58話 イネアについてなんだが(上)
58話です! 本当はイネアと遊ぶところまで行きたかったけど時間が足りなかった!
ん……まだ夜か。時刻は……まだ午前2時か……。こんな真夜中に久しぶりに起きてしまったな。
最近、あまり運動が出来ていないせいなのかな? 少し喉も乾いたことだしウォーターボールを作って水を少し飲んでからまた寝よう。
「……。……」
ん? 何か音が……気のせいか?
「……。……」
これは……声か? 部屋に今いるのは俺とイネアだけのはずだからイネアから……?
俺とイネアのベッドの位置は部屋の対極にあるので何を言っているか全然聞こえないな……いや、その前にこんな時間帯で何を言っているんだ? 近くに行ってみれば分かるか。
真夜中で辺りが全く見えないので壁を触りながらイネアが寝ているベッドに向かう。近づいていくうちにイネアが何を言っているのか、段々と鮮明に聞き取れてくる。
「……。…い。…やだ。叩かないで……。誰か……助けて……」
……え? イネア……? よく見えないが声からしてうなされている……のか? 叩かないで、助けてって、この家に叩く人などいないはずだが……いや、どこかの話で……たしか奴隷商館の時の話で……!?
という事は今はその時……イネアが奴隷商館にいた時の夢を見ているのか? そして約2年程経ってもうなされるくらいイネアは追い詰められていたのか?
いや、その事を考えるのは後だ。とりあえず今の状況を何とかしないと! だがどうすればいいんだ? イネアを落ち着かせればひとまずはいいはずだ。 だったら……
「イネア、叩かないから大丈夫だ。大丈夫……。怖い人はここにいないよ。」
落ち着かせるためにできるだけ優しく呼び掛けて頭を撫でてみる。背中をさすったりは……効果あるのかな? 何が適切なのか分からないけどとりあえずやってみよう。
「嫌……。痛い……。叩かないで……!」
駄目か……。すぐに効果は出ないのか? だが出来ることはこれくらいしかない。落ち着くまでしばらくの間ずっとやってみるか。
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イネアに優しく呼び掛けたり頭を撫でたりと落ち着かせてから10分が経った所でようやくうなされている様子は無くなり、寝息だけが聞こえる状態になった。
よし、これでひとまずは大丈夫そうだな。とりあえず自分のベッドに戻ろう。寝着でずっとベッドから離れていたから体が少し冷えてしまったな。
それにしてもイネアはここまで心的な意味で追い詰められていたのか……。家でメイドさんをやり始めてから笑顔が出てきたから大丈夫かなと思っていたが……配慮不足だった。……もう少しイネアに気を使うべきだった。
よくよく考えてみれば分かり切っていた事じゃないか。イネアを買った時、他の奴隷たちはどんな目をしていた? 大体の人たちは絶望しきっていたじゃないか! 奴隷商館で酷い目に会っていたからそんな目をしていたのだろうが! ましてやイネアを買った時は6歳だったんだ。物心が着いた頃には既に奴隷商館にいたと言っていたから危ない状態だってなぜ俺は今まで気づかなかったんだ……!
両親がいたから全て大丈夫だとでも思っていたのか? 周りが何とかしてくれるだろうとでも思っていたのか? 違うだろう! 俺があの子を選んで親の金だが買ったんじゃないか! 買ったのなら彼女の面倒はしっかりと見ろよ! 彼女が追い詰められているのならばちゃんと助けないと駄目だろうが!
イネアの主人でありたいのならもっとしっかりとしなければ駄目じゃないか! それが出来なければ主人失格だ!
気づくのはかなり遅かってしまったがまだ手遅れではないのだから、俺はイネアに対して相応しい主人になるために何をすればいいのかもっと考えていかなければいけないな。
もっと早く気づいてやれなくてごめん、イネア。
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あれから眠り、日が出始めた所で俺は起床した。イリスは俺が起きたことを見ると何時ものように話しかけて来た。どうやら今日一日、イリスは何やら用事が出来てしまったらしく、珍しいことにイネアだけが一日中俺たちを見ることになるらしい。
まあいつもなら俺は変わらずシンディと遊ぶ訳だが、イネアも混ぜて遊んでいこうと思っている。
イネアは仕事を頑張っているがまだ8歳だ。前世だったら学校で勉強をして放課後に外で遊ぶような年なんだ。イネアはもっと年齢通りに楽しんでもいいと思う。
今、俺が出来ることは少ないけどイネアが少しでも楽しめるようにしていきたいな。
さて、シンディが来たことだし、シンディも誘いますか。
「イネア、遊ぼー!」




