約束の別れ
放たれた魔弾はアルを捕らえることなく後ろの壁に当たり、電気を放出している。
魔弾を避けたアルは所長の手を取り背負い投げると、魔法銃を構え出した所員に向かっていく。
とっさのことに出遅れたが、オレの銃口は既に【魔縛】で一人捕らえていた。
オレとアル、両方からの攻撃に慌てている所員にアルが突っ込むと、片っ端から投げ飛ばしている。
「慣れてもねぇヤツが武器なんて構えんじゃねぇよ!」
アルの一喝にまだ武器を構えている所員は武器を捨て手を挙げ投降の意を表した。
安全を確認しているのか、ミィと依巳莉、オルドが物陰からこっそり伺っている。
「依巳莉、もぉ大丈夫だから出て来い。
んで、レイヴ達もこれを見てみろ」
アルに呼ばれ先程の紙に目を通すと、所長の言っていた通り人猫を魔都ルドルへと移送するよう書かれている。
サインもあるようだが、いざこざで破れ『ランカスター』の名しか読むことは出来なかった。
「これでここにはもう用はねぇ。
コイツらはどぉすっかな」
腰の小剣に手を伸ばすの見て慌てて制止した。
「殺さずともいいだろ。
ここから出るのに役に立ってもらおう」
「どぉ役立たせる気だ?」
「所長以外は凍らせて、所長と共に出たら怪しまれないだろ?」
「なるほどな。
研究中の事故に見せかけたらオレらも安全ってワケか」
「所長にとっても公にはしたくないだろう、表向きはまともな製造所なんだから」
納得したアルが気絶している所長を叩き起こすと、脅しつつ経緯を説明した。
「んじゃまぁ、やってみようか?
オレがやるからみんな出てな」
アルに【氷結】を装填した魔法銃を渡し、所員達の残る部屋を出た。
中の様子は気になるが、二重の扉が音を遮り何も聞こえてこない。
しかし、それほど待つこともなく扉が開くと、アルが魔法銃を回しながら出て来た。
「こいつはすげぇな。
魔法の代わりってのには納得するぜ」
「上手く出来たのか?」
「心配無用だな。
みんなカッチカチだぜ。
さ、行こうか」
所長に連れ添われる形を取ると、すれ違う所員に疑われることもなく、外までなんなく出る事が出来た。
舌打ちだけを残した所長が去ると、オレ達は今後の動向について話し合うことになった。
「アル。
魔都ルドルにはオレとミィだけで行くよ」
「オレらは必要ねぇってか?」
「そうじゃないさ。
あの姉妹のこと、お願いしたいんだ」
「それならセレンに見てもらってんだからいいじゃねぇか」
「約束したんだ。
オルドの所から解放されたら面倒を見ると。
だが、これからオレ達はどうなるか分からないのに、いつまでもセレン一人に任せてもおけないだろ?」
「そりぁそうだがよ。
それなら後から合流するってのはどぉよ」
「危険な場所に姉妹を連れて行く訳にも行かないし、一刻を争うかも知れないんだ。
オレ達が無事ならどこかで会うこともあるだろ。
その時まで姉妹を頼みたいんだ、オレ達の代わりに」
ここまで首を突っ込んだので最後まで見届けたいのだろう。
悩むアルの肩に依巳莉の手がそっと置かれた。
「ねぇ、アル。
ここは引き受けましょ。
行きたい気持ちも分かるけど、あの子達の気持ちも考えてあげて。
多分、あの街から早く出たい筈よ」
あんなことをさせられていた街にいつまでも居たい訳はない。
その辺りを理解出来るのは女性ならではといったところか。
「依巳莉が言うなら、まぁ仕方ねぇか。
オマエら絶対死ぬなよ。
姉妹は預かるだけなんだからな。
いつか必ず引き取ってもらう、なんせ女二人で手一杯だからよ」
と言った瞬間、アルの尻に依巳莉の蹴りが飛んだ。
「あんたね、私がいつ世話を焼いたってのよ! あんたの方がよっぽど大変よ!
あっちに首突っ込んで、こっちに首突っ込んで、振り回されてんのはこっちなんだからね!」
どうみても尻に敷かれている。
そんな二人はまるで長年連れ添った夫婦のようにさえ思える。
必死に弁解するアルの姿があまりにも滑稽で、ミィと共に笑ってしまった。
「ま、まぁ、なんだ、オマエら約束したからな。
当分の間は大陸にいるつもりだから、それまでのお別れだ」
「あぁ。
姉妹のことは頼んだよ。
必ず迎えに行くと伝えてくれ」
固い握手を交わしアルから小剣を譲り受けると、彼らはオルドを連れ暗がりの中に消えて行った。




