閑話 それぞれの出来事
閑話です! 難産ではないですが、調節に時間が掛かりました。
追記、投稿は1日遅れます。
「何だと! 出来ないと言うのか!?」
日が暮れて子供はそろそろ寝る時間帯、王国内最大規模で王城を除く最もセキリュティの高い宿の一室では、とある貴族の男が黒い仮面を被っている男に怒鳴り散らしていた。その様子はまるで駄々をこねる子供の様で、話の内容でさえも子供じみていた。
「出来るわけないですよ。ここがどこだと思っているのですか。ここで事を起こす位なら公爵家の財産を盗んだ方が楽ですぜ」
「そんな事は知らん! 金ならやるからとにかく息子を恥かかせたあの忌まわしきクィク子爵とアイン男爵の子を殺せ!」
その子供じみている話している内容は暗殺である。暗殺と聞けば事が事であるが、動機が子供じみているのだ。この男、息子さんが自爆して恥をかいたというのにもかかわらず、被害者を殺せと言うのだ。
仮面を被っている男は普段なら相手の素性など聞きはしないが、セキリュティの高さでも有名な宿で暗殺、さらに相手は子供2人という内容に聞かずにいられなかったのだ。
「せめて帰り道とかなら出来ない事はないと思いますが、今夜中は無理なお話ですぜ」
「この役立たずがぁ!」
部屋の中に怒号が響き渡る。その声に仮面を被っている男は耳を塞ぐが、その様子が気に入らないのか貴族の男がさらに怒号を響き渡らせる。
「そんなに怒鳴っても変わりありませんよ。今回のお話は無かったことにして下せえ。では、これにて失礼」
「おい、待て! 糞っ!」
平均的な平民の給料の約3年分のテーブルに拳を叩き付ける。だが、この貴族の男はそれだけで近くに佇んでいたメイドにも攻撃を始めた。
「お静まり下さい! お静まり下さい!」
「ええい! どいつもこいつもこの儂を!」
貴族の男は昨日の出来事を思い浮かべながらメイドに攻撃を続ける。あの貴族たちの失笑、嘲笑、冷笑、憫笑。どれもが貴族の男とその息子に向けられ、随分と恥を掻かされてしまったものだ。
さらにその男は鬱憤を晴らすために明らかに息子が加害者であっても、息子を被害者扱いにして本来の被害者である子供たちを殺そうとしていた。
「かひゅ……かひゅ……」
「どいつもこいつも儂を愚弄しおって……そうだ!」
メイドの顔が変形する程殴った後、何かを思いついたのか寝室へと進み、就寝しようとしていた息子に話しかける。
「おい! チニ! チニィ! あの2人を殺せ! 出来ないのなら恥を掻かせろ!」
「ひっ……分かり、ました」
「よし、これで……!」
息子にやらせれば良いとその男、ボア・クル子爵は怯える息子、チニ・クル子爵の傍らで不気味な笑みを浮かべた。
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場面は打って変わって王城内、子供会のメイドを担当している女性、クレア・ドニアス公爵と1日目のステータスをメモしていた男性、ローヴァ・ウェル侯爵は夜遅くにとある宮廷魔導士の男と密会をしていた。
「それで、あの男爵家の子のステータスはどうだったの?」
「お察しの通りステータス変更されていましたよ。ですが、その前にクレア嬢があの子供に渡した石の結果を見て下さいね」
宮廷魔導士の男はそう言い、石をポケットから取り出した。その石は1日目にカイが触れたものであった。
「この魔道具は前に説明しましたが、触れた者の魔素量を測り取り、その結果を色として保存する事が出来る代物です。そして、あの男爵家の結果がこちらとなりますよ」
宮廷魔導士が少し呪文を唱えると石が変色を始め、赤色に変色した。
「ん? この赤色は?」
「大体2000から4000辺りの反応です。大体の魔素は把握してましたが、いざ結果が出ると驚きますね」
ローヴァがその結果に驚きを隠せずに宮廷魔導士を見る……が彼が言っている事は間違いないと判断する。
「2000から4000? その数字は学園の初学年生徒の平均魔素値を超えているじゃないですか」
「その数字を男爵家が……ちょっと待って。あの男爵家はアイン男爵だよね?」
「そうだよ。だけど何故その確認を?」
クレアのいきなりの言動にローヴァが聞く。するとクレアは何か納得したような顔をする。
「思い出したわ。いえ、どうして思い出せなかったのかな? 私の弟と良い剣術の試合をしたマインズ・アイン男爵の弟じゃない」
「ああ、噂で聞いた事があります。となるとアイン男爵家は一体どうなっているのかな……」
「すまないがこちらも立て込んでいてね。話しを進めて良いかな?」
アイン男爵家と妙な繋がりがある事が分かった所で宮廷魔導士が間に入ってくる。
「すみません。続けて下さい」
「では、次にステータスについてです。こちらは先に拝見しているがかなり不味い事になっている。くれぐれも言動には注意して欲しい。勿論、この場所でも……だ」
「……待ってくれない? そんなに不味いの?」
「ええ、下手すると彼の人生に多大な影響が出る」
その言葉にクレアとローヴァが真剣な顔つきになる。彼の言っている事が真実なら細心の注意を払わなければならない。
「では、見せますよ。これが、カイ・アイン男爵のステータスです」
宮廷魔導士の鞄から厳重に布で撒かれている木箱を取り出し、その中にある紙を机の上に置く。その紙を2人は見て驚愕する。
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名前 カイ・アイン
種族 人間
性別 男
年齢 5歳
属性 水、風、無
レベル 27
HP 184/184
MP 2024/2024
物攻 17
物防 15
魔攻 33
魔防 21
速さ 16
体力 18
魔素 202
運 150
ースキルー
<算術lv6><料理lv3><魔素操作lv6><無詠唱lv6><風魔法lv5><水魔法lv5><無魔法lv6><五感強化lv5><身体強化lv5><ステータス変更lv6><剣技lv3><忍び歩きlv2><悪路緩和lv1><テイムlv1>
ー称号ー
<転生者><幸運者><魔法使い中級者><誑かす者><見習い剣士><守護者>
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「これは……不味いね。それに、魔素なしでも下手すると公爵家の才児たちに匹敵するのでは?」
「……知らなくてはいけない事だけど、知りたくなかったなあ。この情報はここにいる人以外で知る者はいないよね?」
「勿論、誰にも言っていませんよ。ですが、アイン男爵家の方々はこの事を既に知っているのではないかと思いますよ」
確かに大体の貴族は子供会で行われているステータスよりも早く見る事は既に常識となっている。となればステータスを見ていないという事はまずないと判断して良いだろう。
「とにかくこの事は陛下に伝えないと」
「ええ、その方が良いでしょうね」
宮廷魔導士は紙を木箱へと戻し、3人は陛下の指示を仰ぎに向かった。