160話 ゆっくりと庭園を回ったんだが
160話です!
メイドさんの言う通り? 原因はメイドさんという事か。だけど、何のために?
表情までは流石に出ていないと思うが、大分動揺してしまう。
「うん、メイドさんがカイの所に行ってみたらどうですかって」
「何故、そう言ったのでしょうか?」
「分かんない。あ、でもその時にこれ貰った」
そう言って、彼女は緑のドレスの腰部分に手を突っ込み、何かを取り出した。それは、一見では、そこら辺に落ちていそうな鼠色の小石だ。だが、魔素がかなり込められているのを感じる。これは一体何だろうか?
「手に取っても良いですか?」
「良いよ」
小石を手に取ると小石にある魔素が少し震えだす。突然の事に少し驚いたが、魔素の変化はそれだけで特に何も変わらなかった。
「カイ殿、それはただの小石でないか?」
後ろからアポトさんが覗き込んでくる。
「確かにただの小石だと思います。ですが、何故ツァーレ伯爵様に?」
何か効果があるなら分かるけど、いや、魔素が込められている時点で何かありそうだ。だけど、何度見てもただの小石だ。何か模様を掛けてあるわけでもないし、よく分からないな。
「カイ、アムで良い」
小石を眺めながら考えていると突然そのような事を言われた。彼女を見ると少し眉をひそめている。
だけど、流石に呼び捨ては駄目だ。
「さ、流石に呼び捨ては階級の事もありますしよろしくありません! せめてアム嬢かアムさんのどちらかでお願いします」
「アムじゃないと駄目」
「ですが!」
「アムじゃないと怒る」
何故そんなに……。階級が同じなら普通に了承するけど上の階級相手に呼び捨てにするとか絶対にその事で絡まれそうだ。だけど、これでずっと拒み続けて怒らせても不味いし、どうしようか。
「……はい。分かりました。ですが、周りに他人がいない時だけでお願いします。伯爵家の令嬢相手に呼び捨てはあまりよろしくないので」
「他人がいない時だけ……分かった」
何とか切り抜けられた。冷や汗が出るなあ。
「僕はどのように呼べばよろしいですかな?」
「カイと同じで良い」
「分かりましたぞ!」
アポトさんの方もどうやら緊張が無くなったみたいだな。
「この小石は返しますね。何故渡したのかは分かりませんが、持っておくと良いかと思いますよ」
きっと、何等かの護身用道具のような感じで渡したのだろう。まだまだ魔法については知らない事が多いから下手に調べたりしたら不味そうだしね。
「うん、そうする」
そう言うと再び元の場所に戻した。……今更だけど、ポケットってあるのか。てっきりドレスはほとんど無いものだと思っていた。
「アムさん、よろしければご一緒に庭園を回りませんか? 私とアポトさんは植物の事があまり詳しくないので色々と教えてくれると嬉しいです」
「良いよ。楽しみ」
少しこれって階級の高い人には失礼かな? と言った後に思ったのだが、アムさんはほとんど無表情ながらもどこか嬉しそうな様子だったので良しとする。
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それから俺とアポトさんとアムさんの3人で時折休憩をはさみながらゆっくりと庭園を回った。ほとんどアムさんの解説であったが、植物の種類ごとに面白いエピソードがあるもので、中々楽しめた。
勿論、俺だけでなくアポトさんやアムさんもまた楽しんでいるようだった。アポトさんはもう先程の調子に戻っているみたいだったし、アムさんも最初の時よりも口数も大分増えて、まだまだ傍から見れば無表情であるが、少し表情が豊かになった気がする。
たった数時間話していただけでこれだけの変化があるのだからアムさんは普段あまり話す機会がなかったのかもしれない。階級の高い人って自由ほとんどなさそうだしね。
そう考えると男爵家で良かったと思う。まあ、こういうパーティなどではひっそりとしないといけないのが難点だけど。
ともあれ、こうして1日目のパーティーが終了した。2日目は、王城でやるのではなく、あの宿で行うらしい。父親の話ではお昼から何等かの催しが行われるらしい。何等かについては毎年変わるため、何が行われるのか父親も知らないらしい。
出来れば穏やかに終わって欲しいものであれば良いなと思いながら子供たちとともに王城を出て、宿へと戻る。
現実でも言える事ですが、何気に3人以上の会話は2人の時と比べて難しいですね。2人で盛り上がってしまい、1人が省かれる……なんて経験をした人は多いと思います。出来れば小説の中だけでもそうならないように気を付けているのですが、中々難しいですね。