詰問
どれくらい待っただろうか、足音と声が薄っすら聞こえ始めた。
壁伝いに覗き見ると動く影は三つ、上手くやってくれているみたいだ。
段々と近づいてくるのが分かり、飛び出す機会に集中する。
近すぎるとミィに当たり、遠すぎると魔弾が届かず魔法が先に発動してしまう。
「…………………ミィ!!」
飛び出し叫ぶと同時に魔弾が一直線に飛んでいく。
タイミングは完璧、ミィが横に飛び退くと後には【魔縛】に捕らわれた警備兵がもがいていた。
すぐさま駆け寄り小剣を向けると観念したのかもがくのを辞めた。
「聞きたいことがある。
あそこには何がある?」
「……知らねぇな……」
「一人を淫魔女の餌食にすれば、もう一人が言ってくれるかもにゃ」
しらばっくれる警備兵への苛立ちからか、ミィらしからぬ思いもよらない発言が飛び出している。
「オレが話す!
何でも言う!」
「この状況だ、お前が正しいと思う」
動けぬまま淫魔女の餌食にされると脅されたなら普通は誰しも同情してしまうが、それを口に出すことで単なる脅しではないとの印象を与えるべきだろうと判断した。
「オ……オレも言うから淫魔女は勘弁してくれ」
なんだかアルの言動に近くなっている気がして微笑んでしまった。
「ホントだ!
本当に言うから!」
「ん?
あぁ……」
暗い中で微笑んだことが本気なのだと勘違いされたようだった。
「あそこは施設、研究施設だ!」
「貧民や奴隷を連れて来ては人体実験や魔法の抽出をやっている!」
「そう!
魔者も捕まえて研究と実験しているところだ」
聞いてもないことを言ってくれるところをみると、聞いたら何でも答えてくれそうだ。
「なら最近、人猫が運ばれて来なかったか?」
「来た来た!
運ばれてきた。
噂じゃ、どっかの研究所から運んで来たって話だ」
「あぁ、特別扱いされてたみたいだったな。
魔術師みたいのやらが数人一緒だったって」
どうやらこの場所のあの塔で正解だったようだ。
「どこにいるにゃ!
どうやって入るにゃ!」
目の色を変えたミィが一人の首筋に爪を立て詰め寄った。
「ひぃっ!
う、裏口から入れば誰にも見つからずに行ける、と思う」
「そ、そうだ、今ならそこは手薄なはず。
夜は魔者の進入を警戒するので手一杯だから」
「裏口ってどこにゃ!?」
「そ、それなら厩舎の中、奥に鉄格子があるからその中だ。
こ、腰の鍵で開けられる」
「行くにゃ!
レイヴ!」
「だな!
と、その前に。
悪いが今度は眠っててもらうよ」
去り際に振り向き警備兵に【魔痺】を打ち込んでおく。
魔法の効力は永遠ではない、起きていられると面倒になるかもしれない。
辺りの警戒も忘れ裏口へ向かうミィを追いかける。
相棒のように感じていた背中を見ているとまだ少女なんだと、忘れかけていた思いが呼び起こされる。
「この奥だにゃ。
レイヴはお馬さんが騒がないように静かについてくるにゃ」
猫だから馬の扱いにも慣れていると信じぴったりと後ろについていく。
が、扱いがどうこうではなく聞きなれない言葉を発し、会話をしているようだった。
「静かにしてれば騒がないって言ってるにゃ」
ミィを信じ馬を横目に静かに通り過ぎると、牢獄のような鉄格子に囲まれた部屋に扉があった。
奪った鍵で鉄格子を開けると、部屋の扉の鍵を合わせ中へと入る。
すると、人の気配もなく真っ直ぐな通路に魔法であろう明かりが灯されている。
「ここにいるんだにゃ……」
緩やかに円を描くような通路にオレ達だけの足音が響く。
扉も何もなく、ただただ進むとそこは行き止まりだった。
「なんだ?
行き止まりって。
どうなってるんだ?」
「待つにゃ……ママの匂いが……。
そこの壁のから途切れてるにゃ」
鼻をひくつかせるミィの言う壁を触ってみるが、特に変わったところは無いように思う。
「どういうことだ?
何もないぞ」
「もしかしたら魔法かにゃ?
やってみるにゃ」
「出来るのか?
魔法が」
「少しなら、にゃ。
乱暴な魔法は出来ないけど【解除】くらいなら」
魔言を唱えるミィを黙って見ていると、重い音と共に壁の一部が回り始め半開状態で止まった。
「魔法で閉ざされているなんてな」
「匂いが近いにゃ!」
開いた壁を僅かに行った所でどうやら人がいるであろう部屋へと辿り着いた。
「ここか?」
「ママの匂い……!
ママ!!」
いてもたってもいられなかったのだろう、不用心にも中へ入ると男が数名こちらに顔を向ける。
「誰だっ!
……人猫!?」
「ママはどこにゃ!!」
今にも飛びかかる勢いのミィに畏怖し奥の扉へ逃げて行くが、それを追うと部屋には全身黒の衣装を身に纏った男が座っていた。




