聖夜
「それじゃマリ、私達も戻ろうか」
トリデンテ主催のクリスマスパーティーも大盛況で幕をおろし、それぞれの村に戻る雪ちゃん達を見送った後、私と沙耶もマイホームに帰宅する。
「あら、おかえりなさい」
玄関のドアを開けると一足先に帰っていた会長がリビングのソファーでくつろぎながらアイテムストレージを整理していた。
「ただいま、会長。アイテムの整理ですか?」
「ええ、移住したことですし、これを機にアイテムの整理をしようかと」
そういえば私もあまりアイテムの整理をしていない。
なんだか捨てるのが勿体なくて不要なアイテムもストレージに入りっぱなしで無限にアイテムが蓄積されていくのだ。
「うう、私も整理しないとなぁ……でもなぁ……」
「溜まってからでは面倒ですから、コツコツとやることが重要ですわよ」
コツコツとやっていなかったので既に手遅れなのだが、沙耶はどうだろうか。
「ん、私? 私はよくやってるよ、アイテム整理」
「えー、沙耶もやってるの? じゃあ私だけかぁ……いや、でも双海さんとかならきっと」
「いいからやりなさいよ。隣で話し相手になってあげるから」
「はぁい」
アイテムストレージを見てまず思うのはクラフト素材の多さ。普通の人ならばそこまで大量に持ち歩きはしない素材だが、私はクラフトを起点にする戦法を駆使する事が多いので、どうしてもこれらの素材を大量にストレージにスタンバイさせておかねばならない。
とはいえ藁や土などのあまり使わない素材は持ち歩く必要性がないので、持ち歩くことを諦めて倉庫へ移すことにした。私は作業をしながら隣で話し相手になってくれると言った沙耶にひとつ問う。内容は先程クイーンと話していた樹海遠征についてどう思うかだ。すると沙耶は少し悩んでから口を開いた。
「普通じゃないね。狂ってるって思った」
残機が3あるとはいえ、クイーンが集めた部隊を壊滅させたNW最強モンスターを相手に寄せ集め部隊で挑むのは確かに狂っているかもしれない。
「本当にそうでしょうか?」
私達の会話に対して別の意見を出したのは会長だった。
「会長はクイーンの目的がわかるんですか?」
「そういうわけではございませんが、人なんてある程度は狂っているものではなくて?」
「え……」
「同じ人間でも理解しあえない事もありますわ。例えばテーマパークの絶叫マシーンなんてスリルを求める物ですし、苦手の人から見れば絶叫マシーンに乗っている人は狂っている、と言われますわ」
「あ〜、確かに……ゲージの中に入って野生のホホジロザメを見学するシャークウォッチングの映像を見た時は狂ってるって感想だったかも。でも本人達からしてみれば楽しいのかな」
要は物差しが違うだけで私達が命を大切にしすぎているから、樹海遠征を狂っていると感じでいるだけで、クイーンやシウスさんからしてみれば残機を1つ失うことはそこまで重要じゃないのかもしれない。
私達はその後もアイテムストレージを整理しながら議論したが、結局クイーンの目的はよくわからないという結論で終了し、私と沙耶は会長と別れて自室に向かった。
◇
自室の手前まで来ると、沙耶が突然立ち止まり、脇に避けて『どうぞ』と私に入室を促した。
わけがわからず私は「うん?」と首を傾げる。
「いいから、いいから」
「じゃあ、お言葉に甘えてお先……に!?」
「どう?」
見慣れたはずの自室に入ると、そこには見慣れぬ景色が広がっている。
普段使っている自室は、沙耶の部屋と繋がって広さが倍になっている。昨日一緒に壁を取り払ったからそりゃそうなのだが、問題はそこではない。
「に……」
「二?」
そう、二。
昨日部屋の整理をしていた時はシングルだったはずのベッドが二……いや、ダブル。ダブルベッドになっている。
そういえば昨日、部屋の整理をしてから下の階に戻ろうとしたときに沙耶はやることがあるからって私を先にいかせた気がする。その時に設置したに違いない。
「だってマリってば一緒に寝たいって言うからさ」
「いいいい言ってないもん! 一緒に寝るのか聞いただけだもん!!」
「え~、そうだっけ~」
ぐっ……そりゃ一緒に寝たいけど、恥ずかしさからつい否定してしまう。
一緒に寝るのかって聞いた時もからかわれたし!
「まぁ、マリが嫌なら私は床で寝るけど」
「……い、嫌なわけないでしょ。一緒がいい」
「うん。知ってる」
「バカ」
「マリに言われるとバカって言葉もご褒美だねぇ〜♪」
「んも〜〜!!」
照れ隠しであり苦し紛れに出た言葉もあっさり受け流され、私は沙耶と一緒にベッドに入った。
◇
って、なんであっさり入っちゃうの私のバカー!!
私と沙耶は恋人で、これから一緒に暮らすわけで、そして毎日同じ布団の中で寝るって事は当然………………いや、ていうか、毎回毎回こんなパターンで勝手に妄想して結局、ってオチじゃん。
「はぁ、緊張するだけ損……んっ!」
今までの経験からして今回もどうなるわけじゃないだろうと気を抜いた瞬間、沙耶は私を抱き寄せてキスをする。
落ち着け、落ち着け。キスは今までも何度もしてきてるし、別に慌てることじゃないでしょ。なんて頭で無理矢理冷静さを保とうとしても無駄である。これは今までとは違う少し大人のキス。
私の心臓はドキドキ脈をうって破裂寸前。
「沙耶……灯り消して」
「あれ、どこかで聞いた台詞だね」
「今度は恥かかせないでよ、沙耶」
私の言葉に沙耶は優しく微笑み、再び抱き寄せられる。
緊張と期待が入り混じって思考が乱雑になっている私は、そのまま沙耶に身体を預けて、その夜を過ごした。




