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姉妹

双海視点

 合宿が終わり、樹海に出発する前に各々自分の村に戻って鋭気を養うことになった。私も一度トリデンテに戻ってリフレッシュすることに。


「みんな〜、ただいま〜!! みんなのアイドル、アクアニちゃんの帰還だよ〜〜〜」


 トリデンテに足を踏み入れると、私は大声で叫ぶ。

 しかし、誰からの返事もない。もうお昼時なので全員寝てるなんてことはないと思うんだけど。


「あれ、誰もいない?」


 廃村になった? と周りを見ると、しばらく見ない間に随分景色が変わっている。見たこともない立派な飼育小屋、以前より広がった畑、離れには大きな温泉が。


「とても廃村になった村の設備ではないな」


 私は見覚えのない飼育小屋の前で立ち止まり、中を確認してみる。

 しかし中には何もいない。自宅に設置する猫用の小さな出入り口のような物が取り付けられており、この中で飼育されている生物は閉じ込められて飼育されているのではなく、ある程度の自由を与えられているようだ。


「ジャガミの新しい寝床かな」


 何がいるでもないので飼育小屋を後にして去ろうとする。しかし、そこで何やらガサゴソと物音が聞こえてきた。


「ん…………? 気のせ――――ごふっ」 


 私はその場に倒れ込む。突然下腹部に激しい打撃を受けたのだ。


「な、何だぁ!?」


 不意打ちに驚いて転倒していた私は立ち上がって周りを確認するが、何もいない。

 いやいや、そんなバカな。何もいないわけないでしょ。

 なんだ、何にやられた?

 廃村のような雰囲気のトリデンテに、姿の見えない何か。


「まさか、みんな死んでオバケに…………」


 そんな思いを巡らせていると、突然声が聞こえてきた。


「テールちゃん、ストップ」


 その声は聞き慣れた声、神崎さんの物だ。


「やっぱりみんなの怨霊が!?」

「何言ってるの双海さん、後ろ」


 後ろと言われ振り向くと、そこには神崎さんが立っていた。


「いつの間に」

「ちょっと温泉のほうに行ってて今戻ってきたの」

「なるへそ、でも酷いなぁ、何も殴らなくても」

「私じゃないよ、その子、臆病だから見慣れない人が来ると威嚇で先制パンチしちゃうの」


 その子とはどの子だ。

 辺りを見ても何もいない。


「まさか神崎さん、村のみんながいなくなった事実に耐えきれなくて幻覚を……」

「いなくなってないから! みんなそれぞれやりたい事を見つけて出掛けてるだけ! 夕方には戻ってくると思うよ。ほら、テールちゃん、こっちおいで」


 神崎さんは何かを抱き上げるような仕草をすると、なでなでしてる。

 エアなでなでか? と思った瞬間、神崎の腕の中に謎の白いモフモフが現れた。


「うを〜、何それ!!」

「ステルスキャットのテールちゃん、ちょっと前に縁があってトリデンテの住人になったの」

「へ〜、名前は誰がつけたの?」

「…………ヒビキ」


 今の妙な間はなんだ。


「名前、納得してないの?」

「そんなことないよ! テールちゃんって名前可愛いし!……でもタマとかも似合うと思わない?」

「思わない」

「即答!?」


 自分の案が採用されないからいじけてるのか。

 そういえばヴォイスの時も名前でひと悶着あったって話を聞いた気がする。


「ちなみに姫の案は?」

「モモ」

「……スズの案は?」

「ファントム透明高速猫」

「テールで良かったね、君」


 モモはいいとして、他ふたつはないな、うん。

 いや、タマもマシに見えてきた。

 ファントムなんちゃらはやばい、どこからこの発想が出てくるんだ。


「で、そのファントムなんちゃらの名付け親はどこに?」

「会長なら最近は闘技場に入り浸ってるよ」

「闘技場に〜??」

「前にナンバーズカップで一回戦負けだったのが悔しかったから、一位になるまでやりたいって」

「キングを倒すまでって事?」

「最近は3位まで食い込んだって言ってたよ」

「ほほう」


 闘技場は勝者と敗者の順位が入れ替わるシステムなので現在1位の座についているキングを倒さないといけない。

 キングは以前、神崎さんに敗北した事でランキング最下位まで転落したが、姫と神崎さんがナンバーズカップ終了後に闘技場にランキングを返上したことにより、再びキングがランキング1位まで這い上がった。

