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ネコ耳ばすた~ず 0  作者: 七海玲也
第二章 旅の者達
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深青紫

 嫌な予感を抱きつつ、森の出口で状況を窺うミィの傍に着くと言っていた通りの状況がはっきりとしてくる。


「すぐそこに倒れてる人はもう息はしてないにゃ。

 それも、数日経ってるのか変な臭いがしてるにゃ」


「ってことは、村に何かがあってから何日か経ってるってことか?」


「みたいだにゃ。

 ここから見る限りじゃ村の中にも動いてる人はいないみたい。

 静かにゆっくり行ってみようにゃ」


 ミィの隣で何か役に立てればと人間のオレが出来る限り神経を研ぎ澄まし、辺りを窺いながら村へ近づく。

 村が壊滅状態にあるか、村人らは何かに怯えて姿を隠しているかの二択に思えるが、違った結末を信じていたかった。


「なんだ、これは……」


「ひどいにゃ……」


 村の様子は酷いものだった。

 無数の亡骸と焼けただれた家々しか残されていない。


「ちょっと待つにゃ!?

 この人――追って来てた人にゃ!

 この黒い服は間違いない、絶対そうだにゃ!」


「黒服――ジェスタも言ってたな。

 あっちにも、あそこにもいるぞ!」


 村落の人々に混ざり、場違いな全身黒で統一された服装の姿が四、五体あった。


「待てよ、一体どういうことだ?

 こいつらがやったんじゃないのか?」


 独り言ではあったが、同じ想いだったのか隣で困惑の表情を浮かべていた。

 途端、走り出したミィは扉の壊された家に入っていく。

 何か居たのかとミィに続くと横たわる三つの遺体の前で泣き崩れていた。


「どうして……こんな……」


 ミィと同い年くらいの女の子の亡骸を抱きしめると、小さく肩を震わせていた。

 かける言葉が見つからず、ただただ見守ることしか出来なかった。

 老若男女、大人子供構わずだった。

 思い入れも関わりもなくとも、この惨状には気分が悪くなる。

 泣き止んだのか、泣き声が小さくなるとゆっくりと顔を上げ、目つきが段々と変わっていく。

 何かを睨みつけるような目つきになると急に振り返り大声で叫んだ。


「どうして!

 どうしてこんなことしたにゃ!!」


 釣られて振り向くと、誰も生きてはいないと思われた村の中で長髪の鋭い目つきの男が一人立っている。

 右手に真っ赤に染まった細く長い剣を携えて。


「あいつかっ!!」


 腰に携えている魔法銃を構えると間髪入れず引き金を引く。

 何が来ても対応できるよう装填していた【魔痺(マヒ)】を放つ。

 魔弾が割れ、魔法が発動すると思われたタイミングで何故か乾いた音が響き、その後に男の後ろで魔法が発動した。


「まさかっ!

 マジかよ!?」


 出た答えは一つ。

 一歩踏み込んだ上であの長い剣を一瞬で振り、魔弾を切り裂いたのだと。


「許さないにゃぁぁ!!」


 人間技とは思えない光景に呆然としていると、ミィが叫びながら飛び出して行った。


「待て!!

 アイツは強いぞ!」


 制止を聞かず飛びかかったミィの爪を難なく剣の腹で受け止める。

 魔弾ですら見えていたのだ、真正面からではいくら速くてもムダであろうが、怒りと憎しみに支配されているミィにとってはお構いなしだった。

 何度も何度も爪を振るうミィを男は軽くあしらっている。


「これならっ!」


 横に回りオレの撃った【魔縛(バインド)】が今度こそ男を捕らえようとした――刹那、ミィを掴みその場を離れると、首筋に剣を当てこちらに向き直った。


「人質!?」


 男は捕らえられているにも関わらず睨み上げるミィと、どうすべきか立ち竦んでいるオレを交互に見ると口を開いた。


「何か勘違いしているようだが。

 止めにしないか、ムダな争いは」


 低い声だが殺気は感じられない。

 だが、この状況で勘違いやムダな争いと言われても簡単に身を引くことは出来ない。

 それは、男の持つ剣には大量の血が付いているからだった。


「この惨状はあんたのしたことじゃないとでも?」


 人質まで捕られている以上、オレに勝ち目はないだろう。

 しかし、話し合いで片がつくのなら、それに越したことはない。


「あぁ、違うな。

 一部を除いてはな」


「一部を除いてだと?

 なら、あんたも黒服の仲間ってことか?」


「いや。

 黒服はオレが斬り、始末した」


 もしも連中の仲間ならミィは斬られていてもおかしくないし、それからオレを殺るのでも男にとって遅くはないだろう。

 状況から見るに完全なる嘘とは言い難く、話を聞いてみるのも悪くないと思った。


「分かった、話を聞こう。

 ただ、先に仲間を解放してからだ。

 ミィ!

 離されても飛びかかるなよ!

