175話 決闘なんだが3
175話です!
俺は決闘が始まってから今まで使っていなかった棒を使い始めた。迫りくる木の剣に棒で薙ぎ払って方向をずらす。そして、流れるようにして棒を回転させて剣の持ち手に攻撃する。
「痛っ! 何故、何故当たらないんだ!」
木の剣は落とさなかったが攻撃を止める程の痛みであったようだ。
「見えているからですね。もう疲れたのですか? 動きが遅いですよ?」
「うるさああい!」
しかし、攻撃をしてくれないとエファさんを泣かせた事と急所を狙い続けている事への怒りが収まらないため、攻撃するように煽る。すると、クル子爵は怒りに任せて剣を振ってきた。怒りに任して剣を振っているせいで動きがさらに読みやすくなった。
そのため、余裕を持ってクル子爵が攻撃するたびに木の剣を弾き、そのまま全身にクル子爵が倒れない程度の攻撃を入れていく。一撃で倒しても怒りをぶつけきれないしね。自重? 今だけはしない。
「うぅ……。痛い……」
何回か攻撃を弾いて攻撃していくと木の剣を杖のように使って息を切らして弱音を吐いている。精々打撲程度になるくらいしか力を込めていないのに情けないなあ……。
「もう終わるのですか? 随分とまあ弱い心ですね。あれだけ自信満々で勝負に挑んでいたのに、あの自信はどこに行ったのですか?」
「うるさあい! 何なんだよお前はぁ……!」
愚図りながらこちらに怒鳴りつけるが、全く怖くない。むしろ、すぐに暴力に走る人間の無様な姿が見れて清々する。
「私はただの決闘相手ですよ? それもあなたが侮辱した棒を使用した決闘相手です。そんな相手にこの有様とは……恥ずかしくないのですか?」
「あああぁぁぁぁ……!」
愚図りながらも再びこちらに攻撃を仕掛けてくる。だが、その攻撃は最初の攻撃と比べても拙く、予備動作が大きすぎた。当然、攻撃を弾いて、今度は腹に棒を横薙ぎして攻撃する。
「うぐぅぅぅ……」
「もう負けを認めたらどうですか?」
認めると思わないけど一応聞いてみる。
「まだ、負け、てなぁい!」
涙を流しながらも負けを認めないようだ。涙を流しながらも認めないとは、逆に良く頑張っている気がしてきた。だが、容赦はしない。怒りをぶつけるために気絶しないよう調節しながら攻撃していくだけだ。
「そうですか。でしたら次は私から行きますよ」
宣言してから攻撃を仕掛けたため、剣で防ごうとするが、わざと剣に棒をぶつけて剣を弾き、肩に先程よりも少しだけ強い攻撃を入れる。
「ああああああああ!!!」
クル子爵は激しい痛みに叫び声を上げて肩を掴みながら蹲る。その声は5歳とは思えない程、悲痛で苦しそうに上げていた。
「ほら、早く立って下さい。それとも降参しますか?」
「降参しない……!」
歯を食いしばりながらもクル子爵は立ち上がる。その根性は認めるけど容赦はしない。完全に立った瞬間に攻撃を仕掛けて、太腿を突く。
「ぐうううぁぁあぁあ」
先程の叫び声よりも大きく響かせて、後方へ倒れる。汗の掻いてなく、息切れもしていない俺に対してクル子爵は全身から汗が噴き出し、息切れも酷く、攻撃した箇所は紫色の痣へと変化している。……もうそろそろ決着付けようか。少しだけ怒りも治まってきたしね。
「立つのなら早く立って下さい。立てないのなら降参して下さい」
「ひっ、ま、まだ、や、る……!」
気合だけでクル子爵は立ち上がる。本当に根性だけはあるなあ。どうしてその根性があって体力とか精神が鍛わっていないのか疑問だ。
「あぁぁああぁああ!」
「まだ攻撃する余力があったのですか」
攻撃してきた事に驚きつつも剣を弾く。そして、今度は少し本気で腕に横薙ぎを入れる。クル子爵の腕はボキッとなり、そのまま2m程吹き飛んだ。
「ああああぁぁぁぁ……」
クル子爵はあまりの痛みに叫びながら倒れて、そのまま声が聞こえなくなった。おそらく気絶したのだろう。決闘が始まってから終始見守っていた階級の高そうな人が近づき、クル子爵の様子を見る。その間に散々動き回ったせいで服に着いた土を払っていく。大分汚れてしまったからね。
「クル子爵は気絶したため、アイン男爵の勝利だ。クル子爵は治療師に治してもらうからアイン男爵は先程の部屋で待機しなさい」
「はい、分かりました」
「では、アイン男爵様、こちらに」
決着が着くと部屋に戻るように言われ、メイドさんに計算を解いたあの部屋へと案内された。おそらくクル子爵の目が覚めるまで待機なのだろうな。
それにしても戦闘の時はクル子爵に怒りを覚えたからついあれだけ攻撃してしまったけど国お抱えの治療師がすぐに治されるだろうから多分大丈夫だろう。むしろ、あの戦闘を見て階級の高そうな人やメイドさんがどう思ったのかが気になってくる。力量の差がある子供だと思ってくれればいいが……。
少し戦闘での出来事に後悔しながら計算を解いた部屋へと入る。そこでは、タオルと水の入った桶がこれで拭いて下さいと言わんばかりにテーブルの上に置かれている。
メイドさんに目配せすると無言で頷き、退出していった。これで拭けという事か。まあ、先程少しは払ったが、動き回ったせいでまだまだ汚れたから拭いていこう。特に靴に土が少し入っていて履き心地が悪かったので丁度良かった。タオルに水を付けて拭いていき、拭き終わった所でノックが響いた。
「アイン男爵様、入ってもよろしいでしょうか?」
「はい、良いですよ」
「それでは、失礼します」
入ってきたのはお茶と軽食をお盆に乗せたメイドさんだった。ああ、そうか。そろそろお昼だな。すっかり忘れていた。思い出したら腹が空いてきたな。
「アイン男爵様、簡単なものですがお召し上がり下さい」
「ありがとう。頂くよ」
テーブルにお盆を置いてもらって、拭き終わったタオルと桶は片付けてもらう。メイドさんはぺこりと一礼した後、再び退出した。さて、頂こうかな。