16話 乳離れしたんだが
16話です!
1/1改正。
「カイ。今日から母乳ではなく離乳食にしましょう。少し遅いけれど乳離れね」
村に帰って一週間、どうやら乳離れする時が来たようだ。最初の頃は恥ずかしく全然慣れなかったが今は食事のためだからと言い聞かせて気にしないようにしている。だが、いい加減他の食べ物を食べたかった所なので嬉しい知らせだ。
母親は皿を持っており、皿からフルーツと思わしき甘い匂いが漂ってくる。これが初の離乳食だ。この世界で乳以外の食事をすることは初めてなので五感強化を使おうか。
「最初は今日森で採れたベリーをすり潰したものにしているわ。食べ辛かったりしたら言いなさいね?」
母親は皿の上にあるスプーンを持ち、俺の口元に運んだ。スプーンには紫色の液体と果実が乗っており、五感強化を使っているためか甘い匂いが先程よりも強く感じる。その匂いに空腹を一層感じて俺は抵抗なく口を開けてスプーンを入れてもらう。その瞬間、ベリーの甘さが口の中に広がった。日本で食べたベリーは甘酸っぱかったが、このベリーは甘酸っぱくなく、とても甘い。そして五感強化を使っているからか日本で食べたベリーよりもかなり甘く感じ、それでいて全然くどくない。このベリーなら苦手な人でも多分食べれると思う。
20秒程かけてベリーの甘さを堪能しながら飲み込み、胃に運んでいく。まだ後味が残っているがそれがまた良く、暫くの間この幸福感を味わっていたいと感じた。
「あら、良い笑顔ね。そんなに美味しかった?」
「あい!」
「この調子なら次もいけそうね。はい、口を開けてー」
母親がスプーンを口の中に運んで貰って食事を取る事数分後、皿にあったベリーが全部なくなった。もう少し食べたい気持ちもあるがこれからも食べられると思ったのでそれまで我慢だな。
「全部食べれたわね。次もこれにする?」
「すうー!」
「ふふっ、分かったわ。また採ってくるわね」
母親は満面の笑みで俺の頭を撫で、部屋から出た。数時間もすればまた離乳食が食べれるだろうが、離乳食でここまで美味しいとなるとちゃんとした食事が待ち遠しくなるな。
そういえば離乳食を食べれるという事はリリィさんは乳母終了なのかな? そうしたらシンディがここに来ることも減ってしまうのか? 7カ月の間ほとんど一緒にいたので少し悲しいな。もしここに来ることが減ったら逆にこっちから行こうか。母親に頼めば行かせてくれるだろう。
そんなことを考えながら俺は日課になっている魔法の特訓を始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「カイが乳離れしたわ」
私はカイにとって初めての離乳食を与えた後、いつも通りリリィと会話をしていた。
「そうですねえ。普通の赤ちゃんと比べて乳離れは遅いのですがいざ乳離れをするともう乳離れをしちゃったんだなーと思いますねえ」
「そうね。もう飲んでくれないと思うとちょっと惜しい感じもするけれどね……」
「私はあまり吸ってくれないと胸が張って痛くなってしまうから大変だわあ」
「胸が張る事は1ヵ月前になくなったわね。まだ乳は出るけれど出る量はかなり減ったわ」
1ヵ月前までは胸がすぐ張ってしまい、夜は痛みで起きてしまった程である。その時は自分で搾っていく事がほとんどである。
「羨ましいですね。私なんて未だに胸が張っているんですよー! 痛いから早く収まって欲しいわあ……」
「それは個人差があるから仕方ないわ」
私よりも出産が早かったリリィはなぜかまだ胸が張っているので本当に大変そうだ。
「でもカイ様が乳離れをしたなら乳母の仕事は終了かな?」
「そうね。でも何時でもここに来てほしいわ。それこそ毎日でも良いわよ。シンディとカイの仲も良いみたいだしね」
「そうですねえ。毎日は無理ですがそれなりに行きますよー」
「ええ、そうして欲しいわ」
「それでは今日のところはもう帰りますねー。旦那様にシンディは任せてあるけどあの人、赤ちゃんに関しては不器用ですから」
「帰りは気をつけなさいね。ゴブリンの数も例年より多いのだから」
「ええ、そうするわー」
彼女の強さは良く知っているから安心だけれどゴブリンの数が増えているのは少し気になるわね。カイののためにベリーを採るついでに沢山倒していこうかしらね。
話が少ないと思ったのでちょっとした小話です。