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人形操士NOA  作者: 菜柚月
学園生活編
7/14

落とし物

「ぬー……」

小さな寮の部屋の中で、私はひとり悩んでいた。

遠足こと、狂人形討伐作戦が結構される日まで、あと十日。私は、あることが気がかりでならなかった。

「やっぱ奥義の技名っているよな〜……」

トーラが使う奥義の、かっこいい技名が欲しかったのだ。

奥義に必ずしも名前をつけなくてはいけないわけではない。しかし、自分の操人形の奥義に技名をつけている人形操士は、かなり多い。つまり、つけておいて損はないうえに、あれば気分的にかっこいいということだ。

学園生活が始まり、これからバトルをする回数もいっきに増える。なおさら、技名が欲しかった。

そうだ、なんかアイディアが浮かぶかもしれないから、希姫さんの店に行こう。

すぐさま私服に着替え、部屋を後にした。


希姫さんの店に向かうとき、私は手さげカバンを手にしていた。そこには、人形姿のトーラがぶら下がっている。

「あっ」

走っていたので、カバンが手から地面に落ちてしまった。

ふぅ、と少し息を整えてから、すぐにそれを拾う。

時間の無駄時間の無駄…。

もう一度、希姫さんの店に向かって走り出した。

そのとき、カバンにはトーラはいなかった。



「こんにちは〜……って、あれ」

店の扉を開けると、レジのカウンター近くに希姫さんがいた。希姫さんは、誰かと楽しそうに話しをしている。

私はその話し相手に目がいった。見たことのある白い髪。眼鏡。整った顔。

店に入った瞬間、その話し相手が、こちらを横目でちらっと見た。

「き、貴様は!?ありえない!三年前に死んだはずじゃ…?」

「お前、なんかキャラ変わってるぞ」

その話し相手は白井だった。私の言葉に、迅速かつ的確にツッコミをいれてきた。希姫さんは、ぽかんとして二人を見ている。

「何しにきた?」

「それはこっちの台詞(セリフ)だけど!?」

「あ、すいません加賀良さん……これが……」

「無視!?まさかの無視なの!?」

二人が言い合いをしていると、その光景をしばらく眺めていた希姫さんが、やっと口を開いた。

「乃愛ちゃんって博也君と友だー」

「違います」

「即答だねー」

私は、相手が言い終わる前にすぐさま否定した。こんなやつと友達とか笑止、という感情の表れです。はい。

気をとりなおして希姫さんに質問した。

「なんで白井がいるんですか?まさか、白井の操人形も布製?」

希姫さんは返答する言葉がとくに無いようで、少し戸惑っているようだった。すると、それを補うように、横の白井が説明を始めた。

「俺は布製の操人形のことを研究するためにここに来た。勝負に勝つためにな。操人形のことについて加賀良さんにいろいろ聞いていたわけだ。まあ、理由はそれだけ」

その理由を聞いて、私はなんとなく納得した。

あ、そうだ。こんなことしてる場合じゃない。

当初の目的をふと思い出す。白井もいるが、それはそれで話しを聞いてもらいやすいと思った。

「そうそう、話し変わるけど」

そう言うと、場の空気が少し変わった。二人とも、真面目に話しを聞いてくれるようだ。

「操人形の奥義の技名ってどう思う?やっぱあった方がいいかな?あった方がいいんだったら、どんな名前がいい?」

三人の間に沈黙がはしった。希姫さんは不思議そうな顔をしてただ黙っているが、博也は何か考えるようにうつむいている。しかし、しばらくすると顔を上げた。

「まあ……俺は技名つけてるし、これは人の勝手だけど、つけたらいいんじゃないか?どうせ奥義は一つしか使えないから、たくさん考える必要がないしな」

「そっか……」

「技名のもとになる単語とかは、ネットとかで調べた方が早い。こっからは自分でなんとかするんだな」

意外にも博也は、真面目にアドバイスをしてくれた。


その後、何も買って帰らないのには気が引け、とりあえず店内を見てまわることにした。少し暗めの照明に照らされた狭めの店内で、のんびりと時を過ごした。

「…あ、これ!トーラに合いそうだし、強度も高い!」

良い布が見つかり、ふとトーラがいつも付いているカバンに目をやる。しかしそこには、いるはずのトーラがいない。

「うぇ?あれ?え?」

にわかには信じ難く、カバンの中をごそごそとかき回してよく見る。残念なことに、何度見てもトーラはいない。

「ま…さ…か……!」

この店に来る前のことを思い出す。

寮を出て、歩いて、一度転んで、また歩いて。

「あーーー!!!」

「うるさい黙れ」

驚愕のあまり大声で叫ぶ乃愛を、少し離れた場所で棚を見ている博也が静止する。

「どうしたんだ?ま、お前のことだからしょうもないことなんだろうがな」

「ここに来るときに一回こけて、そのときにトーラを道に落としてきちゃった…」

「ざまぁ」

白井の言葉など気にもとめず、すぐに店の出口へと走る。何も言わずに出て行く訳にもいかないので、一度立ち止まって、希姫さんに声をかける。

「あ、加賀良さん!ちょっと用事!時間があったらまた来ます!」

「え?あ、うん」

そう言い、私は店を後にした。


***


にゃあにゃあ。

人形姿の私が目覚めた場所、その周りではそんな声が聞こえている。その声は様々な場所からたくさん聞こえ、耳にかなり響く。私はうるさく思い、顔をしかめる。

「……まさか、野良猫のおもちゃになるとは…」

私は今、野良猫の遊び道具のようになっている。寝ている間になぜか野良猫にくわえられ、連れて行かれたからなんです。

「乃愛様はどこに行かれたのでしょう……あ、腕持ってかないで…」

すると、どこか遠くの方から聞き覚えのある声がした。


「トーラー!いたら返事してー!」


「はっ!この声は親愛なる乃愛様のお声!今すぐ行きます!」

私の女神である乃愛様は今、そこらじゅうに人形操士の力を使っていて、今私がそこに向かえば、人間の姿になれる。

もぞもぞと、芋虫のように声の方に向かう。猫に気づかれないように。

「あ」

たまたまトーラのいた方に力がかかり、操人形化する。私は人間の大きさになり、乃愛様はその存在に気付いた。

「トーラ!」

「乃愛様!」

二人は駆け寄る。乃愛様は、さりげなく抱き付こうとした、私の幸せそうな顔に膝蹴りを入れてきた。私はそのまま後ろに倒れこんだ。

「あれ?右腕は?」

「…取れちゃいました」

「ったく…私がいない間に何やってんだか。あとで付け直してあげるから、しばらくはそのままで」

私は嫌そうにうなだれたが、乃愛様はなぜか楽しそうだった。道行く人々は私の姿を見て、悲鳴をあげて逃げていっていたが、乃愛様は悠々と希姫様の店に戻った。


***


「あら、どうしたの?トーラ君ボロボロじゃない」

レジのカウンター近くに立っていた希姫さんが、心配そうに声をかける。

「…ああ、希姫様。…おかげさまで」

「とりあえずトーラ直すんで、ちょっと場所くださーい」

私は店の床を少しかりて、大きな針を使い、トーラの腕をつくり直してやった。トーラはその横で、楽しそうにそれを待っていた。

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