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ネコ耳ばすた~ず 0  作者: 七海玲也
第一章 亜人と英雄
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忍び寄る影

「さて、と。

 これからどうするんだ? 

 レイヴ」


 ジェスタの問いに困惑した。

 なにせ行く宛てなどないのだから。


「どうするも、ここから出るってことしか……。

 オレもその後は何も分からないんだ」


「いいだろ、面白そうだ。

 どうこうなる鍵はそこの眠り姫次第ってワケだろ?」


「どうやらね。

 この子と一緒に逃げる、ってのが今の目的だからな」


「だったら、そろそろ行こうか?

 こんな下水の匂いをいつまでも嗅いでたら、それこそ体に毒だぜ。

 怪我してんだろ、その子」


 ボロボロだった包帯をマリ姉が新たに巻き直してくれたおかげで、どこから見ても怪我人そのものなのだ。


「だな。

 お前達のおかげで休めたし。

 行こうか、外の世界へ」


 仲間と出会えた事で心にゆとりが生まれたのか、先ほどの疲れは何処へやら体が軽く感じられる。

 その勢いのまま女の子を背負おうとしゃがんだ時だった。


「ん……こ……こは……」


「気づいたのか?

 大丈夫か?」


 話かけたオレにゆっくりと顔を向け目が合うと、驚いた表情と共に一瞬にして距離を取る。

 体を庇うように腕を巻きつけ睨みつけて。


「おいおい、オレが助けてやったんだ。

 追われてたんだろ?

 大丈夫か?」


「あなたは、違うっていうかにゃ!」


「な……!

 何が違うって?

 オレは追ってる奴等とは違うし、お前をどうこうするつもりもないって!

 たまたま助けてやっただけだよ」


 かなり焦った。

 いきなりの敵視は予想もしていなかったことだ。


「まあ、驚くのもムリないわな。

 ……オレはジェスタ。

 こいつの言ってる通り追ってきてた連中とは逆で、君を逃がそうとしてんだ。

 違うだろ?

 オレらの服装は」


「服装がどうかしたのか?」


「なんだ、知らないのか?

 あの連中、全員全身真っ黒だったんだぜ。

 あんな格好、ここじゃ目立って仕方なかったぞ」


 思い出したのか、含み笑いと共に追手の情報を教えてくれたが、確かに黒ずくめじゃ目立って仕方ないだろう。

 貧民街に揃いの格好なんてまず有り得ない。


「だ、だからって、人間なんて信じられないにゃ!

 アイツらと外見は違っても、中身は一緒にゃ!

 わたしを捕まえる気にゃ!!」


 信用しまいと必死に訴える女の子の目が緑に光り、大きくなっている気がする。

 それには気づいていないのか、ジェスタが身構える女の子を前に両手を広げ、無害だと意思表示している。


「捕まえる気なんて更々ないが、今、その怪我した体を守ってやれんのはオレらしかいないんだぜ?

 だったら、オレらに付いて外に出れた方が得策じゃないのかい?」


 的を得ているジェスタの問いに反論が出来ないでいる。

 簡単に納得できないのは信用していないからだろう。


「そうだけど――けど!!

 えっ!?

 怪我がこんなに早く、痛みが引いてる。

 手当て……してくれたんだにゃ」


 ようやく手当てしたことに気がついてくれたが、腕をグルグルと回し腰を捻り、さっきまでの瀕死のような状態は何だったのか考えてしまう。


「手当てはしたがそんなに腕を振り回して平気、なのか?」


「うん、かなり良くなってるからもう平気だと思うにゃ。

 あとは舐めれば治るにゃ」


 あんな怪我でもう平気とは、いくらマリ姉でもそんな一瞬で治すなんて聞いたことはない。


「この匂いは、ユルムクの実とエリューダの葉を混ぜてくれたんだにゃ。

 それなら早く治るにゃ」


 どんな薬を使ったのか分からないが、疑いも晴れたようで胸を撫で下ろしていると、包帯をも外し始めた。

 が、目を疑うものが目に飛び込んできた。


「お、お前!!

 頭と――それって尻尾か!?」


 今日だけで何度驚くことが起きるのか。


「頭って、これ耳だよぉ。

 尻尾は『自慢のしっぽ』なんだにゃ!」


 腐街(スラム)では全く見かけない姿に驚いたが、都会ではこんな猫のような格好が流行っていたのかと不思議に思った。

 服自体は若草色した動きやすそうな袖なし短パンなのだが、どうやら服ではなく装飾品に凝っているようだ。


「なんで、そんな飾り付けてるんだ?

