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樹海

 トリデンテで鋭気を養った私は、再び合宿メンバーと合流して、この2ヶ月間、目標にしてきた死神討伐へ向かう事に。


 合宿の一環として樹海入口まで来たことのある私達は、テレポで片道を楽々移動して、樹海の入口まで辿り着く。


 樹海遠征メンバーは以下の通り


【第一PT】

 クイーン【アタッカー】

 シウス【盾】

 アクアニ【アタッカー】

 トリル【ヒーラー】

 ゆっこ【アタッカー】

 マルタ【サポーター】


【第二PT】

 レール【盾】

 イシュ【魔法アタッカー】

 アルトゥース【魔法アタッカー】

 カトル【ヒーラー】

 マテウス【魔法アタッカー】

 さとり【サポーター】


【第三PT】

 ミルナー【サポーター】

 ミドルズ【アタッカー】

 ミューミック【ヒーラー】

 ミランダ【盾】

 ミサンガ【魔法アタッカー】

 ミタ【ヒーラー】



 第一PTはクイーンのPT

 合宿にてクイーンがメインで指導した弟子が集まる。

 私やユキはここ。


 第二PTはレールさんのPT

 レールさんが集め、レールさんが指導した弟子が集まる。

 ネオマリンタウンから選出された者が多数。


 第三PTはクイーンの知り合いの傭兵PT

 何故か頭文字がミばっかりなので私は勝手にミミ族と呼んでいる。





 ◇




「ここから先に踏み込めば後戻りは出来ないわよ、準備はいい?」


 樹海の入口を前にしてクイーンが17人に対して問いかける。

 ある者は意気揚々と雄叫びをあげ、またある者は少し不安そうな表情で頷く。

 私はユキのほうをチラッと見てみたが、無表情。これでは緊張してるのか余裕があるのかすらわからない。一方のシウスちゃんはわかりやすく緊張して震えている。彼女、うちのPTのメイン盾だけど大丈夫かな。


 クイーンをリーダーにした第一PTの役割分担は、【盾】にシウスちゃん、【アタッカー】に私、ユキ、クイーン、【ヒーラー】がトリルさん、【サポーター】がマルだ。


 マルタ、通称マルはクイーンが連れてきた女の子で、共に強化合宿をして仲良くなった。勝ち気で負けず嫌いで、合宿でも常にライバルより良い成績を残そうと頑張っていた。戦闘では迅速な行動で味方をサポートする。かなり優れたサポート能力を持っているので味方にいると心強い。


 レールさんのPTは緊張している人の方が多そうだ。

 カトル君やさとりちゃんなんかは顔が引きつっている。


「二人共、肩の力抜きたまえ、例え死んでも残機が一つ減るだけだってば」

「そ、そうッスよね、死ぬわけじゃない、死ぬわけじゃない……よし」


 私の適当な励ましで元気を取り戻したのはカトル君。

 横にいるさとりちゃんはまだ不安な様子。


「アクアニさんはいつも陽気ですね、私は手足が震えて……まともに動けそうにないです」


 さとりちゃんは立っているのがやっと、といった様子で一歩も動けないようだ。志願した者が集まるPTだからメンタルお化けばかりいるのかと思ったけど、どうやらそうでもないらしい。


