魔弾製造所
計画通り昼過ぎから歩き始め夜も深くなったところで、林の中にひっそりと建つ魔弾の製造所へと辿り着いた。
「さぁ、オルド。
あんたに依頼したってやつを呼び出してくれ。
……変な真似はするなよ、穏便に済ませたいんだ」
「分かった。
言う通りにしよう」
オルドが一人建物に近づき、衛兵と何やら話をしている。
その間、ミィには申し訳ないが後ろ手に軽く縛る。
オルドの手下として振る舞う為に致し方ないとはいえ、あまり気持ちの良いものではなかった。
そうこうしていると、建物から何人か現れオルドが手招きをしている。
「こいつで間違いないか?」
オルドが建物から現れた白衣の人物にミィの帽子を取り確認をすると、白衣の男は頷きにやけている。
「そうですとも、こいつだこいつ。
手間を取らせやがって。
さぁ、こっちへ来い」
「まぁまぁ、焦らずとも。
報酬と交換といきましょうか」
「ふん。
そうですな。
では、中でお渡ししましょう」
白衣の男二人に先導され建物の中を奥へ奥へと進む。
最奥部であろう扉を抜けると、地下へと続く螺旋階段が現れそれを降りて行く。
悪さをする奴はつくづく地下が好きだと思っていると、真っ白な壁に覆われた通路が延びていた。
一瞬だけ足の止まったミィを見逃さなかったオレは、小声で確認してみた。
「ここに見覚えが?」
静かに頷いたミィの表情は固く、母親を心配しているように見えた。
「では、こちらへ」
白衣の男がガラスの扉を開け中へ促すと、そこは何の変哲もない事務的な殺風景な部屋だった。
「これで宜しいですかな?」
オルドの前に報酬を差し出すと、ミィを引き渡し交渉成立だと握手を交わしたその時だった。
「おっと、そのまま動くなよ。
オルドも手を離すんじゃねぇぞ」
アルが二人の前に出ると、静かに小剣を引き抜いた。
「なんだ、これは!
冗談では許されんぞ!」
白衣の男がオルドに罵声を浴びせるが、裏切ることなく手を離すことはなかった。
そのことに少し安堵は覚えたが、白衣の男があまりに意味の解らないことを言っているのに腹が立ち、オレも魔法銃を引き抜く。
「冗談?
貴様らのしていることが分かっているのか!?
亜人を何だと思っている!」
「何が狙いだ、オルド!」
オレやアルにではなく、信用していたオルドに怒りをぶつけている。
「私だってこんな結末は望んでいなかったんですよ。
私の部下も店もコイツらに壊滅状態にさせられ、仕方無く協力しているだけなんです」
事情を理解したのか舌打ちをし、オルドとオレ達を交互に睨む。
「さぁ、母親を返してもらおうか?
どこにいる!?」
「ここには……もう居ない」
「っ!? まさか!」
視界に映るミィの表情が強張る。
「本当に居ないだけだ。
今も生きているかは知らんが」
「へえへえ。
悪党ってのは言い回しが上手いもんだよなぁ。
いっつも感心するぜ。
なら、単刀直入に聞こうか……。
今、どこに居る?」
アルの口調が変わったことにオルドが体を強張らせたのを感じたのか、白衣の男も身の危険を感じたように少し怯え出した。
「ルドル……魔都ルドルだ。
あそこに連れていかれた」
「あんな所に?
ウソつくんじゃねぇぞ!」
「ほ、ほんとだ。
嘘だと思うなら研究室へ案内しよう。
実際に見てみるが良い」
「そうさせてもらおうか」
そこは部屋から少し行った先にあった。
機械仕掛けの分厚い扉にガラスの扉と二重の扉を抜けると、白衣を纏った所員が数名作業していた。
「所長、いかがなされ……」
所員の一人が異常に気づき懐へ手を伸ばす。
「やめとけ。
コイツを盾にすることになる。
オマエらは向こうの隅に集まっておけ」
アルの一言が所員を棒立ちにさせ、所長の頷きを見ると素直に従った。
「どうだ?
居ないのが確認出来ただろう?」
「ミィ、ここか?」
「うん、ここで間違いないにゃ……」
怒りなどより母が居なかったということに落胆しているようだった。
「そうだ、そうだ。
あそこにある資料を見れば私の言ったことを信じて貰えるんだが」
オルドは先程までの態度とは変わり、信用してくれと言わんばかりの低姿勢になっていた。
「いいだろう。
どれだ?」
指差した一つの机に行くと所長は引き出しを開け、紙を次から次へとめくっていくと一枚の紙を取り出した。
「これだ。
読んでみるがいい!」
アルが紙に手を伸ばした瞬間、紙の下に隠していた魔法銃を突き出した。




