装甲破壊
私の愛用している蛇流棍がNW最強と言われている死神相手に特攻効果があると言われて張りきらないわけがない。私は蛇流棍のワイルドスネークを力いっぱい振り回し、死神の装甲を豪快に吹き飛ばしていく。
「どうだぁ! って、うわぁ!」
こちらの攻撃が終わった隙を見逃さずに反撃に出てくる死神。
鋭い爪を全力で振り回してきて、あわや被弾というところだった。
「うわぁん、シウスちゃんタゲとってぇぇ」
「こっちも必死に引きつけてますってば! アクアニさん、もうちょっとヘイトコントロール考えて!」
ごもっとも。
調子に乗って火力を出しすぎて盾役であるシウスちゃん達よりも私にターゲットが向いてしまった。
私の……いや、アタッカーをやる者の大半が持っている悪い癖だ。何故ならアタッカーをやっている者は火力を出す事に囚われているから。
しかしながら今回は自重せざるを得ない。火力重視で防御面の弱いアタッカーが死神の攻撃を受けたら一撃で戦闘不能になる可能性が高い。それ程までに強力な攻撃を仕掛けてくるのだ。せっかく張り切っていたのに勢いをそがれてしまった。
私が手数を減らしたと同時に、それを補うようにユキやクイーンの攻撃が加速する。更に傭兵PTのアタッカーであるミドルズさんも自慢の大剣で刃を吹き飛ばしていく。
「うおりゃああ!!」
「おっほー、ミドルズおじさん豪快!」
「誰がおじさんだ、まだアラサーだわい」
「微妙なライン」
丸太のような太い腕で振りかざした大剣は死神の刃の体毛を一気に三枚吹き飛ばす。ユキやクイーンが刀で攻撃しても一枚ずつ。効率が悪いよいに見えるが、そこはスピードでカバーする。手数の多い二人は結果的にミドルズさんと変わりない効率で刃を剥がしている。
「危ない、アタッカー下がって!」
声を上げたのは刃の装甲が剥がれるまでサポートに回っていた魔法アタッカーのアルトゥースさん。再び死神の攻撃がアタッカー陣に襲いかかったのだ。
スピードのあるクイーン、ユキは攻撃を回避するが、攻撃力の代わりにスピードを犠牲にしていたミドルズさんが回避しきれずに被弾した。
「ぐあぁ!!」
ミドルズさんの巨体が軽々と吹き飛び、後方にあった巨木に激突した。
その攻撃でミドルズさんのHPは9割減ってしまう。アタッカーの中では比較的防御の高いミドルズさんで9割減るのだから、私やユキが被弾したら即死だろう。
「急いで回復………――なっ!」
ヒーラー達がミドルズさんの回復を試みようとした矢先、死神が特殊技のモーションに入った。死神を覆っている刃の体毛が全て逆立ち、咆哮と共に飛散してPTメンバーを無差別に引き裂く大技【デスライサー】
クイーンの話によると、死神に挑んだPTはこの【デスライサー】で壊滅して討伐失敗するらしい。
飛散した刃は500枚以上、現在生存しているPTメンバーは15人。
単純計算で一人あたり約33回の刃を捌く事になる。しかしランダム攻撃なので偏りはあるだろう。極論を言ったら一枚も飛んでこないケースだってあるかもしれない。
私はかつてない程に集中力を高めて、死神から飛散した刃を見極める。
私のもとへ飛んできた刃は、ざっと見た感じ明らかに33枚以上ある。
「ひぃぃ! 一枚、二枚、三枚、四枚!」
まずは左に避け、バックステップで避け、そしてジャンプで避け、その瞬間に飛んできた刃が頭をかすめる。
「あぶなっ! っと五枚、六枚、七枚、八枚……痛ッ」
更にサイドステップで避け、ワイルドスネークで上空から来る二枚を叩き落とし、その次の刃が避けきれず腹部に被弾する。通常の攻撃一発よりも威力は低いので一枚被弾しただけで即死するわけじゃないが、如何せん数が多すぎる。
「ああ、もう無理! 全部避けるなんて無理無理」
怒涛の連続攻撃にあっさり集中が切れた私は、このままじゃ20枚近く被弾すると判断し、作戦を変更する。
