149話 風呂での出来事なんだが
149話です! 正直、話は全然進んでません。後、1、2話程話を入れてからパーティに参加……になるんじゃないかと思います。
5/18追記 投稿は5/21となります。
部屋に戻ると、再度風呂に入った。今度は父親も一緒だ。温泉施設以外で誰かと一緒に入るなんて前世含めて何時振りなのだろうか。上手く思い出せないがかなり前だと思う。
「カイ、お湯掛けるぞ」
「うん」
父親に体を洗ってもらうのも何時振りなのだろうか。思春期に入った時にはもうなかった気がする。まあ、今回でも父親の提案がなければやる事はなかっただろうな。少し恥ずかしい気もするが、こういうのも悪くないな。さて、俺の分は洗い終わったから次は父親だ。
「次は俺が洗う」
「ああ、頼んだぞ」
位置を入れ替えて父親の体を洗っていく。まずは背中だ。こうして見ると背中が大きいな。所々古傷もあるので、苦労が伺える。ちなみに俺にも古傷はいくつかある。まあ、よくよく見ないと分からない位置にあるため気づかれる事は然程ないだろうが。
「もう少し強くやってくれないか?」
「ん? 分かった」
もう少し強くやって欲しいそうだから力を込めて洗っていく。
「ああ、そのくらいだ」
あれ? 大分力込めてるんだけど? こんな所までステータスの差があるのか?
「なあ、カイ」
「ん? 何?」
「カイはこの国を……いや、この世界をどう思う?」
いつもよりも真剣な声だ。いきなりどうしたんだろうか? だが、真剣に言っているのだからしっかりと答えようか。
「……前世に暮らしていた国はこの世界と比べ物にならない程平和な所だったよ。他の国ではまだ戦争をしている所もあったり、挑発行動をしている国もある。でも、あの国は僕らにとっては間違いなく平和だった」
「前にもそんな事を言っていたな。刃物ですら持ち歩いてはいけないのだろう?」
「うん、あの国は傷つく事に凄く敏感なんだよ。それが、体であったり、心であったり、社会であったりね。この世界ではそういう面ではあまり敏感とは言えないね」
前世と違い、この世界は殺伐としている。アイン村は、平和な方であるが、他の村では魔物による襲撃が多い。かといって、街に住んでいても安全とは言い切れない。前世と違い、治安が悪すぎるのだ。例え、それが王都でもね。
「村や町の外へ出る事は傷つく事も考えないといけない。最悪、死ぬ事も考えないといけない。前世ではありえない考えだけどこの世界では普通だ。この世界は前世よりも平和ではないからね。でも、俺はこっちの世界の方が好きなんだと思う」
「……何故そう思うんだ? ずっと平和な場所は理想郷と言っても良い程だと思うが?」
理想郷ねえ。確かに戦いが絶えない所からくるとそう思うかもしれない。でも、その平和な所だって、本当に小さな争いは絶えないし、社会に出れば死ぬ事はほとんどないが、理不尽な事なんて日常茶飯事だ。
「理想郷なのかどうかは分からないけど、あの国は平和過ぎると思うんだ。平和過ぎていざという時に動けなくなる人が多すぎる。この世界に生まれて、今まで生きてきたから分かるんだよ。あの国に生死を分けるような体験もなく、重傷を負う事もあまりない。そのせいで、生きているという実感があまりなかったんだよ」
「それで、この世界だとその生きているという実感がすると」
「うん、そうだよ。だから、最初の質問の答えは、前世よりも殺伐としていて、いつ死ぬかも分からないようなそんな世界だけど、毎日が生きていると思える世界だと思うよ」
こんな世界よりも前世の方が圧倒的に良いという人の方が多いだろう。でも、今の答えは俺の中では紛れもない事実だ。転生してから現在まで、色々な事があった。時には死にそうな事もあった。勝つ事が難しい敵にあって絶望した時もあった。でも、そういう経験も含めて、前世よりも生きている実感がある。
ただ、生きているだけでは味わえない実感だ。出来れば死にそうな経験をしたくないが、その実感を忘れずにいたい。
「……そうか」
それっきり父親が黙ってしまった。……俺の答えが不味かったのだろうか? ……まあ、とりあえず風呂に入るか。
「さて、冷めて風邪ひくといけないから流して早く風呂に入ろう?」
「ああ、そうだな。頼んだ」
声からして怒っている訳ではないようだな。なら、良いかな。父親も何か考える事はあるのだろう。そっとしておいて、俺はゆっくりと風呂を満喫していよう。