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人形操士NOA  作者: 菜柚月
学園生活編
6/14

ダルは、影のように黒く大きな操人形をこちらへと向かわせる。トーラは私を抱え上げ、ビルの屋上から飛び降りた。

「一対一。条件はお互い同じね」

「……」

ダルは無言のまま、服のポケットから何かボールのようなものを取り出した。そしてそれを、トーラではなく私に向けて投げた。

すると、ボールからは黒い煙のようなものがいっきに噴き出し、あたり一面をいっきに包んだ。

私は煙の中で短く叫ぶ。

「何これ!?」

トーラはすぐに反応し、私のもとに駆け寄る。でも煙で私の姿は外から見えなくなっていて、トーラは私を見失った。いつの間にか、ダルの操人形も見失ってしまった。

何?ちょっ…!

煙の中で、ダルの操人形が、私の首に刃物をつきつけてきた。

やがて煙が晴れ、トーラを視界に捉えることができた。

「……これなら太刀打ちできないだろう…」

「こそくな真似を……!」

トーラはダルを睨みつける。

「その娘を助けたければ、おとなしく人形に戻り、こちらに来い」

ダルはあざ笑うかのように言った。

私はおびえた様子は全く見せないようにし、平然を装った。

トーラは考えた。どうしたら私を助けられるか。どうしたら、あの隙の無い相手を倒すことができるか。

やがて結論が出た。

「…私はあなた方に従います」

「…え?」

私はトーラの発言に驚いたが、すぐにその言葉の意味が分かった。

「私が少しでも動いた瞬間、あなた方は乃愛様に危害を加えるつもりでしょう?私は乃愛様を守るために存在しています。乃愛様が傷ついては私のいる意味が無い。では、乃愛様を離して下さい」

そう言って、トーラはダルに近づいていった。トーラの持っているハサミと私の手は、かすかに青い光をまとっていた。

「心にも無いことを……まあ、良い判断だな」

そう言ってダルもトーラに近づく。ダルは、自分の操人形に指示を出すことなど完全に忘れていた。

私はさりげなくダルの操人形から音もなく走って離れる。ダルの操人形は、指示が無いのでただ立ち尽くしていた。

私が操人形から離れたのを見計らって、トーラはすぐさま操人形に向き直った。

「奥義発動」

その言葉と同時にハサミ全体が青い炎に包まれ、トーラはそれを縦に勢いよく振った。すると、ハサミから出た炎の刃が、相手の操人形を体ごと貫いた。

「騙したな……!」

ダルは驚きの表情を見せていたが、私とトーラは勝ち誇ったような笑みをうかべていた。

「これではいけない…だめだ……だめなんだよ……!『ボス』の命令なのに…!」

ダルは悲痛な声をあげ、地に膝をついた。だが、まだなにかしようとしている。

するとダルは立ち上がり、こちらに近づいてきた。あまりにも急だったので、トーラは反応に遅れた。

しかし。


「やめろ、ダル」


ダルの背後から可愛らしい声がして、その足を小さな手がつかんだ。

「…ムニェカ様……!なぜこのようなところに…!」

「諦めろ。お前は負けたんだ。撤収だ」

「しかし…」

「これはボスの命令だ。身分をわきまえろ」

ムニェカと呼ばれるその女の子は、歳は見た目から推測するに五歳ほどなのに、口調がかなり大人びている。

ムニェカはダルを連れて行こうとした。だがムニェカはダルを先に行かせ、私に話しかけてきた。トーラはムニェカに対して少し身構えたが、どうやら敵意は無いようだ。

「私の部下がすまなかったな。非礼を詫びる」

「あ、ああ…うん」

突然現れた女の子に少し戸惑ったが、やっとバトルから解放されて良い気分だった。

「まあ、今日は私は君たちにはなにもしない。だが、またボスの命令がくだったら、私たちは君たちのような人形操士を狙うだろう」

ムニェカは冷徹な目でそう言い、足早にその場を去ろうとした。しかしムニェカは帰り際に、何かを思い出したように指を鳴らした。すると私たちが今までいた無人の町は、上空から徐々に消えていった。


気がつくと私は、少し前まで流希と一緒にいた町のビルの隙間に立っていた。まるで、先ほどまでにあった出来事が全て夢であったかのように。トーラもいつの間にか人形に戻っていた。あれは何だったんだろう……って、もう夜じゃん!やばい…寮で先生たちにめちゃくちゃ怒られるパターンのやつ!

全力で学園まで走った。学園に着いた頃にはすでに二十二時を回っていた。底知れぬ絶望を感じた。

学園の門の前には教師が数人立っており、不安そうな表情を見せている。私はしぶしぶそこに向かった。

「櫻井さん!無事だったのね!良かった。早く寮に戻って休んでね」

教師は焦ったようにそう告げ、寮まで帰るように言ってきた。なぜか全然怒られない。ラッキー。

寮に戻ると、そこには心配した様子の流希ちゃんと筑紫ちゃんがいた。部屋に入るとすぐに、二人は駆け寄ってきた。

「乃愛ちゃん大丈夫だった?急にいなくなっちゃったから、びっくりした〜」

「乃愛さんたちはアルサークに会ってしまったんですね」

「たち?」

「乃愛さんの他にも、この学園の生徒が二十人もアルサークに襲われました」

全く知らなかったが、私以外の人形操士も被害に遭い、人形を取られていたらしい。

筑紫ちゃんが、手元のノートパソコンをに見せてきた。その画面には、アルサークについての検索結果がいくつも表示されていた。

「世界でも有名な謎の巨大組織…拠点は日本…活動内容は主に人の操人形を奪うこと…その目的は不明…」

どうやら恐ろしい組織のようだった。教師たちは、この組織がこの町に現れることを恐れていたらしい。

「私の推測ですが……アルサークは、この学園と生徒を狙っていると思われます。アルサークは人形操士の持つ操人形を狙うので、人形操士が多くいるこの学園は、絶好の場所になっているはずです。乃愛さんが戦ったように、すでに魔の手は忍び寄っているようです」

筑紫ちゃんが言うように、アルサークはすぐ近くまで来ている。

アルサークの戦い方は特殊で、一人が多くの操人形を駆使したりして戦う。会って戦った人形操士の多くは、大事な操人形を取られてしまう。アルサークは強く、危険だ。

「こんな組織があるなんて……。許せないよ!」

アルサークのことを知った私は、なんとなく自分が倒さないといけない気がした。

「よし!私、アルサークを倒す!絶対やっつけてやる!」

乃愛は小さな部屋の中で、夜でありながらよく通る大きな声で決意した。

「え〜!?危険だよ〜やめときなよ〜」

「いや、倒す!危険でも倒してみせるよ!」


こうして夜は更けていった。

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