第3話 生きて還るまでが任務
「〈隊長〉、軍上層部が我々の貢献に報いてくれる。
そんなことがあるのでしょうか?」
若い兵士の声がする。
「そうだな、俺たち一兵卒はいいとしても……。
〈隊長〉は本来、士官待遇だ。
通常部隊ならいま頃は……」
壮年の兵士の声がいう。
「実家がやってる警備会社。
〈隊長〉のこと、親父がいたく気にいってて。
『まかせてもいい』って……」
「おいおい。
〈隊長〉にマーケットの警備をやらせる気かヨ?
冗談だろ?」
「おやっさん。
オレだって、しけた警備会社。
んなもん継ぐ気なんかなかったんすよ。
でも、〈隊長〉が仕切ってくれるなら。
そりゃあもう。
ただの警備会社じゃねえってこってしょ?
それならオレだって。
俄然ヤル気になるってもんだ」
〈俺〉は初耳だが、そんなことはおかましなし。
若い声が興奮気味に続ける。
「もちろん。
小隊ごと来てもらって。
まずは手堅いところから。
たとえば地元のVIP護衛とか。
実績つくってって……。
ちゃんと俺だって。
みんなのことだって。
先のことだって。
考えてますって!」
「お、こりゃあ。
二代目社長様に足を向けては寝られねえナ。
俺らの老後のことまで考えてもらっちゃあナ」
壮年の兵士の声が、ちゃかし気味にいう。
そのとき射撃音が響く。
複数かつ、連続的だ。
「〈隊長〉行ってください!!」
〈俺〉は振り返る。
足を鮮血で染めた若い兵士。
フィールドに倒れ込んでいる。
そして、もがくようにして背嚢を降ろす。
〈俺〉は、「馬鹿野郎!」と叫ぼうとする。
しかし、声は出ない。
若い兵士を助け起こそうとする。
が、足が動かない。
「〈隊長〉さえ残れば。
小隊は再建できる。
行ってください!!」
壮年の兵士が、分隊支援火器を固定しながらいう。
そんな馬鹿なことがあるか!
小隊は、指揮官と部下がそろっていての小隊だ。
指揮官だけの小隊などあるものか!!
それに〈俺〉は、「生きて還るまでが任務だ」と何度も教えたハズだ。
訓練中にも、出撃前にも!
こいつら全員、還ってから再教育が必要だ。
〈俺〉の目に、傍らに置かれた筒が目に入る。
〈俺〉は対戦車ロケット弾の筒を手に取ろうとする。
しかし、やはり腕を動かすことができない。
そのとき、右腕に痛みが走った。
「少佐!
少佐!!
お時間です」
遠くで声がする。
「全周囲警戒!
さあ、立て!!
突破するぞ!!!」
〈俺〉は叫びながら、跳ね起きる。
自分がいまどこにいるのか、解らなくなる。
負傷した若い兵士の姿はどこにもない。
〈機械仕掛け〉のモノ・カメラアイのレンズ。
それが、寝ぼけた男の顔を映しているだけだ。
「目覚めましたか?
音声での呼びかけでは目覚めませんでした。
そのため、中強度の電気ショックを使用しました。
問題ありませんか?」
「ああ。
夢を見ていたようだ。
おかげで目が覚めたよ。
ありがとう」
〈俺〉は右腕をさすりながら応える。
ちょっと痺れた感じが残っている。
だが、じきに消えるだろう。
「全周囲警戒中。
状況に変化なし」
「衛星画像を見せてくれ。
最新のだ」
〈俺〉は展開された液晶モニターを凝視する。
周囲に敵影はなし。
〈目標〉施設周辺にも、出撃前にブリーフィングで見せられた画像と変化があるようには見えない。
「よし。
いっきに〈目標〉に接近する。
先行してくれ」
「了解。
〈目標〉に向けて進発します」
「それから、〈俺〉のことは〈隊長〉でいい。
みんなそう呼んでいた」
「我が軍では、上官を階級で呼ぶのが慣例です」
「命令だ」
「了解。
〈隊長〉」
「それでいい。
よし行こう」