悪者の嘘
すっかり雨は止み、先程までとは変わり沢山の人が夜の街を楽しんでいる。
宿で姉妹を匿っていたミィとアルの同行者であるセレン、依巳莉と合流を果たし酒場へと戻ると結果を報告した。
「ルザ・オルド商会は単に雇われただけだったから、もう追手の心配はないぞ」
「良かったにゃ。
後はママのいるところに行くだけにゃ」
「でもよぉ、あいつ生かしておいて大丈夫だったのか?
また悪さするぜ?」
命乞いをする会長をオレが見逃したことをアルはずっと気にしている。
「雇われただけだし、姉妹には手を出さない約束もした。
それに、まともに商売をしていなかったらまた襲撃するって、あれだけ脅したんだから大丈夫だろ?」
「脅しっつーか、本気だったけどよ。
ああいうヤツらってのはな、その場しのぎで約束するだけなんだぜ?」
会長の眉間を今にも突き刺しそうな勢いだったのは本気だったのか。
「まぁその時はその時で対処するにして、この後なんだが……ミィは何か手掛かりはないのか?」
ルザ・オルド商会では詳しい情報は得られ無かった。
こうなると逃げてきたミィだけが母親の居る場所を知っている。
「必死で逃げてたから地図見ても分からないにゃ。
そうだ!
建物の中には白衣を着てる人達は沢山いたにゃ。
けど……それくらいしか」
「ちょい待ち。
ここのヤツを雇ったってことは、この街からさほど遠くない場所ってことか。
そんでもって、白衣を着てたってことは医師か研究者の可能性があるってわけだ」
さすが冒険してきただけのことはあって、アルの分析力には目を見張るものがある。
「ん?
何かおかしいな……」
アルが視線を行ったり来たりさせている。
「何がだ?」
「そこの子が商会の連中に追われてたんだよな?
んで、大金を積まれて雇われたと……。
それでだ、先に報酬をもらうなんておかしくないか?」
そういえば。
ミィを捕まえたら誰に知らせるのか、そのことをどうやって知るのか。
「あいつ!
何か隠してるな!!」
勢い余ってテーブルを叩きつけてしまい、一瞬場が凍りついたように感じた。
「あははは。
生かしておいて良かったなぁ。
それじゃあオルドのところにでも行くか。
セレンは姉妹をよろしくな」
「はい。
かしこまりました」
給士の様な格好で口調までこれだと冒険者の様には見えないのだが、中身はどうやら違うらしい。
外見ですら銀色の長い髪が一層お淑やかさを際立たせて、そんな要素は微塵も感じられないが。
「ミィも一緒に来てくれ。
あいつを問い詰めるのに役立つかも知れないから」
「分かったにゃ。
ルニ、リズ。
良い子にしてるにゃ」
中々感情を表に出さない姉妹だが、積極的に話しかけるミィを偉く感じる。
酒場から一直線にルザ・オルド商会に向かうと先程の騒動からさほど時間が経っていない為、商会員の出入りが激しかった。
「あっ!
あんた達……まだ何か用かい?」
襲撃の際に立ちはだかった娼婦が包帯姿で焦っていた。
アルの体術で失神までされたのだから無理もないだろうが。
「会長さんは居るかい?
まさか、もう逃げたわけじゃないよな?」
「か、会長はまだ部屋にいるよ。
あんた達がやった後始末があるから、ね……」
「そりゃどうも。
また会わせてもらうよ」
娼婦が包帯を巻いた腕を抑え、怯えながらに道を譲った。
慌ただしい屋敷の中を進み地下へ降りると壊れたドアの奥に会長の姿があり、ここは全てアルに任せようかと口出しはしないようにした。
「よぉ!
また来たぜ。
って、そんな驚くなよ」
アルの呼び掛けにびくりと身体を動かし固まっている。
「な、何の用だ!
もう話したし約束しただろう!」
「てめぇ。
ガキだと思ってナメてんじゃねぇぞ!
のうのうと歳だけを重ねてきたヤツに生きてる価値なんてねぇんだ!!」
明るい口調から一変し荒い口調に変わると、オレの腰から魔法銃を取りオルドへ銃口を向けた。
「待て待て待て!
分かった!
分かったから下ろしてくれ!」
「オレらみたいな地べた這いずり回ってもがいて生きてきたヤツにこそ生きる価値はあるんだ!」
あまりの怒号に思わず制止したが、まだ収まる様子はなかった。
「分かるよな?
また来た意味が。
どこのどいつだ、あんたに頼んだヤツは。
嘘をついてもムダだからな、ある程度の予想はついてんだ」
「わ、人猫を見つけて連れて来いと頼んだのは……ここから程なく行った場所にある魔弾製造所だ」
「魔弾製造所ねぇ。
つーと、製造所にある研究施設ってとこか」
銃で頭を掻くと何か考えているようだ。
「よし!
お前も一緒に来い。
イヤとは言わせねぇ」
「わ、分かったからもう下ろしてくれ。
しかし、一緒に行ったからといって入れてもらえるかどうか」
「それなら問題ねぇな。
人猫なら居るからな」
アルがこちらに目線を向けたのでミィを前に出し帽子を取ってみせた。
「ま、まさかこの目で拝めるとは。
しかも、君たちの仲間だったのか」
「ま、そういうこった。
じゃあ早速案内してもらおうかい?
会長さん」
「い、今からなのか?」
「まぁな。
助けなきゃいけない人がいるらしいんだわ」
魔法銃をオレに返すと会長に前を歩くよう指示をする。
逃げられては今までの苦労が水泡に帰してしまうからだ。
しかし、今までのアルのやり方を見てきて、何をもってして正義なのか疑問に感じた。
「悪どいどいな。
何か、やり方が悪い奴らと変わらない気が……」
オレのふとした一言がアルを真剣な表情にさせる。
「悪どいねぇ。
まぁ見方によってはそう見えるかも知れないが、力を持ってる悪に立ち向かうには、渡り合うにはどうすればいい?
法の裁きを待つか?
神罰を待つか?
オレが正義とは言わないが、力のある者が力を使うべきなんじゃないか?
まっ、これは持論だからな、考え方は人それぞれさ」
最後にはいつもの軽い感じに戻ったが、難しくも深い話だった。
色々な経験をして辿り着いた考えなのだろう。
「レイヴ、先に行っててくれ。
セレンに伝えてくる」
アルが酒場近くで離れるが、変わらずオルドを先頭にフェアリアを出た。




