閑話 イネアの変化(上)
イネアの閑話です!
出来るだけ胸糞と感じないようにしましたが人によっては胸糞と感じるかもしれません。胸糞が嫌な人は飛ばしても大丈夫です。
私は物心がついた頃からずっとこの奴隷商館にいました。
なぜずっとそんな所にいるのかと言われれば私が奴隷だからです。その奴隷の中でも幼児奴隷という者で
す。幼い時に親に売られて誰かに買われる存在です。
私は物心がつく前に親に捨てられたそうです。当然親の顔を知りません。
ただ私を育ててくれた店主様は1歳頃に売られたのだと言っていました。店主様がそういうのなら間違いないです。
そんな私が商品として扱われる前、小さな一部屋に十人くらい入れられてそこで過ごしていました。……いえ、あれは部屋と呼んでも呼んでいいのでしょうか。……鳥籠の方があっています。ドアの部分が牢でしたから。
その部屋には私のような小さい子供から大人の人までいました。私たちは一つの部屋で一緒に寝て、起きてからすぐに一日に一回配られる空腹が満たされないほど少ないパンとスープを部屋にいるみんなと分けながら食べました。味は土を食べているみたいで最悪でした。
睡眠と食事以外の時間は、別の部屋に連れていかれて一日中勉強をさせられていました。勉強が終わると体も拭かずに寝るような生活でした。
毎日、一日中する勉強は主に言語、文字、お金、夜の伽、奴隷としての行動くらいです。教えられたところを間違えたりしてしまうとお仕置きされるのでみんな一生懸命やるしかありません。
もちろんこんな生活嫌でした。外に出て色々な景色が見たい。色々な人と話して、遊びたい。そう思わなかった日はありません。
ですが逆らったりすると鞭や手で意識がなくなるまで叩かれます。中には叩かれ過ぎて死んでしまう人もいました。だから最初の内は逆らう人もいましたが、皆叩かれたくないのですぐに逆らわなくなりました。
稀にちゃんと勉強をしている時でも機嫌次第で叩かれますが、その時はもう耐えるしかありません。
そんな生活を送っていれば当然逃げ出す人もいます。
一度だけ逃げ出す人の光景を見たのですが……その人は女の人でした。夜になり、どこかからこちらに走ってくる音が聞こえました。何かと思い牢の方を見ると誰かがこちらに走ってきます。段々と見えてきた姿はみすぼらしい恰好をしている大人の女の人でした。どうやって部屋から抜け出したのかは分かりませんが、必死に逃げている様子でした。その女の人が私たちのいる部屋の前を通り過ぎる所で突然後ろから矢が飛んできて、女の人の背中に刺さり、倒れました。
それでも女性は這いずりながらも必死に逃げていましたが、すぐに後から追ってきた大きな男の人に捕まり、そのまま無理矢理襲われていました。叫びながら抵抗しているようでしたが男の人に鞭で叩かれていくうちに叫ばなくなり、抵抗しなくなりました。そして朝起きた時、その女の人が部屋の前に倒れていましたが、全く動く様子はありませんでした。おそらく死んだのでしょう。
その時に思いました。私たちは売られない限りここからは逃げられないと。この人たちには逆らってはいけないと。
ですがこんな生活でも唯一楽しいことがありました。
何かと言うと勉強が終わった後に稀にではありますがさせてもらえた鍛冶です。店主様が私に鍛冶に関する称号があるらしいのでやらせてもらえました。私もドワーフの血が流れているからかもしれませんが、鍛冶のするのは楽しいです。鍛冶をすることが私の生きる価値とも言っても過言ではないでしょう。
ただ作らせてくれるものはかなり限られていて、日用品以外では拘束具などしか作らせてもらえませんでした。
そんな生活を送っていましたが、売り物として扱われるようになってから生活が劇的に変わりました。
部屋は変わりませんでしたが、食事が一日一食から二食に変わり、少し汚い水でしたが体も拭くことが出来ました。
睡眠や食事以外では変わらず勉強をしていましたがお客様が来た時だけ別の部屋に行って、立っているだけで良い時間ができました。立つことには慣れているのでそれほど苦にはなりませんでした。
それに私のような幼児奴隷を選ぶようなお客様はそんなにいません。大体の幼児奴隷はそのまま成長して、別の奴隷などになるのでおそらく私もそうなるのでしょう。
ある日、とあるお客様方が訪れました。いつものように立つだけでいいと思いながら立っていましたらなんと私が選ばれました。選ばれるとは思わなかったのでとても驚きました。
店主様を見ると大変喜ばれているようでした。
そしてお客様が帰った時に店主様に話を聞くとそのお客様は後日また来て、その時に私を連れていくそうです。
その日の夜は個室を用意され、そこでいつもより豪華な食べ物を食べさせてもらえました。生まれて初めて美味しいものを食べました。いつもと違う食べ物に少し戸惑いながらも食べ終えました。そして水で体を拭いてからベッドというもので寝ることが出来ました。もしかしたら人生で一番嬉しい時なのかもしれません。
次の日、昨日のお客様が来られて私をすぐに引き取られました。そして生まれて初めて奴隷商館を出て外の世界を見ました。
行きかう人々、規則正しく並んでいる家、色々な話声、人以外の動物、空など全てが初めて見る光景です。奴隷商館では何一つ見たことがありません。
ずっと憧れていた外の世界はこんなに素晴らしいのかと思いました。
お客様と共に奴隷商館から出た私はお客様に連れられて奴隷商館の前に止まっていた馬車に乗りました。 そして何故かお客様を対面に座ることになりました。勉強では荷物置き場か徒歩のはずでしたが……。
そのまま街を出た時にお客様の一人……茶色のショートカットに銀目で容姿の整っている男の人が声を掛けて下さったので色々なことを話しました。
その話の内容は驚きの連続でした。
まず驚いたのが私には鍛冶の才能という称号があるそうです。効果は凄いらしいので嬉しいです。
次にあの人数の中から私を選んだのがカイ様という赤子であることです。赤子がどうして選べるのでしょうか。不思議でたまりません。
最後にお客様は私を奴隷ではなく平民として扱うと仰るなんて考えもしませんでした。……それにカイ様と同じ部屋で寝泊まりなどまずあり得ません。いくら私が奴隷に刻み込まれている魔法で拘束されていたとしても息子と同じ部屋で寝かせるのはどうかと思います。
他にも驚いたことがありましたが、買っていただいた人が奴隷に対しても優しそうなので良かったです。貴族と言われたときは慌ててしまいましたが奴隷なのに気にしなくていいというなんておかしい気がします……。
私は新しい場所でもやっていけるのでしょうか? 分からないですが迷惑を掛けないようにそして叩かれないようにしたいです。
そして奴隷にとってあるまじき考えですが、生まれて初めてこれからの生活がどんな事になるのか不安でありますが楽しみです。