「そう心配しなくても、いざとなったらこのアクアニちゃんが守ってあげるから安心しなさい! 私こう見えても強いんだよ」  

「アクアニさん…………成績、私より下でしたよね」

「そうだっけ?」

「ふふっ、合宿の時も思ってたけど、本当に変な人。でもピンチの時には頼りにしちゃおうかな」

「ふっふっふ、まかせなさい!」


 先程まで緊張していたさとりちゃんも笑顔を取り戻す。

 そして私は再びユキに視線を戻した。するとユキはなんとも言えない表情でこちらを睨んでいる。


「何?」

「本番直前なのに随分と余裕があるな、と」

「まぁまぁ、緊張しても仕方ないじゃん? なるようにしかならないんだし」

「倒せますかね、死神」

「無理かも」

「へぇ……あの二人の事は励ましたのに、私の事は励ましてくれないんですね」

「だって口先だけの強がりは見抜かれそうだしなぁ」


 ユキは鋭いからウソはすぐに見抜かれそうで怖い。私が何を考え何を思っているのか見透かされているんじゃないかとドキドキする。


「アクアニちゃん、気が利くわね」


 私とユキの横から入って来たクイーンが私の肩を軽く叩いて言った。


「出発前のメンタルケアは重要なのよ、普段から自由奔放なアナタには関係ないと思っていたけれど……………まさかあなたが気を回す側だと思わなかったわ」

「いや〜、実はアクアニちゃんも怖くてビクビクなんです〜、クイーンから激励ほしいッ!」

「はいはい、頑張りなさい」

「は〜い!!」


 憧れのクイーンの適当な激励をもらった私は俄然やる気になって前に出る。


「ここから一歩踏み出したら、ワープ禁止ゾーンなんですね」

「そうね、それじゃあ行くわよ! 第一PTから順に、隊列を組んで前進!」



 第一PTの先頭はシウスちゃん、クイーン。

 盾役のシウスちゃんがスピアヘッドを務める事で、道中のモンスターからの奇襲に対応しやすくなり、クイーンは案内役とファストブレイク役。

 クイーンはこの18人の中で誰よりも速く、誰よりも強い。並大抵のモンスターならば瞬殺できる。樹海に入ってから3分程で、クイーンは前方から来るモンスターを既に5体血祭りにあげた。


「ここからはサイドからの奇襲も考慮して、常に気を張りなさい!」


 歩いて5分もすれば方向感覚がなくなるほど乱雑に生い茂った樹木、薄暗さだ。たいまつを焚いて歩いていれば、当然モンスターからは見つかりやすく、恰好の的だ。私は横から飛びかかって来たモンスターを一閃。私の一太刀を皮切りに、他のアタッカーが大技を発動して仕留める。


 二ヶ月合宿した成果もあって12人の連携は完璧。傭兵PTも戦闘狂が集まってるだけあって即席で私達と合わせて動けている。


 死神の徘徊するポイントまでは慣れているメンバーだと二時間、初見だと四時間と言われている、


「私達、ペース的にはどうなんですか?」

 ならば自分達はどのくらいで辿り着くだろうか? と思ってクイーンに聞いてみる。


「かなり良いペースね、道中苦戦もなくスムーズに進めているから二時間切るかもしれないわ」

 クイーンの道案内が的確というのもあるが、かなりのハイペースで進んでいるらしい。

 タイムアタックでもあればトップだったかもしれない、などと思っていると後方から「うわぁぁ!!」と悲鳴が上がった。


「何事!?」


 第一PTのみんなが慌てて後ろを振り返るが、第二PTが間にいるので後方の傭兵PTの様子は見えない。

 声から察するに悲鳴の主は傭兵PTのミランダさんだ。屈強な体の持ち主で、第三PTの盾役、そしてこの討伐PTの最後尾を務めていたはずだ。

 私は第二PTのみんなに後方で何があったのか聞いてみた。


「悲鳴と共にミランダが消えたらしい」

「消えた? やられたら戦闘不能状態で死体が残るはずよね」


 この事態はクイーンにも予想外らしい。つまり前回死神に挑んだ時には陥らなかった状況だ。


「戻りますか?」

「いえ…、進むわ」


 ユキの問いに悩む事なく『進む』選択をするクイーン。

 私はクイーンに従って前進しながら、何故ミランダさんを探さずに進んだのかを聞いてみる。


「アクアニちゃん、PTメンバーを確認してみて」


 クイーンに言われてPTメンバーの名前を確認する。

 第一PTは6人全員の名前があり、第二PTも同じだ。しかし第三PTを見てみると5人しかいない。


「あっれ〜、メンバー欄にもミランダさんがいない」


 先程クイーンが言った通り、戦闘不能になれば、その場に瀕死状態のPCが残るはず、ところが姿もなければ名前もない。これはどういう事だ?


