魔都ルドル
まだ森に入ったばかりだというのに、食人鬼などと強力な魔者がいるとは先が思いやられる。
道なき森を慎重に、ミィの耳を頼りに奥へと進む。
魔都を中心に広がった森は中心に近づくにつれ魔者との遭遇は高まるが、どうにかやり過ごしながら進むと高い壁が姿を見せた。
「ここが、魔都ルドル」
「この中にママが……行こうレイヴ!」
足音を立てないよう壁に沿って歩く。
「あれか?
あそこが入口のようだな」
壁が途切れ一段高くなっている所を指差し、注意するよう促す。
「大丈夫にゃ、まだ何も聞こえないにゃ」
門まで辿り着き魔都の様子を窺うが、怪しげな雰囲気ばかりが先立ち何も感じることはなく、あるのは廃屋ばかりだった。
「どうだミィ。
何か聞こえるか?
オレには気配すら……」
「大丈夫そうだけど、ホントにここに居るのかにゃ?」
オレも同意見だった。
聞こえてくるのは鳥の不気味な鳴き声ばかりで、本当に人が居るのか疑ってしまう。
「とりあえずあそこの廃屋まで行ってみよう。
ミィ、先を頼む。
後ろは任せろ」
「うん、静かについて来るにゃ」
後ろを警戒しつつすぐ近くにある廃屋へ入ると、そこには人骨だろう骨がいくつも散らばっていた。
「食人鬼みたいな魔者にでも喰われたのか。
散々だな、こんなものを見るのは」
「だから本能だけの魔者は好きじゃないにゃ。
どうするにゃ?
これから」
来たは良いものの何の手掛かり無しではどうしようもない。
「研究所から運ばれたならどこかそれらしい所があるハズなんだが。
手当たり次第に探すしかなさそうだな」
「やっぱりそうなるにゃ。
だったら大きな建物からかにゃ?」
「そう……だな。
それが無難か」
少し落ち込んだ様子のミィだが、こればかりは仕方のないことだと思う。
注意を怠ることなく廃屋を後にするが、都と呼ばれるだけあり建物の多さにそれらしい場所すら見つけられない。
「こんなんじゃ見つけられないな」
「あっ!
あそこから見渡したらどうかにゃ?」
ミィの指した廃屋は他よりも二階ほどは高く、昔は何かの店だったようだ。
「あれなら!
行くぞ、暗くなってきた」
そろそろ日が傾いてもおかしくないとは思っていたが、森の中で更には臭気に満ちている為だろう、日が落ちかけているくらいの明るさになっていた。
「ここか。
行くぞ!
ミィ」
「待つにゃ!
中から声が…………。
と、とり……あえず、し、静かに上るにゃ……」
話の途中から顔を赤らめしどろもどろになっている。
魔者がいるかも知れないのに何を恥ずかしそうにしているのか全く訳が分からない。
「何かいるかもなんだな?
人か?
魔者か?」
「た、多分、人にゃ。
で、でも、無視して別の建物を探した方がいいかもにゃ」
「ん?
人なんだろ?
だったら何か知ってるかも知れない。
もしかしたら、当たりって可能性も」
「で、でも……無視しても」
「分かった、分かった。
聞き耳だけ立てて、関係がないようであれば無視するさ。
どの辺りか案内してくれ」
意見が通らなかったことになのか、先程より顔を赤らめ膨れっ面をして入って行く。
「こっちにゃ。
この先にゃ。
ここで待つから勝手に行くといいにゃ」
二階に上がり、数ある扉のある廊下を突き当たった所で止まった。
宿か何かだったのだろう、朽ちた扉の向こうにベッドらしきものが見えていた。
しかし、今度は何を怒っているのか顔を合わせないようにそっぽを向いている。
「分かった。
少し聞いてくる。
見張っててくれ」
音を立てないようゆっくり静かに進むが、これだけ朽ちていると一歩ごとに廊下が軋んでしまう。
灯りのない建物の中は正直不気味で、先に進むほど暗くなっている。
五部屋程過ぎたところで、ようやくオレにも何か声らしき音が聞こえるようになってきた。
ここからは、より慎重に聞き耳を立てながら近づいていく。
が、何かおかしい。
話声にしては女性のような高い声が一方的に聞こえ、物音まで聞こえたりしている。
これ以上近づくのは危険と判断し、目を閉じ声に集中してみると全てが理解できた。
宿であったであろうこの廃屋で情事が行われている声。
さすがに今あそこに踏み込む勇気はなく、気持ちが落ち着くまでは上の階で街の様子を探ることにし、ミィのところまで戻った。
「えぇっと、上に行こうか」
今度はオレがまともに見ることが出来ず、恥ずかしさを押し殺すので精一杯になってしまった。
「そ、それがいいと思うにゃ」
なんとも気まずい。
お互い無言のまま三階へ上がると、適当な部屋の窓から街を見渡した。
「あれが一番大きくないかにゃ?」
「確かにあそこが一番大きそうだな」
気まずさを無くそうと本来の目的に目を向ける。
以前はルドルの領主が住んでいた館だろう、小さな城のような建物が遠くに見える。
「だが、やけに鳥が集まってないか?
黒い点がいくつも見えるな」
「何か飛んでるのは分かるけど、何かがあるから飛んでるんじゃないかにゃ?」
となると、やはりあそこが怪しいか。
「あら?
若くて良い男じゃない?」
不意にした声に驚き、振り向きざまに魔法銃を構える。
「何者だ!?」
布一枚羽織っただけの出で立ちの女性がドアのあった柱にもたれかかっている。
「あら、そんな怖い顔しないで。
さっきは興奮してくれたかしら?」
情事を行っていた女性か。
まさかバレていたとは。
「そんなことより、こんなとこで何をしている!?」
「何って?
あなた達が聞いてたとおりよ」
舌舐めずりしながら近づいてくる妖艶な雰囲気に意識が朦朧としてくる。
「それ以上近づくな!
敵とみなすぞ!」
「あら、あなたもしたいんでしょ?
あ・た・し・と」
銃がとても重く感じ、持っているのもバカらしく思えて腰に戻すと女性の手が顔に触れる。
この感覚を味わっていたい。
「ちょ、ちょっと、レイヴ!?
どうしたにゃ!?
しっかりするにゃ!」
ミィの声が聞こえるが放っておいて欲しい。
オレはこの人と…………。