 そうゆうのが流行ってるのか?」


「ん?

 だから飾りじゃなく、自慢のしっぽって言ってるにゃ。

 わたしは人猫(ワーキャット)

 人間じゃないから、飾りの耳もしっぽも付いてないにゃ」


 人猫って、亜人なら既に人間界からいなくなっているはずだが。


「人猫!?

 人猫が、な、なんでこんなところに!?」

 

 動揺が隠せなかった。

 魔者や魔獣とも縁のない生活だったのに、居るハズのない亜人が目の前に存在している。


「っ!

 それは――人間にさらわれてわれてきたからにゃっ!」


 何か思いだしたのか、怒りを露わにしてオレ達を睨みつけている。


「そ、そうだったのか……。

 なんと言っていいのか……」


「あっ!

 ごめん、君達は悪くないにゃ。

 むしろ手当てまでしてくれたのに、君達も悪い人間じゃないかもなのに」


「いや、いいんだ。

 同じ人間がしたことなら責められても仕方のないことだから。

 それでも信じてくれるなら助かるよ」


「だな。

 しかしまぁ、まさか誘拐とはね。

 それも亜人の人猫ときたもんだ。

 これこそ待ってた展開ってやつだ。

 オレは君に全力で協力するぜ!」


 暗がりで瞳の奥まではみえないが、世界に名を轟かせたいと思っていたジェスタのことだ、目を光らせているのだろう。


「あぅ、ありがと。

 そうだ!

 わたしはミィ。

 ミィっていうにゃ。

 君は?」


「オレはレイヴ。

 ミィか、よろしくな。

 こっちは、さっきも言ってたがジェスタだ。

 もう歩けそうなら、そろそろ行かないか?

 こんなとこは早く出よう」


「うん、わたしは大丈夫にゃ。

 それじゃあ行こうにゃ」


 色々と驚くことが多かったが、ようやく出口へと向かい歩き出す。

 話だとそんなに急ぐ必要もないらしく、ミィの体も完全ではないと思い、ゆっくりとだが奥へ奥へと進んで行く。


「これからどうするんだ?

 オレには行く宛てがないんだが」


 誘拐とあらば人間界ではなく亜人界から連れて来られたのだろうが、帰る為には何らかの魔法が必要だろう。

 かといって、世界から廃れつつある純粋魔法に関する知識はまるでない。

 となると、ミィに付いて行くしか他はない。


「わたしは、ママを助けに行くにゃ。

 今も捕まってると思うから……」


 そんなまさか。

 ミィだけではなく、母親をもいうのか。


「一体何故!?

 どういうことなんだ?

 亜人界にいたんだよな?」


「うん、そうだにゃ。

 わたしとママは亜人界、人猫や人狼(ワーウルフ)とかが人間と動物に別れる前の姿をした、亜人のいる世界にいたんだにゃ。

 それがある日、ママと森にいたらキラキラした中から人間が現れたから驚いて、逃げようと思ったら魔法で眠らされて。

 目が覚めたら……手足を縛られて人間界の部屋にいたんだにゃ」


「それで助けに行くのか――分かった、オレ達も行こう。

 ミィ一人じゃ心配だし、そんな人間のしたことは同種族としても許したくない、許せないからな」


「えっ?

 いいの?

 助けてくれて治療までしてくれたのに……」


 ミィの言葉を遮り、ジェスタがオレ達の前に出ると、掌に拳を打ちつけた。


「レイヴの言うとおり、そいつは許せねぇな。

 猫娘よ、心配はいらねぇ。

 悪いとも思わなくていい、オレは勝手について行く。

 勝手について行って、母親を助ける。

 ついでに、そいつをぶちのめしてやるぜ」


 いつものことだが、ジェスタの正義感には感心する。

 助けが必要とあらば、すぐにでも行動を起こせるのは英雄の資質があるのではないかと思う。

 

「しっ!

 待つにゃ」


 静かにしろと口元に指を当てたミィを見ると、視線は向かう先を見据えていた。


「なんだ!?

 どうし――」


 歩みを止め、驚き聞きかえしたオレの口を手で塞ぐ。


「何かいるにゃ!

 静かにして」


 耳を澄ますと下水の流れる音に混ざり、動物の鳴き声のようなものが聞こえてくる。

 こんなところにいる動物だと限られてはいるが、果たして動物なのか。

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