果が解除されるが、こちらが攻撃せずに放置すればその効果は長く続く。確率が稀でもなんでもやるしかない。
そのためにはまずミルナーさんを回復してもらわないといけない。自分達でミルナーさんのHPを削っておいてなんだけど、【グラウンド・インパクト】をヒットさせた瞬間に戦闘不能になってしまっては意味がない。
トリルさんはシウスちゃんの回復に専念しているのでこちらに協力してもらうのはちょっと気が引ける。となれば……。
「何? 助けが必要かな? なんでも言って」
私の視線に気付いたマルが自ら話しかけてきた。
本当に目聡いというか視野が広いというか、とにかく気が利く人なのだ。
その気配りは戦闘以外でも発揮される。例えば合宿所の食材の在庫が少なくなっていると、言われる前から補充してあったり、どこかへ遠征にいく時は回復薬を多めに持ってきて前衛に配ったり、手伝ってほしい事を言い出しにくそうにしている人に自ら助け舟を出したり、世話焼きな性格と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
「ミルナーさんを気絶させるから、グラウンド・インパクトをヒットさせてもミルナーさんが戦不能にならない程度に回復よろ!」
「オッケー!」
マルは私の言葉を聞いてミルナーさんに回復魔法をかける。するとミルナーさんのHPは40%まで回復する。グラウンド・インパクトは衝撃波による範囲攻撃と気絶付与を目的とするスキルなので威力自体は高くない。
「40%もあれば大丈夫かな……よっし」
マルが回復してるうちに武器を刀から蛇流棍に持ち替えた私は、ミルナーさんに向けて【グラウンド・インパクト】を発動する。
空中から叩きつけた蛇流棍はドスンッ!と地面が揺れるかの如く大きな音をたて、その地点を中心に円形の衝撃波が発生する。
私とマルがやり取りしてる間はユキがミルナーさんを引きつけていてくれたので、こちらからの攻撃には完全に無防備になっていて難なくヒットした。
しかし残念ながら気絶効果は付与されていない。
「もう一回!」
「オッケー!」
マルが再び回復魔法をかけ、私がグラウンド・インパクトを発動する。
しかしまた気絶付与は失敗。
「もっと!」
「わかった」
失敗。
「まだまだ!」
「はいはい」
失敗。
「ほらほら回復!」
「わかってるってば!」
失敗。
「諦めるなー!」
「諦めてないわよ!」
失敗。
「…………」
「ほら、はやく撃って!」
失敗。
「もうやめていい?」
「自分が諦めてるじゃん!!」
そして繰り返すこと数十回。
ようやくその瞬間が訪れる。
「やりました先輩、気絶しましたよ!」
私がグラウンド・インパクトを撃っている間、ずっとミルナーさんを引きつけていたユキの声が響き、ようやく気絶付与が成功した私は「よしっ!」とガッツポーズをする。
これでこちらから攻撃しない限り、ミルナーさんはしばらく動けなくなるはず。
それにしてもマルはかなり器用だ。私達に協力しながらも、死神を相手している本隊へのサポートも忘れていなかった。クイーンが直々にスカウトしたのも頷ける。
ミルナーさんを気絶させた私達はすぐさま本隊に合流し、死神の体力を削るタスクに戻ると、本隊の方は死神の激しい攻撃にさらされていた。盾であるシウスちゃんとレールさんのHPゲージは回復しては直ぐ様真っ赤になり、かなり危険な状態だ。
死神のHPは85%
クイーン&ミサンガという強力なダブルアタッカーが削ってもまだ85%も残っているのだから途方もない。
シウスちゃんのNos.は対象と自分を入れ替える奇術のようなスキルらしい。再使用時間は5分で使い勝手が良いNos.と言えそうだ。とはいえ、入れ替わったシウスちゃんは被弾する。姫の【イージス】のような絶対防御ではなく、自分を犠牲にして他人を守るスキルだ。
当然トリルさんやさとりちゃんは回復の手を抜けない。そして再びヘイトコントロールが乱れ、今度はさとりちゃんに攻撃が襲いかかる。
「さとりさん!!」
さとりちゃんがターゲティングされるのを見てシウスちゃんはNos.を発動。シウスちゃんとさとりちゃんの立ち位置が入れ替わり、シウスちゃんが被弾する。
そして被弾したシウスちゃんをマルが回復すると、今度はマルに攻撃が襲いかかる。マルはその攻撃をひらりと回避し、その間に今度はトリルちゃんがシウスちゃんを回復し、もう一枚の盾であるレールさんが挑発を使って死神のターゲティングを引き戻す。そしてアタッカーの4人は地道に死神のHPを削っていく。
かなりバタバタした状況であるが、見事な連携で乗り切っている姿を見て、もしかしたら死神を倒せるんじゃないか、と期待が膨らんできた。
が、その時だった。
『意外と頑張るね……こっちも面白い玩具を投入しようかな』
どこからともなく聞こえてきた声に全員が気を取られる。
「誰!?」
真っ先に声をあげたユキ。
クイーンやミサンガちゃんも周囲を警戒している様子を見るに、これも想定外の出来事なのだろう。目を凝らしてよく見ると、声のした木々の奥のほうから二つの人影が歩いてくるのが見える。
「ん……ミランダさんにカトルくん?」
その姿は樹海に入ってから死神に辿り着く間の道中に姿を消した二人だった。
戻ってきた……? と思ったが違う。私は盾の二人に向かって「避けて!!」と叫ぶ。
二人はそれぞれシウスちゃんとレールさんに向かって、持っている武器を振りかざしていた。死神本体からの攻撃に気を取られていたシウスちゃんとレールさんは完全に不意打ちを食らう形になり、大ダメージを受ける。
もしかしなくてもあの二人も操られてる。私は盾を助けにいこうとミランダさんとカトルくんのいる方向へ駆け出す。しかし、背後から私の足に何かが絡みつき、体勢を崩して転んでしまった。
「先輩!!」
「痛ッ……何事~」
自分の足を見ると、鞭が絡まっていて、どうやらこの鞭の持ち主が私に対して攻撃を仕掛けてきたようだ。
操られているミランダさんとカトルくんは私の前方に、そしてミルナーさんは気絶している。
じゃあ誰だ……誰が私に攻撃をした? 私の知っている限り、この死神討伐PTに鞭を使う人は帯同していないはずだ。
「久しぶりだね」
聞き覚えのある声だった。
「ずっと待ってたよ」
聞き間違えるはずもない。
「殺したい程に…………」
でもなんで。
「…………ねぇ、瞳子」
この世界で、私を『瞳子』と呼ぶ人物は一人しかいない。
私は振り返って、その名を口にする。
「なんで…………ミドリ」




