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憧れた世界

 放課後、私と沙耶はまっすぐ帰らずに、生徒会長の家に寄る事になった。ゲームのダウンロードや専用VRの注文の仕方などを沙耶が説明していく。


 私は、居心地が悪そうにポツンと正座して座っている。だって他人の家に上がるなんて初めてだもん!どうすればいいのかな、とキョロキョロと辺りを見回す。


 綺麗に掃除されてる部屋だなぁ。ベッドには可愛いぬいぐるみ、勉強机はファンシーな小物やペンたて、クールでスッキリした部屋を想像していたので、少し意外だ。

「どちらかというと、猫被ってる時の沙耶のイメージにピッタリかもしれない」


「マリ、声に出てるんだけど」

「あ……」


「なに、あなたやっぱり猫被ってるんですの?」

「そんな事ないよッ☆」

「イラッ!そうやって周りに人を集めて選挙も組織票で!」

「だからアレは周りが勝手に推薦しただけで、私はやる気なかったんだって!」


「まぁ、いいですわ。あ、神崎さんごめんなさいね。今、お茶とお菓子持って来ますわ」

「あ、ありがとうございます」


 そう言って会長は部屋の外に出ていく。


「よし、マリ。さっそくガサ入れよ」

「ガサ入れ?」

「友達の部屋に来たら、やることなんて決まってるでしょ。ほら、ベッドの下!」


 それは男子特有の行動なのでは…と心の中でツッコミを入れるけど、沙耶があまりにも楽しそうなので、とりあえず従う。

 そもそも、このご時世ベッドの下にエッチな本を隠す人間が存在するのだろうか。そんな事を考えながらベッドの下に手を伸ばすと何か本らしき物が手に当たる。


「ほ、本当にあった!」

「え、マジで!?」



【異世界へ行く方法500選】



「………………」

「な、何これ」


 ベッドの下から出てきたのは胡散臭いオカルト本。

 まさか会長、異世界に憧れがあるのだろうか。

 沙耶が少しページを捲ると、異世界への転生方法がいくつか載っていた。


【電源を落としたテレビの前で3時間正座】


【生徒会室にて夜な夜な人体模型とワルツを踊る】


【学校の屋上にて運命の人と手を握りトランポリンで宙を舞う】


 ※効果には個人差があります



「いや、個人差どころか例外なく効果ないでしょ」


 沙耶が本の内容にツッコミを入れてると、ガチャ……とドアを開く音が聞こえた。ベッドに座り、本のページを捲っている沙耶と私を見て会長が奇声を上げる。


「キャー!な、ななななにしてるんですの!私の聖書(バイブル)の封印を解くなんて!!」

「何が聖書よ。こんなデタラメな……あっ!もしかしてNWの事聞いてきたのも異世界好きだからでしょ!」


「ふ、二人共、落ち着いて…」



 ◇



「ふぅ、取り乱してごめんなさい神崎さん。そうですわね…ここは正直に話したほうが良さそうですわね。私の心に眠る秘めたる欲望を」


「い、いえ…お話ししてもらわなくても、なんとなく想像つくんですけど…」


「あれは、私が小学5年生の頃――」


 語り始めてしまった。


「お正月にもらったお年玉を握りしめて本屋に向かった私は運命の出逢いを果たしましたわ。この聖書(バイブル)と!」


聖書(バイブル)言うな」


「このつまらない現実とサヨナラしたい私はこの聖書(バイブル)に引き込まれていったんですの!そして異世界に憧れるようになりましたわ」


 あれ、終わり?

 短っ…


「そ、そうなんですね。じゃあやっぱりNWにも移住する気なんですか?」

「当然ですわ!NW社が新しい世界を作ったって公言した瞬間は人生で一番興奮しましたわ!」

「ふぇ~……。でも、NWの世界については、まだわからないことだらけですよね」

「別に構いません。現実世界だって、わからない事だらけじゃないですか。ほとんどの人は、ただ流れに身を任せて生きてるだけですし」


 それはそうかもしれない。色々知りたい事は多いけど、結局知りたいと思うだけで何もわからない。


「ふ~ん。生徒会長様ってつまらない女だと思ってたけど、意外とコッチ側の人間なんだね」

「あら、学園のお姫様がこんなゲームやってる方がビックリしましたけど。学校じゃ素で話せる人がいなくてゲームに逃げてたのかしら」


 会長の言葉に、沙耶の表情が少し曇る。さっきから会長と言い合いしてるときも、どこか楽しげだった沙耶とは違い、真剣な口調で語り始める。


「そうだよ。学校じゃ誰も本当の私を見てくれている気がしなくて、ただ過去の私を…テレビの中の私を祭り上げて接して来てるような感じでさ。もちろんあの子達に悪気がないのもわかってるんだけど、凄く疲れるんだ」


 そして、沙耶は私の顔を見ると優しく微笑んで……。


「だから、マリは特別なの。NWで出会った私を見て、感じて、現実世界の私を見つけてくれた。マリは知らないかもしれないけど、私の中でマリは心安らぐ凄く大切な存在なの」


「沙耶……」


 沙耶が、こんなに私を想ってくれてたなんて……。



「姫宮さん…」


 会長も、今の話を聞いて感動しているに違いない。またイチャイチャしてるなんて、からかわれちゃうかな。


「残念ね。神崎さんが学校で一番最初にサーヤだと思って話しかけてきたのは私に対してよ!つまり神崎さんが求めてた理想像は私!」


 これ以上ないくらいのドヤ顔を沙耶に向ける会長。この流れで挑発するなんて……どこまで仲が悪いの!この二人は!


「ぐぬぬ……そうなの!?マリ!」

「え?え?」


 こんな安い挑発にガッツリ乗っかってるし!少なくとも、今の会長は最初のイメージとはまったく違います……。



 ◇



「これで2~3日後にはVRも届いてプレイ出来るようになるんじゃないかな」


 生徒会長にNWのダウンロードの仕方やVRの注文の仕方を教え終わった沙耶が、ベッドに腰掛ける。


「ありがとう、助かりました。今度何かお礼させてください」

「別にいいよ。生徒会長様の面白い秘密も見せてもらったし~?」

「む、言いふらしたりしないでくださいね。あなたが猫被ってることも、誰にも言わないですから」

「しょ~がないにゃ~。でも、学校で真面目な自分を演じるのも疲れない?あんたは私以上に無理してそう」

「小学生の頃は変わり者扱いされていましたし、中学になってから隠すようになったのは事実ですわ。でも、学校での私も今日見せた私も……どちらも自分ですから」

「そっか……」


「でも、今は学校よりも家にいるほうが苦痛ですね。家族は家にいない事が多く、食事はいつもコンビニだし、一人で勉強ばっかりです…」



 私の親も、帰りは遅くなることが多いけど、雪ちゃんと一緒にご飯作ったり…お母さんもなるべく早く帰って来る努力をしてくれている。

 会長の両親は、何日も家を空ける事が多いらしく、私の家とは多少違った苦労をしているらしい。



「まぁ、NWがプレイ出来るようになったら、その寂しさも紛れるよ。仕方ないから私とマリが一緒に遊んであげよう」


 沙耶がドヤ顔で、さっきの仕返しとばかりに会長に言い放つ。


「もちろんです!寂しい時はいつでも呼んでください!一緒に冒険しましょう。会長」


「……ありがとう」

 この時、初めて見せたその満面の笑みこそが、私達が仲間になった最大の証なのかもしれない。

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