「抜けた!? 逃げた!?」

「どうかしら、彼は敵前逃亡したり、物事を途中で投げ出す人物じゃなかったわ」


 クイーンの知り合いの傭兵PTは闘技場で競い合い、モンスター討伐になれば協力し合い、常に互いを高め合ってきた戦士だという。

 その戦士と呼ばれるミランダさんが仲間に何も言わずにPTを抜けるとは考えづらい。


「たぶん探しても見つからないわ」

「じゃあ、見捨てるって事で?」

「まさか。相手の目的はわからないけど、前進していれば再び接触しに来るんじゃないかと思っただけ」


 つまり無闇に探し回るよりも、相手からの接触を待つって事らしい。

 どこかのボンボンを捕まえて身代金を要求してくる誘拐犯というわけでもなさそうなので確実性はないが、一人欠けたくらいで死神討伐の予定を変更してまで別の事に割いてる時間はないのだ。


 まだ時刻は昼時なのに、生い茂った木々によって日差しが遮られて、かなり暗くなっている。

 視界も悪いと当然モンスターの接近にも気付くのが遅れてしまい、いくつか敵の先制攻撃を受けてしまった。


 とはいえさすがはクイーンの元で指導を受けた弟子達、先制攻撃を受けた後のリカバリーを完璧にこなす様は見事な物で、かなり高レベルなモンスターが出てきても進軍ペースが落ちる事はなかった。


「あと10分もすれば死神の生息ポイントに辿り着くわよ」

「おぉ、ついに! 危うく死神の元に到達する前にヘトヘトになるところだった」

「それも含めて過酷なのよ、死神討伐は」


 約二時間、気を張りっぱなしの行軍で精神をすり減らしていた私は「なるほど」と納得する。目的地までの距離が近くなってきたと聞いて気を抜いたが、その時、再び後方から「きゃあああ!!」と叫び声が聞こえた。


「また!?」


 今の声、女性だった。声の主はたぶんさとりちゃん。

 私は慌てて振り返って第二PTを確認する。


「さとりちゃん、どこ!?」

「ここです……後ろにいます……」

「いるんかい!!」


 てっきりさとりちゃんが攫われたのだと思って叫んだのでズッコケそうになるが、さとりちゃんはガクガク震えている。


「カトルさんが…………私の目の前で攫われたんです」

「カトルくんが?」


 PTメンバーを確認してみると、先程のミランダさんと同じようにカトルくんの名前が消えている。


「何に攫われたの?」

「わかりません、突然糸のような物で、一瞬でカトルさんを引き摺りこんで……」

「糸……? クイーン、糸って死神と関係あるんですか? 実はもう死神の先制攻撃が始まっていたり?」


 少なくとも前回はこんな事なかったと考え込むクイーン。


「おそらく死神の仕業なんでしょうけど……これ以上人数が減るのはマズイわね……みんな、走って!」

「はん?」


 言うや否や全力で走るクイーン。

 突然走り出したクイーンに遅れをとるまいとシウスちゃん、ユキ、トリルさん、マルタさんが続く。私は完全に出遅れた。


「あぁ〜、待ってってば! 第二PTもその後ろもついてきて〜!」


 はぐれないように第二PTに伝達し、そこから更に第三PTに伝わってトレインのように列なって全力で走る。10分かかかるはずの道を全力疾走して、広場のような場所に出る。


