152話 ボコボコなんだが
152話です!
荷物を家の中に置き、棒を手に持って、庭へと出る。庭では既にムスイさんがいて、木刀を振っていた。振る度に音が鳴り響き、地面に生えている雑草が風圧により、揺れていた。……あれ当たると死にそうなんだけど、大丈夫だよな?
「棒……? まあ、武器は使い手の自由だな。さて、まずは力量を見るために試合をやるぞ! 何時でも良いから掛かって来い!」
「あ、そうだ、カイ。1つ言うのを忘れていたが、全力でやって良いぞ。彼は口が堅いから大丈夫だ。それに、庭にある魔道具で外から魔素は感知されないし、音も漏れないから全力でやりなさい」
父親はそんなこと言っているけど、本当に大丈夫だろうか? 本気でやってもムスイさんに勝つ事はあり得ないため、ムスイさんが死んでしまう事態になる事はあり得ないのでその点であれば問題ないのだが、赤の他人にばれてしまうのは不味い。
「何故躊躇するのか分からんが、ここは外から見られないようにも細工してあるから遠慮なくかかって来い。もしばれそうになったら俺がやった事にするから大丈夫だ!」
「そこまで言うのなら本気で行くよ」
覚悟を決めて身体強化、五感強化、探知を詠唱する。
「……なあ、フェンド」
「なんだ?」
「あの年でもう3つの魔法を使えるのか? それもあんなに早い詠唱で?」
「カイは頑張っているからな」
「頑張っているだけじゃここまで出来ないと思うが、まあ上等だ!」
ムスイさんがこれで驚いているみたいだけど、まだまだここからだ。身体強化の魔素量を制御出来る分まで使う。そして、無詠唱で何時でも放てるように魔素を棒に込める。
「じゃあ、行くよ?」
「おう。掛かってきな!」
まずは身体強化に物を言わせてムスイさんに近づき、棒で突く。普段よりもかなりの速度が出て大分焦ってしまったがバランスを崩さずに行動出来たのだから十分だ。
「おっと、すっげえ速えな。フェンドの言う通り油断していたら危なかったかも知れないぞ」
流石だと言うべきか。この幼い体躯から出せなさそうな速度で突きを入れてもしっかりと払われた。だが、ここで終わらないのがこの棒の良い所だ。
「風矢!」
「はあ!? 嘘だろおい!」
棒に込めていた魔素を使って、ムスイさんに無詠唱の風矢を飛ばす。これは、流石に予想外だったようで、腕に当てる事が出来たようだが……無傷だな。流石にステータスの差がある。直接叩くか、魔素を込めまくった水刃などで攻撃しないとダメージを与える事は無理そうだ。
「あちゃあ、これはやられてしまったな。しかも無詠唱か、本当に驚いた。もっと威力が強かったなら腕に刺さっていたかもな。じゃあ次はこっちが少し驚かせようか」
「……勘弁して欲しいな」
ムスイさんが攻撃を仕掛けてくる。上段からの攻撃か。かなりのスピードだが、これなら避けれる。
そう思い、横に避ける……が、避けた方向には、ムスイさんの木刀が元々あったかのように存在感を放っていた。何故木刀があるのだと思いつつも避けようとするが、そのまま速度を落とす事も出来ずに木刀に当たってしまい、軽く拭き飛ばされてしまう。木刀だから打撲で済んでいるかもしれないが、真剣であれば完全に即死だった。
「……今のは致命傷だね」
「そうだな。だが、これはカイの力量を図るためにやるんだ。さあ、早く立たないとまた当たるぞ!」
そう言っている間にもムスイさが接近してきて追撃をしてくる。急いで後方へ下がり、棒に魔素を思い切り込める。
「よし、その調子だ! だが、離れれば魔法を絶対打てると思っているならば大間違いだぞ!」
ムスイさんは俺に急接近してそのままタックルをかましてくる。これなら今度こそ避けれるはずだ!
「それはお見通しだ!」
ムスイさんのタックルが急に方向転換されて、こちらに向かってくる。だが、もう放てる!
「水刃!」
「あっぶねえ! 下手すりゃ怪我したところだぞ!」
いつも環境を破壊するほどの被害をもたらしている水刃を放つが、木刀で軽く打ち消され、辺り一面が雨でも降っているかのように水浸しになる。
「嘘……」
「流石に今のは危なかったがあのくらいではやられんぞ!」
正面から簡単に打ち消された水刃に驚いている間に木刀が腹に直撃し、また吹き飛ばされる。
「グゥ……」
何とか受け身を取れたが、また一撃を貰ってしまった。というか、今のは対処できたはずだから驚いて反応が取れなかった俺が悪いな。身体強化なしだったらもっと悲惨な事になっているかもしれない。反省しないと。
「さて、もう終わりで良いな。5歳とは思えない程の動きと魔法だったが、まだまだ粗削りだな」
「確かにそうだな。実戦の経験が少ないからしょうがないかも知れないがな」
「それをここで出来る限り良くするんだろう?」
「ああ、その通りだ。宜しく頼むよ」
「任せとけ!」
どうやら試合は終わったようだな。骨が折れなくて良かった。いや、そこは手加減されているか。そうでないと今頃真っ二つだ。でも、凄いなあ。おそらく、俺が攻撃した時に大体の力量が分かって加減しているみたいだったからな。
「よし、じゃあ次の鍛錬やるぞ! まずは素振り1000回からだ!」
……あれ? これ稽古きついやつじゃ……。
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こうして、ムスイさんと父親にひたすら稽古を行い、時には気絶をしてしまったりしたが、気付け薬によってすぐに起こされてしまい、また稽古を行うというかなり辛い稽古となった。その結果、稽古が終わる頃にはボロボロになり、父親におぶられながら宿に戻るという事を続けているうちにパーティの日になった。
俺と父親は日の出とともに起きて、パーティの準備を進めていく。開始は午前10時頃なのでまだ時間はあるのだが、午前9時頃には集まる事が常識のため、急いで準備する。
準備で一番時間が掛かるのは身だしなみだ。髪のセットから始まり、爪先まで細かくチェックが入り、少しでもおかしな点があればすぐに修正されていく。ここまでする必要があるか甚だ疑問であるが、王族も参加するパーティなのでしょうがない。
準備を終えて、俺と父親は会場へと向かう。いよいよパーティが始まろうとしていた。