そして蛇流棍ワイルドスネークを構えると、ぐるぐると高速回転し始める。この隙にもいくらか被弾してHPが5割を切ったが、回転しながらワイルドスネークを振り回した私は360度どの角度から飛んでくるデスライサー82枚を叩き落とし、自衛に成功した。
「よっし!」
「先輩、めちゃくちゃすぎ………」
ユキもデスライサーの猛攻をなんとか凌いで生き延びたようだ。
HPが2割を切っているので、かなりギリギリだった模様。
「生き残ったのは!?」
クイーンがHP8割をキープしたまま呼びかけた。
おそらくほとんどの刃を回避したのだろう、さすがと言うべきか。
周りを見ると、先程HP1割だったミドルズさんは力尽きて戦闘不能になっている。更にアルトゥースさん、マテウスさん、ミューミックちゃん、ミタちゃんの計5人がデスライサーの犠牲になっている。
「蘇生!」
レールさんが叫ぶと同時に、ヒーラーの中で唯一生き残っているトリルさんが蘇生魔法をかけるが、イシュさんの時同様、蘇生魔法をかけても生き返らない。
「なんで生き返らないの!?」
想定外の出来事にレールさんは混乱し、頭を抱える。
「魔法が弾かれてるんじゃ……とにかく死神を倒さないと、このままじゃ戦闘不能になった人達の残機が減ってしまいます!」
蘇生魔法の効果がないと見ると、トリルさんは迷うことなく盾の支援に戻る。ヒーラーが自分しかいない以上、回復が遅れたら致命的、サポーターや魔法アタッカーもわずかな回復支援は可能だが、ヒーラーに比べると回復量に倍以上の差が出てしまう。つまりトリルさんが生命線だ。
「トリルさん、落ち着いてるなぁ。美人だし」
「美人は今関係ないでしょ。先輩、戦闘中にバカ言ってないで早くポーション飲んでください。回復間に合ってないんですから、自己回復!」
「わかってるって、ユキもよく生き残ったね」
「あれくらいは余裕です」
「の割には結構被弾したね、回避訓練じゃトップの成績だったのに」
死神戦を一度経験してるクイーンは当然デスライサー対策として回避訓練を弟子達に叩き込んでいる。その中でも回避の才能はピカイチだったユキならば全回避も可能だと思ったのだが。そういえば昨日トリデンテに帰った時、神崎さんがユキはメンタルが弱いから心配と言っていた。いつもと変わらぬユキに見えるが、やはり緊張しているのだろうか。
「私の事より先輩はなんなんですかアレ! バカじゃないですか!」
「いやぁ、このままじゃ死ぬと思ったから、つい」
成功するとは思わなかったが、結果オーライ。
ポーションを飲み終わった私達は再び戦線復帰して死神の刃の装甲を削る作業を繰り返す。私が回転しながら叩き落とした刃は80枚以上あったので、だいぶ残数を減らせたはずだ。ていうか、私に80枚以上って偏りすぎなんですけど、とツッコミたくなる。随分と熱烈なラブコールだ。
「魔法アタッカー、GO」
戦い始めて何分経っただろうか、刃の装甲が約半分剥がれた事により死神の本体がだいぶ露出する。ここまでサポートに回っていた魔法アタッカー達がクイーンの合図で露出した部分の本体に向けて最大火力の魔法を詠唱する……予定だったのだが、先程のデスライサーでマテウスさんとアルトゥースさんが戦闘不能になっているので、残っている魔法アタッカーがミサンガちゃん一人しかいない。
「参ったな、これじゃあ火力が足りないわね」
「デスライサーを受けて全員生存してるクイーンのPTが異常なんですよ、どんな鍛え方したんですか」
ミサンガちゃんは死神に向けて豪快に炎魔法をぶっ放しながら言う。クイーンはスピードを重視した戦い方を私達に教え込んだので、クイーンの指揮する第一PTが生き残っているのは訓練の成果と言えよう。
「少し鍛えすぎたかしら、このままじゃ本来の目的が達成されないかもしれないわね」
「心配しなくても、死神はまだまだ猛攻を仕掛けてきますよ、クイーン」
私は削りに参加しつつも、クイーンとミサンガちゃんの話に聞き耳を立てていた。
本来の目的? クイーンは確かに『本来の目的』と口走った。ならばこの樹海遠征は死神を討伐する事が目的じゃない……?




