重圧
双海視点
この死神討伐の本当の目的ってなんだろう。というかそんな目的があるならもうちょっと周りに気を使って話すべきじゃないの!? まさかクイーン、私なら深く考えないから大丈夫だなんて思ってる? いや、まさか、そんな。
こう見えても私は色々と考えている。考えているけどわからないので、とりあえず戦いに集中しよう。
アタッカー陣の活躍により露出した死神の本体に向けてミサンガちゃんが炎魔法を撃ち込むと、死神のHPが減り始める。しかし魔法アタッカーのほとんどが戦闘不能になってしまったから物理アタッカーが予定の倍は頑張らないといけない。
「二人はそのまま残りの装甲を剥がして頂戴」
「本体が十分露出したのにですか?」
本体に攻撃を打ち込めるだけの露出があるし、装甲を剥がす事に時間をかけるより、全員で本体に攻撃して削りのスピードを上げたの方が効率がいいのでは、と思った。
「刃の装甲を残すと再びデスライサーが発動するでしょ。だから残りも剥がした方がいいわ」
「なるへそ」
枚数が減った分、飛散する刃も減るが、こちらの人数も減っているので刃を減らした方がいいって事か。私とユキが引き続き装甲剥がし、ミサンガちゃんとクイーンは本体へ攻撃して削りを、それぞれ担当する事に。
「よっし、そんじゃ瞳子ちゃんの全力を見せてやるか〜!」
残りの刃の枚数は400枚前後。
「結構残ってるな、みんなもうちょい叩き落としてくれてれば楽できたのに」
「80枚以上叩き落とした先輩がおかしいんですよ! 普通は回避しますから」
「というか私に80枚飛んでくるのがおかしいんだって! 私に対する殺意が強すぎる」
でもまぁ、おかけで82枚の刃を破壊出来たのは大きい。その分装甲を削る時間を短縮出来るのだから。
私は盾役からターゲットを奪わないようにヘイトコントロールしながら、残っている装甲をユキと一緒に地道に削っていく。
残り350枚…300枚…250枚…。
その間に魔法アタッカーであるミサンガちゃんがガンガン死神を削っている。しかしヘイトコントロールなんてまったく考えているようには見えない……見えないがミサンガちゃんが死神にターゲティングされる事が一度もない。
理由は簡単。ミサンガちゃんはNos.5【ステルスマジック】の発現者だからだ。
そしてそのステルスマジックは常時発動型。どんなに高火力の魔法を撃ってもヘイトが一切上がらないという効果を持つ。
「脳筋なら絶対ほしいよねぇ、あの能力」
「自衛と火力を両立させるって事ですからね…………っていうかミサンガさんのNos.の影響なんじゃないですか、先輩に82枚の刃が飛んできたのって」
「むっ……………そういう事かッ!」
デスライサーがランダム攻撃とはいえ、ヘイト値の影響は少なからずある。つまりヘイト値がゼロに等しいミサンガちゃんに刃が向かわなかった分、他のプレイヤーに刃が飛んできたわけだ。
「あはは、常時発動だから自然とそうなっちゃうんですよ、許してください」
ブロンドヘアーに大きな赤いリボンを揺らしながらミサンガちゃんが両手をあわせて「ごめんねッ」とウィンクする。よし、可愛いから許そう。
そしてしばらく削りを続けていると、再び死神がデスライサーを発動してきた。刃の枚数は約180枚。先程のデスライサーと比べると、かなり回避しやすい。
私は飛んできた刃20枚を回転しながら叩き落とし、デスライサーを完封する。
横を見ると、枚数の少なさからか、みんな楽々と回避していた。
「よっし、ラストスパートで装甲全部剥がすぞー!!」
「あ、待ってください、先輩」
「うん?」
残りの装甲は約160枚。これならもう楽勝だと意気込んで剥がしにかかろうとした私をユキが止めた。
「装甲、一枚だけ残しましょう」
「なんで?」
「装甲を全部削らずに一枚だけ残してわざとデスライサーを発動させるんです」
「ほほう」
「死神はデスライサー発動中、本体が完全に動きを止めていますから、それが大きな隙になります」
一枚だけのデスライサーならばターゲティングされるのは一人。その一人がデスライサーを回避してる最中に、他の全員が無防備な死神の本体に攻撃する事で削りのスピードを飛躍的にアップさせる事が出来る……らしい!
