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ネコ耳ばすた~ず 0  作者: 七海玲也
第一章 亜人と英雄
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今すべき事

「ふぅ、ようやく出れたな。

 外の空気がこんなに美味いなんて知らなかったよ」


 今日は驚きの連続にずっと下水だったせいもあってか、色々な感覚が麻痺していそうなところでの新鮮な空気は心からありがたいと思った。

 そう思っていたのはオレだけではないらしく、二人とも伸びたり深呼吸したりと思い思い体を動かしている。


 既に日は傾き始め、眼前には下水と繋がっている小川と、森と呼べる程ではないが沢山の木々が天に向かい伸びている。


「さて、と。

 ここからなんだが、どうする?

 ミィ」


 今度は街の外の地図を見せ、どこに向かえば良いのか聞いてみた。


「わたしとママ、どこに捕まってたか分からないし、無我夢中で逃げてきたからにゃぁ。

 あっ!

 街に入る前に湖は見たの覚えてるにゃ――多分、これだにゃ」


 ウェルミニアの西、すぐ隣には確かに湖がある。

 地図もこの近くの湖はそこにしか描かれていない。

 三人で地図を囲み、現在地とミィの足取りを照らし合わせる。


「だとすると、西から来て……今の場所が北側で……」


 ここから追手と遭遇しないよう西へと向かう方法は、どうにも二通りしかないように思える。

 このまま街道へ出て北の港町を経由し山を迂回するか、街道を横切り湖の北にある湿原から西へと出るか。


「どうする?

 単純に楽な道だと街道を進むことになるが、北の港町を目指すにしても何日かかるのか分からない上、西側へ出るのも山を迂回する事になる」


「だなぁ。

 かといって、湖は渡れず山へ入る準備もねぇ。

 そうなると、湿原を突っ切るって話になるが」


「それじゃあダメなのかにゃ?

 来た道へ戻る最短だったら良いんじゃないのかにゃ」


 オレ達が腐街を出なかった、出れなかった理由はここにもある。

 東には山、南に出るには腐街から富裕街への通行料と身体検査がある。

 そして問題の湿原は、腐街で育った者ならば誰でも知っている歴史がある。

 過去、幾人も湿原を通り西へと向かったが誰一人帰ってくることはなく、西側には楽園か地獄があると言われていたらしい。

 そんな中、確かめ必ず帰って来ると約束した一人の男が腐街を出るが、翌日、瀕死の状態で街道に倒れていたところを心配していた仲間に発見された。

 その男は一言「湿原は魔者の巣窟だった」と言い残し息を引き取った。

 その後、ウェルミニア軍が警戒を強めるも湿原から魔者の出てくる気配はなく、それならば無闇に手を出す必要はないと宣言し、今も放置されている状態だ。


「困ったにゃ。

 魔者は避けたいけど早くママを助けたいし、どうしたらいいにゃ?」


 だから、それを話し合っているんだがな。


「オレなら答えは簡単だがなぁ。

 結局のところ運命の分かれ道ってやつは、何かを犠牲にしなきゃならねぇ。

 だったら今、最も重要なことは何だ?」


 今、一番にしなければならない事、それはミィの母親を助けることだ。


「まさか、湿原を行くっていうのか?」


「まさかもへったくれもねぇだろうよ。

 北に向かって、いざ母親の所へ着きました。

 しかしながら手遅れでしたじゃ話になんねぇだろうよ。

 そんで、その後どう思う?

 あそこで危険を冒してでも行くべきだった、って絶対後悔するだろうよ。

 だったら、一番にしなきゃならないことをやって、後悔しないようにするべきだろ?

 それが、たとえ命に関わることになろうがよ」


 そうだ、そうだった。

 後悔しない為に今やれる精一杯のことをしろ。

 腐街にいるとそれが当たり前で、当たり前だからこそ、ついつい忘れがちになってしまっていた。


「あぁ、そうやってオレ達は生きてきたんだったな。

 今を大切に悔いが残らないように、いつ命が果てようとも心残りがないように」


「へへっ、そういうこった。

 だから、オレらが取るべき道は最初から一つしかなかったってことだ。

 つーことで、湿原を通り西へと出る!

 なーに心配は要らねぇ。

 いざとなったら、命に代えてでもお前らのことは守ってやるからよ」


 行くべき道は決まった。

 ここからは自然慣れしているミィの感覚を頼りに小川に沿いながら北西へ進み、そのまま湿原へと入る。

 幾度かの別れ道を瞬時に判断するミィは、これから死地へと向かう気持ちがあり終始無言のオレ達をよそに、楽しそうに両手を広げては踊っているかのようにクルクルと何度も回っている。


「やっぱりこういう自然は落ち着くし楽しいにゃ。

 人間ってどう感じるにゃ?」


 振り向き両手を後ろ手に組むと、下から覗きこむように聞いてくる仕草に少し鼓動が高鳴った気がした。


「どうって言われても、な。

 好きだし気持ちは落ち着くけど、ずっとここに居たいってことはないかな。

 やっぱり何かと不便だし。

 だけど、ミィみたいな感覚の人間も少なくはないよ。

 そういう自然主義者(アーミッシュ)が集まってる村もあるらしいからな」


「そうなんだ~。

 そういう人たちとなら仲良くやっていけそうだにゃ」


 オレの答えに満足だったのか、なおも小走りをしたり小川に手を浸してみたりと、子供のようにはしゃいでいる。

 そんな微笑ましい姿にジェスタと顔を見合わせ笑みをこぼしていると、木々の終わり、湿原への入口が見えていた。


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