133話 脱出を試みるんだが 2
133話です! いつもよりほんの少し短いです。
早く首の鎖を解かないと……!
「……どうやって鎖を壊したのかは分からないけど……させない!」
ネルさんが一瞬で距離を詰めて俺に掴みかかる。その間に何とか首の鎖を解こうと努めるが、解く前に掴まれそうだったのでネルさんの腕を掴んで少しでも抵抗をする。
「抵抗……するな!」
だが、成人と幼児の差は歴然であり、すぐに腕を振りほどかれてしまった。そして、そのままネルさんの拳が腹に飛んできて、一撃を貰う。
呼吸が出来ない程の激しい痛みと共に腹を圧迫されて、胃から胃液が出そうになるが、痛がっている間に……。
「身体強化!」
「……なっ!?」
首の鎖が外れて、声が出せるようになった。そして、すかさず身体強化を無詠唱で使い、ネルさんとの距離を空ける。さらに手に魔素を込めて、何時でも魔法を放てるように準備しておく。正直に言えば蹴られた所や殴られた所をすぐに水癒で回復をしたい所であるが……その隙を許してくれないだろうな。我慢するしかないか……。
「……どうやって」
「さあね。でも、これで抵抗する事が出来るね」
「……抵抗なんて無駄。ここから逃がしはしない」
「そんなのやってみないと分からないよ」
……と強がってみたけど実際かなり不味い状況だ。襲撃者の数は未知数で襲撃者の馬車内という敵地のど真ん中だ。さらに鎖を壊した際に魔素を消費してしまっており、現在は元々あった魔素の半分以上が無くなっている。ここからネルさんを何とかして逃げ出すのは難しい。
おまけにこの場には10人程の子供がいる。俺が鎖を壊して、逃げ出そうとしている所を見て大層驚いているが、助けるとしたら1人が精々だ。いや、鎖を開ける鍵などがあれば全員開ける事が出来るのだが、鍵などを探すと間違いなく見つける前に魔素が切れてまた捕まってしまう。それもさっきの状態よりも厳重になるだろう。
そんな事を考えていたらネルさんがこちらを警戒しながら掌サイズの水晶のような物を取り出した。何だそれは? と思いながらその水晶のような物を見ているとネルさんはその何かを口元に持っていった。
「……こちらネル! アイン家の子供が抑圧の鎖を壊した! 応援を!」
「!?」
まさかの……通信!? 何でそんなものがこんなファンタジーの世界にあるんだ!? というか不味い! 応援を呼ばれた! ここはもう逃げる事だけを考えなければ……!
いや、そんなに慌てても判断を間違えるだけだ。冷静になろう。今いる地点は馬車の中だ。ネルさんを突破して、一刻も早く外に出なければ応援が来てしまい、詰むだろう。だが、その突破だけでも大変だ。……ならもう馬車の壁を破壊して外に出よう。手に込めた魔素の量をかなり増やす。そして……。
「風刃! ……シールド!」
風刃を壁目掛けて飛ばして、破片が飛んでこないようにすぐにシールドを展開する。そして、壁が開いた事を確認してそのまま突っ込んで逃げようとする。
「させない!」
だが、そんな隙をネルさんが許すはずもなく、俺が逃げる前に開いた壁の前に立って進路を塞いでくる。やはり……動きが速いな。身体強化した俺よりも速い……だが!
「このまま吹き飛べ!」
シールドを前にしてネルさんに突進する。受けきれると思ったのかネルさんは俺を捕まえようと構えだす。だが、身体強化を掛けたこの体で、勢いを付けた突進は幾ら幼児とはいえ防ぐ事は困難だ。案の定ぶつかると、シールドは割れてしまったが、ネルさんを吹き飛ばして馬車の外へと出る事が出来た。
蛇足になると思いますが、魔素量(MP)の変化が気になる人がいるかもしれないので書いてみました。気になる人だけどうぞ。
起床時の魔素量(2000程)、抑圧の鎖1本を破壊するために必要な魔素量(250)、抑圧の鎖5本を破壊した時の魔素量(750程)、身体強化(馬車内の時間だけで)(15)、風刃(320)、シールド(15)、馬車から脱出した時の魔素量(400程)
と言う感じになっております。抑圧の鎖を破壊するために魔素量(MP)が最低1250なければ、すべてを破壊する事が出来ないので普通は破壊する事が出来ません。