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ネコ耳ばすた~ず 0  作者: 七海玲也
第一章 亜人と英雄
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猫の習性

「この鳴き声って鼠じゃないのか?」


 小声で囁きじっくりと暗がりの中を観察すると、なにやら大きく光るものが二つ。

 段々とこちらへ近づいてくる。


「な、なんだ?

 こっちへ来るぞ」


 オレの戸惑いを他所にジェスタが一歩前に出ると、腰から短剣を抜き出していた。


「ちょ、ちょい待ち!

 こいつは、デカイぞ!!」


「ネズミだけど、おっきいにゃ」


 二人の言った通り、目の前には通常では考えられないくらいの大きな鼠が現れた。

 こんな街の地下にも、魔物が住み着いていたとは。


「オレに任せな。

 いくらデカかろうが、所詮ネズミだろうよっ!」


 飛び出したジェスタを迎え討とうと、大鼠が二本足で立ち上がる。

 大きいとは思ったが、立ち上がるとオレ達の身長を優に超えている。


「待て、ジェスタ!!

 一人じゃムリだ!」


 静止を聞かず飛び出すと、大鼠の前足を寸でのところで避け脇腹を切り裂いた。


「やったか!」


 傍から見ている分には確実に決まった様に映ったが、ジェスタは尚も構えたままだ。


「全然だ!

 手ごたえはあったが、薄皮一枚斬った程度らしいぜ!!」


 言葉どおり、大鼠はジェスタに向き直り前足を振り回している。


「援護するから離れろ!」


「んなこと言われても、この攻撃じゃムリがあるぜ!」


 避けれたのも最初の内だけで、今では前足の爪を短剣で弾いて凌いでいる。


「わたしも闘えるにゃ。

 このままじゃやられるにゃ」


「ミィは、まだ治ってないんだ。

 ここはオレたちが」


 とは言ったものの、ミィの言うとおりだろう。

 何か手を打たなければと魔法銃を握り締め、いつでも撃てる体勢にはしてあるが、タイミングを掴めないでいた。

 焦りと苛立ちが襲う中、不穏な気配を感じ横目でミィを気にすると、前かがみになり腰をわずかに振っている。


「うぉぉっ」


 目を離した一瞬、ジェスタの声が響き渡った。

 大鼠の背中の先には倒れている足が見える。


「ジェスタぁぁ!

 こっちだ、ネズミぃぃ!」


 なんとしても注意を引かなければと、下水を勢いよく踏みつけながら徐々に近づくと、ゆっくりと巨体をこちらへ向ける。

 その肩には短剣が突き刺り、体毛を血で染めているのが分かった。


「こいつをくらいなっ!」


 引き金を引くと一瞬だけ光り、巨体が大きく痙攣している。

 魔法には詳しくないが、魔弾については爺さんから色々と聞いていた。

 今放った魔弾【電撃(エレクトロ)】は電気により痺れさせ、ときにはショック死さえも与える。

 が、近くにいるものと水に影響を及ぼす為、なかなか撃てずにいた。

 倒せたと思った大鼠は、痙攣が治まると身を翻し必死にと逃げ始めていた。


「にゃっ」


 逃がすまいとしたのか、ミィは勢いよく走り出すとすぐに追いつき、背中へと飛びついた。


「ミィ!

 構うな、放っておけ!

 ――ジェスタ、無事か?」


 聞こえたのか定かではないが、目の前に倒れているジェスタの息を確認すると、外傷もなく気絶しているだけのようだ。

 奥へと消えていった大鼠の鳴き声と下水の跳ねる音が聞こえると、更に一つ大きな鳴き声が響き静まり返った。

 まさかミィの声ではないかと心配になったが、何かを引きずっている音と共に人影を確認することが出来た。


「大丈夫か!?

 怪我は?」


 声をかけたが返事はなく、低い姿勢のまま音と共に近づいてくる。


 一気に不安が押し寄せ銃を構えるが、徐々に姿がはっきりとしてくる。

 何故に返事をしなかったのかと思ったが、なんて事はない。

 大鼠の首筋に噛みついたまま、それを引きずって来ていたのだ。


「そのままこっちに来るなよ!」


 捕まえたと得意気に見せようとするミィを立ち止まらせ、大鼠をその場に置いてくるよう命じた。


「せっかく捕まえたから見せたかったにゃ」


 頬を軽く膨らませ、ぶつぶつ愚痴を言いながらも、片腕を押さえたままジェスタの傍にしゃがみこんだ。

「まだ、完全じゃないんだからムリするなって言っただろ?

 でも、本当に仕草といい、ネコそのままなんだな」


「逆にゃ。

 猫がわたし達と仕草が同じなんだにゃ」


 確か、善なる亜人達の一部が魔神や邪神に触れた事によって、善と悪の間の人と言う意味を持つ人間と動物などに別れたと聞いた。

 元を正せば亜人が始まりなのだとも。

 だからといって、訂正することもないだろうとは思うが。


「う、うぅん……」


「気づいたか?

