166話 僅か10分の事なんだが
166話です! 土曜日の投稿はなく、月曜日は先日言いました短編を投稿しようかなと考えています。
昨日と同じところに向かい、同じように案内される。だが、長机は見当たらず、代わりに2m程の丸机が幾つも並べられていた。そして、案内された席に着く。丸机の子供を見ると、どうやら昨日みたいに知り合いがいるような事はないみたいだ。
集合時間になると、また階級の高そうな人が現れ、3日目の子供会の開催を宣言した。どうやらこれからやる事は同じ丸机に座っている知らない人同士での会話となるらしい。指定された話題などは一切なく、むしろおもちゃなどで遊びながら会話をしても良いとの事。さらに、この丸机では、細かなマナーは気にしなくて良いらしい。
これは、夕方になるまで行われ、残り時間が半分になるとお菓子を持ってくるそうな。それまでは紅茶などの飲み物を飲みながらひたすら会話をしたり、おもちゃなどで遊ぶ事になるようだ。ただ、禁止事項として、丸机以外の子供と会話をしてはいけないそうだ。まあ、これは知り合い同士で話すなという事だろう。
階級の高そうな人が部屋を去るとメイドさんたちが飲み物を用意して、子供たちの会話が始まった……という訳にはいかなかった。
「「「……」」」
まあ、いきなり知らない人と話せなんて言われても困るよな。とりあえずここは自己紹介でもしようか。
「このまま会話なしでは気が滅入るので自己紹介からしませんか? 私はカイ・アイン男爵です。よろしくお願いします」
「「「!!」」」
皆が少し驚いたようにこちらを見る。だが、単純に驚いている子や、驚きながらも何故か見下している子、眠そうにしている子がいる。
「ぼ、僕はマルク・クライア男爵です。よろしく……」
「私はハネム・クィク子爵。よろしくね」
「……スール・ネール男爵」
「チニ・クル子爵だ。ふん……」
俺に続けて皆が軽く自己紹介をする。というか子爵が2人いるんだけど……どうしてだ? とりあえずまた誰も話さなくなる前に何か話題でも振るべきか。
「皆さんは」
「おい!」
話題を振ろうとしたところで最後に自己紹介したクル子爵が声を上げる。
「……どうしましたか?」
「何故お前が進行しているんだ」
「話が途切れないようにですね」
「男爵のくせに生意気だ! 俺は子爵だぞ! 俺より先に喋るな!」
……何言っているんだこの子供。この年齢で頭湧いているんじゃないのか? 思い切り反論したい所だけど相手は仮にも子爵だから相手にしたくないな。こんな所で機嫌を損ないたくない。
「申し訳ありませんでした」
「ふん!」
当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らす。本当になんだこの子供。感じ悪いなあ。そう思っているともう1人の子爵であるクィク子爵が苛立ち気味に口を開く。
「ちょっと、あんた馬鹿じゃないの!」
「女は黙ってろよ!」
「黙らないわよ馬鹿!」
子爵同士が言い争い始める。最初はあまり大きな声ではなかったが、言い争いが続くとどんどん声が大きくなっていき、声が気になるのか周りの丸机に座っている子供たちがこちらを見てくるようになった。
どうやって言い争いを止めようかと思い、クライア男爵とネール男爵を見ると、クライア男爵はオロオロとしており、ネール男爵はどうでも良いと考えているのか、コクリコクリと寝始めていた。クライア男爵はともかくネール男爵は空気を読もう。
「馬鹿! あほ!」
「黙れ馬鹿女!」
「何ですって! あんたが黙りなさいよ!」
「黙れえええ!」
遂に我慢が出来なくなったのかクル子爵が近くにある物―――入れたばかりの紅茶が入ったティーカップをそのままクィク子爵に投げつける。そのティーカップは紅茶をまき散らしながらクィク子爵の肩に当たる。中にはまだ紅茶が少し入っていたようで服を思い切り濡らしてしまう。
「きゃあああ! 痛い! 熱い!」
クィク子爵は悲鳴を上げる。クィク子爵の濡れた服からはわずかに湯気が出ている。
これは、幾らなんでもそれはやりすぎだ! ティーカップだけならまだしも中には入れたばかりの紅茶が入っているんだ。下手したら大火傷だぞ!
だが、クル子爵はまだやり足りないのか、俺のティーカップに手を伸ばす。これ以上投げさせてはいけないと思い、急いでクル子爵の腕を掴む。
「クル子爵様! いくら何でもやりすぎです!」
「放せ! 無礼だぞ!」
クル子爵は切れているのかそのまま席を立ち、俺に殴ってくる。だが、速度がかなり遅い。素早く殴ってくる腕を掴み、行動出来なくする。
「クライア男爵とネール男爵はクィク子爵様をお願いします!」
「いえ、それには及びません」
お願いしようとしたらクィク子爵の横にはいつの間にかメイドさんがいて、クィク子爵を運び出していた。そして、他のメイドさんがこちらに来て、クル子爵を持ち上げてそのまま運ぶ。
「放せ! 無礼だぞ!」
クル子爵が声を上げてもメイドさんは返事をせず、そのまま部屋を出ていった。その様子を呆然と見ているとまた他のメイドさんが現れ、話しかけてくる。
「アイン男爵様、お怪我はありませんか?」
「いえ、問題ありません。ですが、クィク子爵様は大丈夫でしょうか」
「もしもの時のために宮廷魔導士がいます。宮廷魔導士が治療をしますので問題ありません」
「そう。それなら良かった」
宮廷魔導士なら安心だ。もし大火傷を負っていても完治出来るだろう。
「ですが、このままでは上手く会話が出来ないと考えられます。もしアイン男爵が希望なさるなら別室に行けますが、いかがなさいますか?」
別室か。このまま注目を浴びるよりは良いだろう。だけど。
「クライア男爵とネール男爵も一緒ですか?」
「いえ、本人が希望なさるのでしたらそれぞれ違う部屋に案内されます」
なら、ここに残らないのなら良いか。
「では、別室で」
「かしこまりました。では、こちらに」
メイドさんの案内の下、俺は部屋から出た。3日目の子供会が始まって僅か10分の事であった。