エピローグ
ミィの母親を救い出すという目的は寸でのところで達することが出来ず、あれから数日経った今でも悔しさが残っていた。
「なぁ、ミィ。
これからどうする?」
あの後すぐに国境近くにある神殿に向かいミィの母親を弔ってもらうと、行く当てもなかったのでそのまま神殿でお世話になっている。
悲しみが拭いきれず何もする気が起きなかったのもあり、こうして神殿で手伝いをしながら過ごしていた。
「ん~、亜人界には一度でいいから帰りたいかにゃ。
パパや兄妹にも知らせなきゃいけないし、心配してるだろうからにゃ」
「だよなぁ。
オレも予言者は見過ごしてはいけない気もするしなぁ」
しかしながらどう動くべきなのかは何も思い浮かんでいない。
人間界全体を裏で支配する予言者の情報なんて、その辺りに転がっているわけはない。
だからと言って、誰かに聞いたところで信じてもらえるなんて思ってもいない。
亜人界への行きかたもそうだ。
扉を開けた術士か、それなりの特別な知識を持っている者を捜さなければならないだろう。
「どうしたら良いのか。
当てもなく聞いて回ったところでなぁ」
神殿の庭には一本の大木があり、その下で寝転ぶのが今やオレとミィの日課でもあったのだが、そうしていても考えなんてそうそう纏まるものではなかった。
「そうだにゃ~。
わたしなんて特に人間界のことも分からないからにゃあ」
二人並んで空を見上げていると誰かが近づいてきた。
「あら、またここでしたか。
毎日毎日、仲良く何を悩んでらっしゃるのかしら?」
この神殿に仕え、最高位でもある神仕のウェンディが青空を遮るように覗き込む。
「よく悩んでいると分かりましたね。
ウェンディには何も話していないのに」
「ふふふ、分かりますよ。
俯いていたら落ち込んでいるものですし、空ばかり眺めていたら悩みを抱えてるってことですから」
「それだけで?」
「はい、それだけです。
他の特徴も踏まえた上で、ですけどね」
そう言ってオレのすぐ隣に腰を落ち着かせ、一緒に空を見上げた。
「悩みのない人間なんていないに等しいと思いますが、人間の行動というのはひどく単純なも
のなのです。
だから、数日もいれば話さなくても色々なことが分かりますよ」
「例えば?」
「うふふ、そうですね。
あなたは優しさに満ち溢れていて、それでいて何かを守ろうといつも闘いに身を置いていること。
そして、ミィさんのことを大切に想っていること、かしらね。
どうですか?」
ミィの名前が出たせいで何気なしに隣を見ると、顔が徐々に赤らんでいっている。
「わ、わたしとレイヴは、そ、そんな仲じゃないんだから!
違うにゃ!」
まぁ、当たってはいるのかな。
ミィがどんな想像をしているのかは分からないが、家族のように、妹のように想っているのには違いない。
「ふふふふ。
助言、になるかどうかは分かりませんが、道を変えてみてはどうでしょう」
「というと?」
「そうですね。
本質は一緒でも、やり方を変えてみてはいかがでしょう。
待つことも手段の内ですし、自ら動くのも手段の一つです。
成すべきことの始まりは、案外遠回りだったりするものですよ」
言われてみても、情報を集めなければ始まらないのに。
始まりは遠回り、ね。
「なにか、思い浮かびそうなお顔をしてらっしゃいますね。
ふふふ、お役に立てたようでなによりです。
さて、わたくしはそろそろ戻ることに致しましょう」
「ぼんやりとだが何か分かりそうですよ。
ありがとう」
「いえいえ。
それでは失礼致します」
ウェンディの言葉はまるで魔法のように思えた。
今までは目的の情報だけを集めることを考えていたが、たくさんの人から情報を得られたらその中に目的のものも含まれているかも知れない。
たくさんの情報を得るのは確かに遠回りではあるが、着実に目的へと繋がる。
ただ、問題なのはその手段だ。
待っているだけでも、動いてでも。
「あぁ!
なるほどな。
いいことを思いついたよ、ミィ」
「にゃぁ?
どんなことにゃ?」
「オレ達で何か悩んでる人、困っている人を助けよう」
「ここに住むってことかにゃ?」
ま、まぁ確かにそう取られても仕方なかった。
「そうじゃなくってさ、解決してやるんだよ。
んー、なんて言えば。
そうだな、何でも請け負う、何でも屋みたいな感じさ。
店を持たずにいろんな街に行って、色んな人と触れ合うんだ。
そうすれば何か手掛かりが得られるかも知れないだろ?」
「でも、待ってても相談に来るかにゃ?」
「そう!
だから広めるんだよ、人猫のことも一緒にさ。
扉を開けた奴と予言者の耳に人猫の噂が入ってきたらどうする?
接触してくるだろ?
情報を集めつつ、向こうから来るのも待つのさ」
「お、おぉ~!
レイヴすごいにゃ!
で、で?」
「猫に関する名前にしたら簡単で分かりやすいんだろうな。
それで、問題解決屋だから……。
そうだな」
その時オレの頭の中にはミィと出会い、衝撃を受けたことを思い出していた。
「猫耳……。
『猫耳バスターズ』ってのはどうだ?」
「か、か、かっこ悪くないかにゃ……」
「そうか?
猫耳って聞いたら人猫と接点がある奴なら気にするだろうし、良いと思うんだが。
ダメか?」
「却下にゃ。
わたし的にはもっとこう強そうな、ババーンってイメージのがいいにゃ」
「なら、猫爪撃団とかそんな名前がいいのか?」
「うん!
それ!
それがいいにゃ!!
すっごく強そうにゃ。
ふんふんふん」
こんな名前を掲げて歩いていたら困っていても近寄りがたいと思うんだが、ミィは拳を突き出しポーズをとったりしている。
「却下。
こんな名前近寄りがたいだろ?
ダメだ、ダメ」
「えぇ~、そんにゃあ。
じゃあ、じゃあ……」
色々な案も出たが、ミィの考えたものはどうしても受け入れられず全て却下し、結局のところ最初の『猫耳バスターズ』に決まった。
名前を決めた翌日にはウェンディに別れを告げ、また新たな旅が始まった。
最初はどこか近くの街からから始めて、徐々に行ってみたい街へ行こうと思っている。
「ねぇねぇ、猫戦士団はダメかにゃ?
今ならまだ間に合うにゃ!」
これも却下だな。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
七海玲也と申します。
ネコ耳の導入部にあたるエピソード0いかがでしたでしょうか。
ネコ耳 1と多少の食い違いはあるかも知れませんが、そこは大目に見て欲しく思っております。
さてさて、掲載を始めてからだいぶ月日が経ってしまいましたことをまずはお詫び申し上げます。
大変長くなったこと申し訳ございません。
実際、話的には出来ておりまして編集を加えて掲載するだけだったのですが、体調やら色々重なりまして随分と経ってしまいました。
もっともっと話を広げたかったのも事実でありましたが、それをしてしまうとエピソード1にも手を加えなければでより遅くなると判断し、このようなストーリーになりました。
導入部ということもあり、様々な人との出会いとレイヴの性格や考えが固まっていく物語であり、冒険し成長するとはまた違った展開だと感じております。
ここからbridge 1を経てネコ耳 1へと繋がるわけですが、これがあるとどうしてもネコ耳 1の過去編がと思ってしまい、いつの日かその部分は修正を加えたいと思っております。
色々と長くなりましたが、既に掲載済みのネコ耳 2も続きはありますので是非ともお読み下さればと思っております。
では、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
七海玲也でした。
またimaginationの世界でお会い致しましょう。