 ジェスタ、ジェスタ!」


 眠りから目覚めるように徐々に瞼を開けると、眉間にしわを寄せ再び目を閉じる。

 何があったのか、自分なりに状況を把握しようとしているのだろう。


「うぅっ。

 どうやら、生きてるらしいな。

 頭がガンガンするぜ」


 言いながら体を起こし壁にもたれかかると、自分の頭を触りまくっている。


「頭を打ったのか?

 どうだ、大丈夫か?」


「あ、あぁ。

 どうやらコブは出来てるが、特には大丈夫そうだ」


 とは言っているものの、苦痛に耐えるかのように、しかめっ面で頭を押さえている。


「だったら、わたしが神秘術(カムイ)を使ってみるにゃ」


「そうだ、そうだった。

 亜人なんだもんな。

 治癒系の魔法が出来るのか?」


 魔法よりも古く、既に失われていると云われている秘術。

 神秘術と魔法は一緒のようで一緒ではないのだが、人間にはひっくるめて魔法という呼び名のほうが馴染みがあって分かりやすい為、ついつい魔法と返してしまった。


「神秘術!

 魔法は破壊的だから違うんだにゃ。

 治るといってもどこまで治るか。

 わたし、術は得意じゃないからにゃぁ」


「頼む。

 コブはあってもいいから、この痛みだけでも取り払ってくれ」


 ジェスタの懇願にミィは首を縦に振ると、頭に両手を持っていき、聞いたことのない言葉の羅列がミィの口から発せられた。

 すると、間も置かずにぼんやりと青白い光が頭を包みだした。


「これが、魔法……」


 初めて見る神秘術に感嘆し、幻想的な光景に興味をそそられる。


「……どうかにゃ。

 痛みは和らいだかにゃ?」


 若干だが不安そうに見えるのは、本当に得意ではないのだろう。


「おいおい、魔法ってこんなにスゴイのかよ!

 あの痛みがウソみたいだぜ」


 どうやら上手くいったようで、ミィと一緒にオレも胸を撫で下ろす。


「今の魔法――秘術って、何て言うんだい?」


「今のは『治癒(ヒール)』って言うにぁ。

 切り傷とか打ち身程度しか治せないけど、痛みを取り除くくらいなら、これが簡単で手早いにゃ」


 百年程前に魔法戦争が起こった理由が少し分かる気がした。

 こんなに簡単な方法で治したり破壊したり出来るなら、魔法の魅力に取り憑かれても無理はない。


「でもよぉ、魔法じゃなく秘術っても、原理としては魔法と変わらないんじゃないのか? 

 だったら、寿命が短くなるんじゃねぇのか?」


 ジェスタの言う通り、魔法を使うから寿命が短くなるということが分かり、その結果、人間界から魔法は廃れていってる。

 しかし、ミィは笑顔のまま、そんなことはないと否定した。


「大丈夫にゃ。

 亜人には元々『神秘力(カムナ)』が体の中に備わっているから、人間と違って生命力を使う必要がないんだにゃ」


 初めて聞く言葉と、初めて聞く原理だ。

 ただ、それなら疑問も出てくる。


「だったら何故、亜人から派生した人間には神秘力が備わってないんだ?」


 オレの疑問にジェスタもそうだと頷いている。


「ん?

 そんなことも知らないにゃ?」


 そう言うと、腰に手を当て鼻を鳴らし、さも得意げな態度をとりだした。


「人間と動物に別れたときに、色々なことも別れたんだにゃ。

 簡単なところでいくと、言葉は人間に、五感の発達は動物に。

 とか、二足歩行の代わりにバランスの取れる尻尾とか、わたし達の持ってるものが真っ二つになったんだにゃ。

 だから、動物達は神秘力や魔力(マナ)には敏感だけど、寿命は人間の方が長いんだにゃ」


 そういった理由があったとは初耳だった。

 大戦前に亜人達は人間界からいなくり、その辺りの詳しいことは人間にはあまり広まらなかったのだろう。


「な~るほどね。

 人間に限り、魔法を使うには命を削るってワケか。

 のし上がるには魔法が手っ取り早いとは思ったが、そうそう簡単にはいかないってな」


 そうだ、魔法さえ手にすればもっと裕福に暮らせるだろう。

 なんだったら、城で暮らすことだって夢ではないだろう。


「ジェスタ。

 まさかとは思うが、お前」


「はんっ。

 なんだ?

 オレが力を欲しがってるように思ったんだろ。

 残念だが、全くの見当違い、思い過ごしってヤツだな。

 力が欲しいんじゃねぇ、力無き者を守る英雄になりたいだけさ。

 それにはある程度の力だって必要とは考えてるが、早死にしたら助けられる命も守れる命も少なくなっちまう。

 それじゃあ英雄とは呼べねぇと思うからな」


「ジェスタ……」


 今ほどこいつと知り合えていて、本当に良かったと思ったことはない。

 ただただ子供のように、漠然と英雄になりたいのだと思っていたが、どうやらオレは何も分かってやれてなかったらしい。


「ありがとぉな、猫娘。

 次は、次こそはオレが守ってやるからよ。

 それじゃ、行くかぁ。

 オレが主役になる旅の始まりへ」


 オレとミィも同意し、アフメド爺から貰った地図を頼りに右へ左へ何度も曲がるとかすかに光が見え始め、途端に全員が走り出した。


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