132話 脱出を試みるんだが 1
132話です!
声を出せない、手足も動かせないとなると周囲を見渡す事と耳を澄ませて聞く事でしか情報を得る事は出来ないだろう。幸い、現在は座っている状態なので馬車の中を見渡す事も簡単に出来そうだ。そして、改めて周囲を見渡すと子供がいるのだが、馬車の中の隅の方に大人がいる事に気づいた。その大人は襲撃者と同じ格好で背が高く、ガタイも良い事から男なのだろう。
その大人はこちらの目線に気づいたのかこちらに歩んでくる。
「キシシ、どうだなんだ? 調子は? 化け物さんよお」
やけに変な笑い方をする人だな……って化け物……?
「キシシシ、何か言いたそうだなあ。だが、何も言えないだろう? 隊長を殺したお得意の魔法も使えないだろう? そうだろう? なあ!」
そう言い放ち、身動きが取れない俺に向かって蹴りを放ってくる。あまりの痛さに意識が飛びそうになるが、再び飛んできた蹴りの痛みで無理矢理意識を戻される。そんな様子をこの人は心底嬉しそうに見下ろしていた。
「キシシシシ、やはりお前は化け物だ。普通の子供じゃこれだけの蹴りだけで死ぬはずだあ……ああ、ここにいる子供は全員普通ではないか。ここにいる子供は全員貴族なんだからなあ」
……この人数の全員が貴族!? 全員が貴族という事は貴族のみを狙っているのか!?
「おーおー、驚いているな。驚いているという事は理解している……。やはり貴族は皆成長が早いなあ。まあ、成長が早くともその状態では何も出来ないだろうがな。キシシ」
そう言い、再び蹴りを入れてくる。先程は腹に入れられていたが、今度は顔面だ。普段なら何とか避けれる蹴りも今の状態では当然避ける事が出来ず、激しい痛みと衝撃に視界がぶれる。
「これだけやってもまだ意識があるとは本当に化け物だ。大人になったらさぞかし脅威になるだろうなあ」
それでもまだ意識を落とさない俺に少し驚いた様子だ。だが、その後に視点があわず、先程の蹴りで鼻が折れたようで、鼻血が出てきている俺の姿を見て満足そうにしている。
「さて、俺は満足した事だしネルのやつも呼んでやるか。色々としたい事もあるだろうしな。まあ、死ぬないように頑張るんだな。キシシ」
男はそう言い放ち、馬車の中から出た。……ネルさん生きているんだな。呼んでくると言っていたからもう歩くだけの体力は回復したのかもしれない。
ただ、ネルさんには恨まれてそうだから何が起こるか分からない。なら、その前に何とかしないとな。それに現在、馬車が動いているだろうから俺らをどこかに運んでいるのだろう。その目的地までに何とかしないと取り返しがつかないかもしれない。まあ、その前に俺が生きていたら……の話になのだが、そこは大丈夫だろう。もし殺す気ならこんな事しないはずだしね。
だが、何とかするとは言ってもほとんど何も出来ない状態だよな。どうするか……手足は動けずに声も出せない。出来る事といえば目で見て、耳で聞く事だけだ。……だが、本当にそれだけか? 他にまだ出来そうな事……あ、魔素がある。この鎖は恐らく魔道具だ。なら、魔素で何とかなるかもしれない。
現在の魔素の量は眠っている間にほとんど回復したようだ。魔法は口にしないと放つ事が出来ないが、体内で循環させたり、集めたりする事は出来るはずだ。早速試していこう。
まず少量の魔素で循環……どうやら鎖がある所―――つまり、手足と首には魔素を通す事が出来ずに体内を循環しているだけだ……という事は無理矢理通過する事が出来れば何とかなるかもしれない。
という訳で早速左足の先端に大量の魔素を一気に送り込んでみる。すると、左足の鎖が異様なまでに発光した後、鎖が壊れて足から外れた。そして、重力に従い、音を立てて落ちた。
どうやら成功したみたいだが、音を立てたのは不味い。急いで他の鎖にもやらねば……! 右足……左腕……右腕……最後に首……!
「……何故!?」
手足の鎖を何とか外して、最後に首の鎖を外そうとした所でネルさんの声が部屋の中に響いた。