 ちなみに2位はクイーンのままで最近は強化合宿のために、あまり参加していない。長期間参加しないと自動的にランキングから除外されるので少々心配なのだが、闘技場を疎かにしてまで私達の修行に付き合ってくれている。


 それ程までに死神討伐に賭けているのだろうか? でもそれならばもっと実力者達を集めるはずだ。クイーンは何の為に今回死神討伐を企画したのだろうか…………うん、わからん。


「他のみんなは?」


 難しい事を考えたくない私は早々に考える事をやめて次の話題をふっかける。


「ヒビキとハヅキさんはリアルの友達と何かを作ってるらしいよ」

「へ〜、何かとは?」

「それが聞いても教えてくれなくて」

「ふむ、お城でも作ってるのかな」

「どうだろう? でも、スムーズに建物を作れるNWで、これだけ長期間の作業してるって事は確かにそれくらい大きい建物かも。もしくは何かを復元してるとか」

「ほほう、それは完成が楽しみだねぇい。ハナビは?」

「ハナビちゃんは人探し」

「ん、人探し?」

「ほら、前に双海さんが持ち込んだ殺陣の作者」


 移住してみんなでパジャマパーティーをした時にハナビに漫画を読ませたら、思いの外ハマってしまい、続編を描いてもらうべく作者探しにまで出ると言っていたのだ。


「本当に探し始めたのか、ハナビは行動力あるね」

「私も手伝うって言ったんだけど、沙耶とゆっくりしてくださいって」

「その姫は?」

「沙耶は寝てるよ」

「え、こんな時間に? ああ……なるほど」

「違うから!!」

「まだ何も言ってないけど…………夕べは」

「あーーあーー!!」


 神崎さん、本当にわかりやすいなぁ。

 まぁ、あんまり弄るのもなんだし、この辺で許してあげよう。


「雪ちゃんは元気だった?」

「元気元気、元気すぎて困るね」

「まだNWに来たばかりで、いきなり合宿なんて行っちゃうから心配してたんだ」

「その心配は無用だよ、ユキってば合宿に集まった人達をごぼう抜きしちゃってさ、あれは強い。死神討伐にも参加するってさ」

「ええええ!! そんなの危険すぎるよ!」

「でもユキは自信満々よ」

「う〜んう〜ん、でも雪ちゃんって強がってはいるけど、実はメンタルが弱くて……」

「あのユキが? まっさかぁ〜」

「地球が赤乱雲に覆われた時も地球に残るかNWにいくか決めれなくて泣いちゃって…………その雪ちゃんが自分から危険に飛び込むなんて、ありえるかな」


 なんだか神崎さんの話すユキは私の知っているユキとは別人みたいだ。

 ユキは常に天才肌でなんでも器用にこなし、どんな相手にも怯まずに向かっていくイメージがあった。


「あぁ、でも死神討伐に参加するのを決めたのは最近だと思う。二ヶ月前は樹海遠征に参加する私の正気を疑ってたから」

「そう、それが私の知っている雪ちゃん」


 触らぬ神に祟りなしと、面倒事には首を突っ込まないタイプ。

 ましてや相手が最強モンスターなら尚更だ。『今からサバンナでライオンと戦いに行くけど来る?』と言われるような物だ。


「雪ちゃん、どんな感じだった?」

「自分が参加しないと先輩が死にそうだから〜なんて大口叩いてたよ、自信満々」

「へぇ〜〜…………でもそれって大口とか自惚れじゃなくて」

「じゃなくて?」

「双海さんの事が心配だからじゃないのかな」


 心配? 誰が、誰を?

 ユキが、私を?


「いや、まさか」


 だってユキだぞ。顔を合わせれば言い争ってばかりのユキが、自分の危険を顧みずに私を心配して樹海遠征に参加だなんて。


「ないない」

「そうかなぁ」

「樹海だよ、死神だよ? 私のために参加なんてないでしょ」


 同じ村に住んでるシウスちゃんやトリルさんの為と言われた方がしっくりくる。

 もしくは姉である神崎さんか、親友であるメイっ子のためとか。


「う〜ん、でもまぁ雪ちゃんはああ見えて凄く優しいから、そこは勘違いしないようにね」

「それはわかってるよ」


 私以外には優しいって事は、痛いほどにわかっておりますとも。

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