 交換条件なんだからな」


 未だ治まっていないのであろう、怒りの目をオレにも向けるが小さく頷いた。


「さぁ、ミィを離してくれ。

 離してくれたら、こちらも何もしないと約束しよう」


 男は短く返事をするといとも簡単に離し、ミィがこちらに後退る。

 離した瞬間に斬りかかってこないとも限らなかったが、すぐに鞘へ収めた為オレも銃を下げざるを得なかった。


「よし、話を聞こうか。

 あんたは何者なんだ?」


深青紫(ヴァイオレット)と皆は呼ぶ。

 神の罰を受け、行く末を見守る者。

 ここには通りすがっただけだ」


「よく分からないな。

 あんたがここに来た時にはこの状況だったと?」


「あぁ。

 こいつらが虐殺し終わっていたがな」


 そういうことなら辻褄は合うが信じて良いものか悩んでいると、服の袖を掴むミィが深青紫へと問い掛けた。


「確かにあなたから殺気は感じないけど、あなたは仲間じゃないって保証はないにゃ」


「信じてもらえなくとも、お前達を殺すつもりはない」


 そう、オレ達では太刀打ち出来ないのは深青紫にも分かったはず。

 ならばオレ達が信じて見るしかないだろう。

 銃を収め歩みよると手を差し出す、信じるとの意を込めて。

 だが、その手を掴み取ったのはミィだった。


「待つにゃ。

 わたし達に危害を加えないからと言って、簡単には信じられないにゃ」


「ふん、その人猫(ワーキャット)の言うとおり、私も馴れ合うつもりはない」


 深青紫は言うなり背中を向け、この場を立ち去ろうとする。

 その姿を黙って眺めていると不意に歩みを止めた。


「その黒服の連中は、ここから先に行った街を根城にしている。

 こいつらに興味があるなら行くといい。

 人猫の娘と少年よ、この腐った世界で生き抜いてみることだ」


 振り向かずに話し終えると、そのまま歩みを再開させ村を出て行った。

 最後の言葉に重みを感じ、返事が出来なかったのは少し後味が悪い気もしたが、腐った世界とは一体何を意味しているのか、今のオレには何も思い浮かばない。


「ねぇ、レイヴ。

 少し一人にさせてくれないかにゃ?」


 穏やかだが、どこか物憂げな声で問いかけるミィを見るのは辛く、顔を合わせることなく静かに頷くと先程の家の中へ消えて行った。

 あそこの家族が助けてくれたのだろうと思い至り、ならばせめて土の中へ還してあげるのが恩返しだろうと、畑道具を使い穴を掘ることにした。


 


 どれくらい経ったのか分からないほど懸命に掘り続け、三人は横たわれるであろう大きな穴が出来上がった頃には日が沈みかけていた。


「レイヴ。

 遅くなったけど、もう大丈夫にゃ。

 それは?」


「ん?

 あぁ、あの家族がお前を助けてくれたんだろ?

 だったら、せめて還してやりたいと思ってな。

 それにしても、その服は一体どうしたんだ?」


 今までの躍動的で露出の多かった服装とは違って、淡い色で染め上げられた清楚な服と帽子に着替えられていた。


「これはね、助けてくれた女の子の形見なんだにゃ。

 わたしに着て行ってって」


「生きてたのかっ!」


 驚き声を荒げてしまったが、ミィは静かに首を振った。


「ううん。

 でもね、わたしがここに戻って来てくれるって信じて、お別れの挨拶をする為に留まっていたらしいんだにゃ」


「お前、見えるのか?

 その……魂が」


「ん?

 普通見えるんじゃないのかにゃ?」


「いや。

 人間の中にも見える人もいるらしいが、大抵は見えないぞ」


 目を大きくし、驚き絶句しているようだ。


「多分、その六感的なものは動物が持ってるんだろ」


「魂が器を動かしてるのに、器しか見えないって不思議だにゃあ」


 そういう考え、捉え方もあるのかとこっちが関心してしまう。


「じゃあ、ジェスタとはお別れしてないにゃ?」


「まぁ、見えないからな。

 勝手に気持ちを伝えた程度だが」


「それならまぁ、良かったにゃ。

 魂って肉体から出た場所に留まってるから、あの秘術で魂を呼んで光の柱で天に導くにゃ。

 だからお別れしてなかったら、まだ送らなきゃ良かったって一瞬思ったにゃ」


 あの秘術と光はそういうことだったのかと疑問も解けた。


「なら、また秘術を使って送るのか?

 掘らなきゃ良かったか?」


「ううん、彼女はもう旅立ったにゃ。

 心残りもないし、肉体のそばにずっといたから秘術は使う必要がないにゃ」


「ムダにならなくて良かったよ。

 なら、あの家族をここに移動させようか」


 何もしていないのに殺されるなんて辛かったに違いないと冥福を祈りつつ、家族を優しく寝かせ、丁寧に土を被せていく。

 最後に板を立て墓に仕立て上げると、ふと思った。


「なぁ。

 もしかしてだが、こんなに遺体があるってことは、天に行っていない魂がまだ留まってたりするのか?」


「いるにゃ、沢山。

 だって意味も分からずだったから、心残りは残ったままだにゃ」


「どうするだ?

 その魂たちは」


「どうもこうも、わたしにはどうすることも出来ないにゃ。

 数が数だから」


 あの秘術以外にも何かあるのかと思ったが、一人の魂であれだけの術ならばミィだけではムリなのだろう。


「そう、か。

 割り切るしかないのか」


「うん。

 わたしは術自体が得意じゃないし、ましてや一度に沢山の命が犠牲になって、わたししか術を施せないから、そういうのは出来ない無いにゃ。

 ただ、神の使いの神官なら神秘術(カムイ)が施せるから出来るかも知れないけどにゃ」


 神官ならば人間の中にもいる。

 どういった経緯で術を使えるのかは知らないが、魔術と違い寿命を縮めることはないらしい。

 ならば、後のことは神官に来てもらい、対処をお願いするしかないだろう。


「だったらもう行くか。

 深青紫の言っていた街に。

 そこに行けば母親の居場所も分かるかも知れないからな」


「うん。

 耳もしっぽも隠れてるから、もう簡単には見つからないにゃ」


 黒服の奴らから情報を得られればミィの捕まっていた場所、母親の場所も分かると踏み村を後にした。


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