閑話 フェンドの焦り 1
閑話です! 3話構成となるはずです。
4/11追記 次回は4/14となります。
俺は冒険者時代から使っている剣を腰に携えて、集合場所である詰所に訪れた。詰所前には衛生兵が2人佇んでいる。
「私はフェンド・アインだ。ライル殿はどこにいる?」
「第一訓練所にいらっしゃるのであります!」
「分かった。誰も通さないように気を付けてくれ」
「分かりましたであります!」
詰所に入り、第一訓練所へと向かう。第一訓練所に着くと何時でも出れるように準備を済ました衛生兵や騎士団が話し合っていたり、準備運動とでも言わんばかりに模擬戦を行っていた。そんな中、ライル殿が数人の騎士と戦っている所を発見した。ライル殿とは2年前の襲撃以来であるが、相変わらずのようだ。
「ライル殿、調子はどうですか?」
「おお、フェンド殿! この通り絶好調ですぞ!」
ライル殿は騎士たちに突っ込んでいき、自慢の力で騎士たちを吹き飛ばしていく。
「これから懲らしめに行くのですから程々にしてくださいね?」
「なら、フェンド殿が相手になって欲しいですな」
「私ですか……ええ、良いですよ」
昔から戦闘好きなライル殿には何言っても止める事はないため、満足するまで戦う事にしよう。剣を構え、ライル殿に攻撃を仕掛ける。
「おお、久しぶりに戦いますが相変わらず攻撃が速いですな」
「ライル殿も力を衰えていないみたいですね」
「まだまだ現役ですから、な!」
ライル殿が周囲の空気ごと吹き飛ばすが、その技はもう見飽きている。ライル殿の攻撃を剣で受け流して反撃をする。
「フェンド殿、ライル殿……戦闘を止めて下さい! あなた方が戦うと訓練所が使い物にならなくなってしまいます!」
「……む? これはゼノス団長。それは不味いであるな」
「そうですね。今回はこの辺りにしておきましょう」
俺とライル殿の周囲にあった物が戦闘で吹き飛んでいた。手加減したつもりであるがな……。
「それと、もう準備が完了しましたので出ますよ」
「分かりましたぞ。憎き奴らを懲らしめてやりましょうぞ!」
「ええ、散々苦労させられていますからね」
フレッツの婚約者であるミリア嬢の失踪から始まり、2年前のコールディ襲撃、1年前のアネスト大規模襲撃と本当に色々とやられたが、今度は事が起きる前に倒して見せよう。これ以上の被害を出させないためにも。
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騎士団と衛生兵は各班に分かれてスラム街へと突入し、取引が行われている現場に到着した。各々は奴らに気づかれないよう隠れて、突入の合図を待つ。現場では100名を超える奴らが鎖を付けられている多くの子供を馬車に運んでいた。
子供たちが捕まえられている事は想定内である。そのため、被害が出ないよう作戦も立ててある。そろそろ動き始めるはずだ。
「かかれー!」
ゼノス団長の声が空間内に響き渡る。その声に俺は近くにいる奴らの首を剣で斬り落としていく。奴らは怒鳴りながら武器を構えだすが……遅い。捕らえられている子供たちが人質とならないために子供の近くにいる奴らを次々と切り落としていく。
「この子供がどうな……」
……今のは少し危なかったがこれでもう子供たちは安全だろう。周りも何事もなく一部を除いた奴ら全員を殺す事が出来たようだ。
「よし、後は子供たちを保護だ。まだ奴らが生き残っているかもしれないから気を抜くなよ!」
俺は子供たちの鎖を次々と外していき、衛生兵たちが少量ではあるがパンと水を与え、騎士団が保護していく。中には今にも倒れそうな子供もいる。その子供にはパンではなく、病人食を与えていく。
保護された子供たちは助かった事に泣いている子もいれば、まだ助かった事を実感出来ずに困惑している子もいる。この後はしばらく詰所で保護し、親元へと返すつもりだ。今回の事で心に傷を負ってしまい、しばらくは元の日常に戻れないかもしれないが……頑張って生きて欲しい。
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子供の保護を終え、詰所へと戻った。子供たちは騎士団に任せて、衛生兵とライル殿と共にわざと生かして捕らえた奴らを尋問し、色々と情報を吐かせた。
やはり奴らは帝国の者であった。子供の身分などは誰でも良いが、貴族の子供を帝国に運べば特典が付くらしい……と、これ以上の情報は生かした奴らは持ち合わせていないので一足先に帰らせてもらう事にする。
今まで集めた情報はこうだ。
帝国の奴らは数年前から自国の子供たちを狙っている。年々誘拐しようとしている奴らは年々増加している。狙っている人は子供のみであり、最初の頃は貴族を積極的に誘拐しようと動いていたが、最近では一般人をも誘拐しようと動いている。貴族の子供たちが誘拐された中に、ミリア嬢が含まれていると俺は考えている。
帝国の奴らは何故子供を集めているか色々と推測は出来るが、判明していない。だが、帝国に誘拐された子供たちは碌な目には合っていないだろう。
勿論、自国も黙っているわけではなく、帝国に抗議したが返事は知らぬ存ぜぬだ。決定的な証拠があれば良いのだが、誘拐するような奴がその証拠を持っていないため戦争を起こす事が出来ない。……いや、エストリア陛下自らが宣戦布告すれば良いのだが、エストリア陛下は大の戦争嫌いだからな……。
私は勿論、他の貴族たちも戦争をしようとエストリア陛下に申告しているのだが、中々首を縦に振らないらしい。なので、証拠が見つかるまで少しでも被害を減らすためにライル殿などの好戦派の貴族たちが誘拐の防止、誘拐された子供の保護を行ってくれているが、それでも完全に防げる訳ではない。早く証拠を見つけなければさらに被害が増加していくだろう。
そんな好戦派に対して、子供を奪われた貴族たち奪還派は好戦派が行っている事だけでなく、何時戦争に出られるよう戦争の準備もしているらしい。国民も皆、その準備に協力的であり、非常に危険な状況である。そのまま準備だけで終わってくれれば良いが、このままでは勝手に戦争を始めてしまうだろう。
そうなれば自国はいくつかの派閥が生まれたまま戦争に突入し、国全体が協力して帝国に立ち向かう事は出来ないだろう。そうなれば勝てる戦争も勝てなくなってしまう。それだけは何としても阻止せねば……。