「よし、それにしよう、そうしよう!」
「本当にわかってますか、間違えて全部剥がさないでくださいね」
「わかってる、わかってる!」
ユキのこういう所はやっぱり神崎さんにそっくりだ。さすがは姉妹。
私の蛇流棍は装甲を複数枚剥がしてしまうので最後の一枚をうっかり巻き込まないようにと口酸っぱく言われ、途中三回目のデスライサーを回避しながら装甲がようやく3枚になる。
「これで終わりだぁぁぁ!」
「ストップ、ストーップ、せんぱぁぁい!! 全部剥がさないでって言ったじゃないですか!」
「冗談、冗談。最後はユキ、お願いね」
「もう、こんな状況でよくもまぁ冗談なんて言えますね。残機賭けて戦ってるんですからね」
私に小言を言いつつ、ラストは一撃で一枚ずつ剥がせるユキが仕上げに入り、刃の装甲を一枚だけ残すタスクを完了した。
「クイーン、終わりましたよ」
「お疲れ様、あえて刃を一枚残す事でデスライサーを発動させて隙を作る……考えたわね」
「瞳子ちゃんは天才ですから」
胸を張って答えた私に「あなたじゃなくてゆっこちゃんよ」と言い放ち素通りするクイーン。
「ゆっこちゃんは軍師に向いているわね」
「そんな大層な物になる気はないですよ」
「ふふ、それじゃあ分隊長候補にでもしておこうかしら。さぁ、ここからも気を抜かずにいくわよ」
「はい!」
装甲を剥がす役割を終えた事で削りに参加していく私とユキ。
死神のHPゲージは現在95%。
装甲剥がしに手間取ったとはいえ、これだけ時間かけてまだ残り95%か。
「この先のデータはないわ。各自気を抜かずに動いて」
クイーンの言う通り、この先の死神の行動データはない。
というのも、過去に死神に挑んだPTは例外なくデスライサーにやられていたからである。デスライサーを回潜って装甲を剥がし、本体への削りまで辿り着く前に全滅するため、そこから先の行動パターンが流出せずに未知のゾーンになっている。
そして私は武器を蛇流棍から刀に持ち替えた。
今までの私ならば戦闘の最中に武器を持ち替えるなど面倒な事をしないのだが、合宿でクイーンに刀の扱いを指導してもらい、PT戦では状況に応じて武器を持ち替えながら戦いなさいと言われている。
それはメインウェポンである蛇流棍に引けをとらないレベルまで刀を扱えるとクイーンに認められたようで嬉しかった。
だから攻撃範囲の広い蛇流棍は装甲剥がしに、火力が高く削りに向いている刀は本体への攻撃に、と言った具合で使い分ける事にしたのだ。
神崎さんの変幻自在のマリアージュと違って装備変更ペナルティが発生するので頻繁に武器の持ち替えをするわけじゃないが、PT戦ならばアタッカーが一人、数秒間動けなくなっても影響は少ないだろう。
「よし、いっちょやりますか」
私は気合いを入れて大太刀【荒波一文字】を構えて、再び死神に斬りかかる。
荒波一文字は合宿中に倒したモンスターから倒したレアアイテム。
湾曲した70cmほどの刀身を覗き込めば自分の顔がハッキリと映るくらい輝いている。
「弐之太刀・流水!」
流水を発動して死神までの距離を一気に詰めて一閃し、水飛沫をあげる
すると私の攻撃に対して死神はカウンターを仕掛けてきた。
「っと……あぶな!」
私は死神のカウンターをすんでの所で回避する。
「先輩!」
削りに参加しようと意気込んだ私の初撃に合わせて飛んできた予想外のカウンターにユキが心配そうに叫ぶ。
「大丈夫、大丈夫。瞳子ちゃんがそう簡単にやられないから、心配しなくても」
「先輩の心配なんてしてません! 死なれてPTのバランス崩れないかって心配です」
明らかに私の心配してる声のトーンだったけど、言うと怒りそうなので黙っておく。しかし今の死神のカウンターは何に反応したのだろうか。先程からクイーンやミサンガちゃんが攻撃をしてもカウンターの素振りを見せなかったのに。
「HPが95%を切ってから、行動パターンの変化したのね。気をつけなさい!」
そう言ってクイーンが死神に攻撃すると、今度はクイーンの攻撃に合わせて死神のカウンターが発動した。予め予測していたのだろう、カウンターを難なくひらりと回避したクイーン。
「ここから攻撃するたびにカウンターしてくるんですか!?」
私の問いを聞いたクイーンは、一瞬こちらを見ると、再び死神に斬りかかる。そして死神はその攻撃にもカウンターを発動した。
「どうやら、そのようね……」
「うげぇ」
これで私とクイーンの攻撃に対して3連続でカウンターを発動させた事になる。偶然にしては多すぎるし、100%発動すると見ていいだろう。試しにミサンガちゃんが魔法を放つが、そちらにもカウンターは発動した。
「おっとと、参ったな。これじゃステルスマジックも意味ないよ〜」
必ずカウンターという死神のスキルにより、ミサンガちゃんのNos.のステルスマジックの特性であるヘイト値を気にせず魔法撃ち放題というアドバンテージもあっさり封印されてしまう。
「これ、避けれなかったらどんくらいダメージ食らうの!?」