「上!!」


 広場に足を踏み入れた瞬間、クイーンが叫んだ。

 その声に反応して上空を見上げると、巨大な影がぐんぐんと勢いよく迫ってきた。


「うわっ……と!」


 ドカン! と着地してきたのは巨大な蜘蛛型モンスター。これが死神の正体だ。体を覆う体毛は鋭い刃のようになっており、装甲がかなり厚そうだ。

 慌てて回避した私はなんとか直撃を免れるが、回避が遅れた第二PTのアタッカー、イシュさんが被弾する。


「イシュ、大丈夫!?」


 慌てて第二PTリーダーのレールさんが駆け寄るが、イシュさんは即死している。


「ヒーラー、蘇生!」

「は、はい!」


 第二PTのヒーラーであるアルトゥースさんが蘇生魔法をかける。しかし、何故か蘇生魔法を受けたイシュさんが戦闘不能のまま反応がない。


「イシュ……イシュ!!」


 レールさんがいくら呼びかけても反応がない。なんだなんだ?

 そうしてる間にも死神の攻撃は続いている。第一PTの盾であるシウスちゃんが死神を引きつけて攻撃を受け止めている。


「回復〜!! 回復間に合わないんですけどー!!」


 死神が腕を一振りするだけでシウスさんのHPの30%が削られる。第一PTのヒーラーであるトリルさん、第三PTのヒーラーであるミタさんが回復をしているが間に合わない。回復が遅れたら一瞬で戦闘不能になってしまう。

 第二PTのヒーラーであるアルトゥースさんがイシュさんの蘇生をしてる間は回復が手薄になっているので、サポーターであるマルタさんが回復を補助する。


「盾が一枚だと事故っちゃいますぅ! レールさん、入ってくださぃ!」


 一人で猛攻を受けきっているシウスさんも、わずか数十秒で音をあげる。イシュさんに気を取られていたレールさんを戦線復帰させる。


 本来ならばシウスさん、レールさん、ミランダさんの三枚盾だったが、道中で行方不明になったミランダさんがいないので盾は二枚で回す事になる。

 道中で二人が離脱し、開始早々に一人が戦闘不能かつ蘇生不能。かなり予定が狂ってしまったが、とにかく15人でやるしかない。


 刃の体毛に覆われた死神の身体は全ての魔法を弾く。攻撃魔法、弱体魔法、全てだ。その魔法を反射する刃の体毛を剥がす事が私達アタッカーの最初の役割。


 盾役が死神の攻撃を引きつけている間にクイーンとユキは刀で攻撃を仕掛ける。クイーンの一太刀、ユキの一太刀でそれぞれ一枚ずつ装甲が剥がれるが、死神の身体を覆っている刃の体毛は数百枚ある。このままチマチマ削ると時間がかかりすぎてしまう。


 そこで役に立つのが私の装備している蛇流棍。


「いっけー! ワイルドスネーク!!」


 私が蛇流棍を振り回すと、ワイヤーが伸びて尖端の鉄球が死神を目掛けて飛んでいく。豪快な打撃音と共に死神の刃の装甲は一気に六枚剥がれた。


「おお、これは気持ちいい、イイ!」


 広範囲を攻撃しつつ、距離を取りながら戦えるので無闇に近付いたら反撃で即死しかねない死神戦ではかなり効果的だ。

 ところが死神討伐PTに蛇流棍を扱っている者は私以外いない。何故かというと蛇流棍は扱いが難しくて初心者向きではなく、一番最初に蛇流棍を選ぶ人はほとんどいない。そのうえ、懐に入られると一方的に殴られる事からソロにも不向き。更に他の武器と比べると種類も少なく、入手が困難。そんな様々な条件が重なって蛇流棍を使う人はかなりレアで、蛇流棍を使ってるだけで物珍しがられる事も少なくない。そんな蛇流棍がこの大一番で役に立つというならば、蛇流棍の使い手として燃えないわけがないじゃないか。


「そんじゃまぁ、ここは私に任せろ〜! 装甲を剥がすこのタスクは…………アクアニちゃんの独壇場だ!!!」

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