「アクアニちゃん、試しに被弾してみる?」
「イヤですって! 死んだらどうするんですか」
通常攻撃が重い死神のカウンターならば、それと同等かそれ以上のダメージをもらってしまうだろう。誰が試すものかと思っていると、先程から死神を攻撃をギリギリのところで耐えている盾役のシウスちゃん達から苦情が入る。
「こっち、もうギリギリなんですからアタッカー陣、早く削ってぇぇ!!」
「シウス、集中して、崩れるよ」
「そんなこと言ったって、このままじゃジリ貧だよトリル。私まだ死にたくなぁい!」
トリルさんは回復魔法を盾にかけつつ絶妙なヘイトコントロールで被弾を避けている。マルタさんやミルナーさんのサポーターも回復に協力して、シスちゃんとレールさんの盾二枚をなんとか死守している。
現在の生存者は10人。
【第一PT】
クイーン【アタッカー】
シウス【盾】
アクアニ【アタッカー】
トリル【ヒーラー】
ゆっこ【アタッカー】
マルタ【サポーター】
【第二PT】
レール【盾】
さとり【サポーター】
【第三PT】
ミルナー【サポーター】
ミサンガ【魔法アタッカー】
この状況でミスを許されない重圧が残り10人に圧し掛かる。
その重圧の一番の理由は蘇生魔法が機能していないことだ。
正直な話、少しくらいミスをして戦闘不能になっても蘇生が可能ならば、今ほどの重圧を感じないだろう。しかし蘇生が不可能な今の状況は私達に1つのミスも許さないプレッシャーとなって襲い掛かってくる。
アタッカーは火力さえ出しすぎなければターゲティングされる心配はない比較的楽なポジションだったはずだが、問答無用のカウンター攻撃が発動するようになった今は必ずカウンターを避けなければならない。
しかしこの状況の中で1人だけ、いつもと同じように敵に対して攻撃を仕掛けては難なくカウンターを回避している人物がいる。刀を身体の一部のように扱い、蝶のように舞い、蜂のように刺す攻防一体のヒット&アウェイを繰り返すクイーンだ。
「綺麗……」
カウンターを警戒して攻撃を止めていたユキが、クイーンの姿に釘付けになり息を呑む。目を奪われる、とはこの事だろう。私だってその1人だ。この姿こそが私がクイーンを信仰する理由であり目標。それを再確認する。そしてクイーンに感化されて私も前に出る。
「先輩、危ないですよ!」
「大丈夫、見てて」
やってやる、私だってこの二ヶ月間クイーンの元で、見て、感じて、学んできた。
「私の経験をここで全部ぶつけてやる!」
クイーンの覇気に感化された私は気合いを入れて死神に斬りかかる。
繰り出したのは刃に炎を纏って斬りつける【三之太刀・焔】
しかし死神はその巨体を揺らしながらサイドステップで回避し、攻撃を外した私は転んでしまう。
「痛~~~」
「先輩、早くリロードしてください!」
「リロードってなんだっけ……装填?」
「さっさと立ち上がれって事ですよ、もうッ!!」
倒れてる私を見た死神は鋭い足で串刺しにしようと遅いかかってくる。
「ちょ、うわぁ!!」
私は慌てて立ち上がり、当たれば一撃死であろう攻撃をギリギリで避ける。
「あっぶ、盾~! ちゃんと守ってよ~~!」
「何言ってるんですかぁ! そんな無防備に寝てるPCがいたらヘイト値関係なく標的にされますよぉ!!」
私に向いたターゲティングを【挑発】を使って取り返しながらシウスちゃんが叫ぶ。そして素直にごめんなさいをする私。
「先輩、突然突っ込まないでくださいよ、危ないな」
「いや~、気合いでなんとかなると思って」
「なるわけないじゃいですか」
ユキは呆れたように言ってタメ息をつく。
「そんなことないわよ」
「え?」
振り返ると、それまで華麗なる刀捌きを魅せていたクイーンが攻撃の手を止めて、私の横に立っていた。
「その気合いを持ったまま戦い続けなさい。あなたがやろうとした事は間違いじゃないわ」
「え……は、はい」
真剣に言われる物だからつい真面目に返事をしてしまう。
これまで戦いの基礎、戦術、身体能力を私達に叩き込んだクイーンが気合いなんて言う精神論を肯定すると思わなかったので少し面食らう。
そしてクイーンは私にその一言を告げると再び死神に向かって攻撃を再開する。意外な言葉に驚いた私とユキはポカーンとお互いに間抜けな顔をして顔を見合わせた。
「なるんですか? 気合いで」
「なるらしい」
私は「もういっちょ!」と、二度目の特攻を試みようと気合いを入れる。
「いやいや待ってくださいってば、死ぬだけですって」
「何さぁ、もう。クイーンが言ってるんだから」
「ただの特攻でなんとかなるわけないじゃないですか」
「でもクイーンが」
「それはわかってますけど、理由は不明ですが今は蘇生不可能の状態になっているので死んだら戦線復帰が無理なんですよ。だから気合いを入れるにしても少し戦略を練っていきましょうよってことです」
「ふむ……一理ある」
「気合いよりかはありますよ、そりゃ」




