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人形操士NOA  作者: 菜柚月
学園生活編
14/14

GW

五月二日、遠足の翌日。

授業は通常どおり。

今日は学活の時間に、昨日のことのレポートと、ペアで倒した狂人形の人形を提出した。

私たちの倒した狂人形の数は三匹。三匹ともレベル六だったこともあり、これはかなりの好成績だ。

今回の遠足での戦績は、一学期の成績に入る。学園生活序盤から、これはたいしたものだ。

……この成績はペアで一緒になるから、ほとんど白井のおかげなんだけどね。

当の白井は、私の隣の席でぐったりしている。見ようによっては、眠そうにも見える。

なんやかんや言って、頑張ってくれたんだ。ちょっと迷惑かけちゃったかな。

でも、安心するのだ白井。明日からは、待ちに待った…そう!

G(ゴールデン)W(ウィーク)なのだから!

私は実は帰宅部。この学園には様々な部活があるが、根っからの面倒くさがりの私は、どれにも属さなかった。

習い事などでは、習字を習っていたぐらいだ。

部活などするものか。部活を始めたら、土日がなくなるじゃないか。私にはとても耐えられない。

寮にはゲームなどを持ち込めないので、休日は本を読んだり町に出かけたりして過ごしている。

ということで、私は前々からGWという至福のひとときを楽しみにしていたのだ。


さて、GWは何して遊ぼう。

実家に帰る?友達と遊びに行く?寮でゴロゴロする?特訓する?

どうしよう。考えるだけでにやけが止まらない!

でも、せっかく新しい友達ができたんだから、友達と遊びに行こうかな。ゴロゴロしたり特訓するのは、とりあえず封印。

流希ちゃんと筑紫ちゃん、GW暇かな。帰ったら聞いてみないと。

二人とはクラスが別だから、この広い校舎ではなかなか会えない。だから私は休み時間、同じクラスの友達と喋ることが多い。

友達はわりと多い方だ。

中学のときの友達はここにはいないけど、新しい友達がいてくれて、そこまで社交性の無い私にとっては喜ばしい。

皆んな裏表がなくて、優しくて、普通に接してくれて。

長い間家族と一緒に暮らすことがなかったから、皆んな家族同然に感じる。

私は幸せなんだろうな。

…早く帰って、二人と話したいな。



「乃愛ちゃんごめん!私部活があって…」

「私もです。すいません…」

流希ちゃんも筑紫ちゃんも、苦笑しながらそう言う。

そう、私は部屋の真ん中で、二人にGWのことを話したのだ。

…まさか二人とも無理だなんて思わなかったが。

「そうなんだ…。無理言ってごめんね」

いやいやいやいや納得できませんけどね!?

私のGW…。

予定があるのは仕方ない。私だけの都合じゃ迷惑をかけてしまうのは分かっている。

でもおぉぉぉぉぉおお!!!

「私、部活が無かったら乃愛ちゃんと遊べたのにな〜。でも、彼氏とかがいたら別だけどね〜。博也君とか博也君とか博也君とか」

「はぁ……私はそういうものには関心が無いので分かりませんが…」

「流希ちゃん、さらっとすごいこと言うね。特に最後」

流希ちゃんは熱狂な、白井……もとい博也ファンだ。

たまに、さらっとすごいことを言う。ちょっと怖い。

「君たちは博也君の良さが分かってない!」

いつもどこかおっとりしている流希ちゃんだが、白井の話になると、まるで別人のようになる。

「別に悪いとは思いません。彼の腕は確かですし。でも流希さんレベルでは……」

対して筑紫ちゃんは、恋愛系の話などには興味がないらしい。ましてや白井には。私もだが。

でも筑紫ちゃんの性格は、なんとなく白井に似ている気がする。同じではないけどね!?

「そもそも、あんなにカッコよくて強くてクールな男子なんか、いくら探しても他にいない筈だよ!それがこの学園にいるなんて、考えただけでもう………!」

流希ちゃんはうっとりとした顔で、必死になって白井の魅力を語っている。

私たち二人は、この話が始まると、いつもとりあえず相づちを打つ。お互い流希ちゃんのことは大好きだが、こればかりはついていけない。

「私はあいつあんまり好きじゃないけど……」

「ん?なんて?聞こえないよ〜?博也君は神だよね?」

私が何を言おうと、論破されます。

「そう…ですね」

「そこ、言葉に感情が全く入ってないよ!?」

筑紫ちゃんが死んだ目でそう言うと、それに対して、流希ちゃんは焦りながらツッコむ。

「ところで二人には、好きな人とかいないの?」

「いませんね。興味ないです」

「いないよ。だってさ」

「だって…?」

流希ちゃんの目が輝く。こういう話好きだよなぁ。

「男子は四十を過ぎてからじゃない?」

二人の表情が凍る。あれ、私変なこと言っちゃったかな…?

「乃愛ちゃん、まさかの……」

「うん、そうだよ。変?」

「ううん!ぜーんぜん!?変じゃないよ!」

表情が固いのは気のせいだろうか?

「だから良い人いないんだよなー。アニメとかではよく見るけど」

「そ、そっか」

なんか引かれてる…?

「そ、それはさておき。乃愛ちゃん、GW結局どうするの〜?」

完全にそのことを忘れていた。

今から連絡取るのも、ケータイ回収の時間がもうすぐだから無理だし、クラスの友達も皆んな部活に入っていたはず。

帰宅部とかいたっけか。

誰か、誰か!

いくら干物の私でも、長いGWを独りで過ごすのはきつい。

とりあえず、明日一日は寮でじっとしていよう。一日ぐらいは捨ててもいい。

「じゃあ、明日は独りでゴロゴロして、明後日から友達と予定合わせて遊びに行こうかな」

「そっか〜……あ、もうケータイ回収して寝る時間だ」

私たちはケータイを寮の回収場所に持って行き、部屋に戻った後、寝る準備をした。

「じゃあね、おやすみー」

眠い目をこすりながら、そう言う。

「おやすみ〜」

「おやすみなさい」

三人、同時に布団に入った。

布団に入り、完全に寝てしまう前。ふと、こんなことを思った。

明日は、町に出ようかな。

特に理由はない。でも、なぜかそう思ったんだ。

………あれ?なんかかなり重要なことを忘れてる気が…。

……ま、いっか。


「……はっ」

朝だ。ベッドから降り、カーテンを開けると、やけに天気が良く、雲ひとつ無い。お出かけ日和とは、このことだ。

起きたときには流希ちゃんも筑紫ちゃんもいなかった。部活、朝早いんだなぁ。

さてと、出かけますか。

支度を終えると、時計はもう十時を回っていた。私はすぐに、寮を後にした。


はぁ〜〜あったかい。春って、こういう気候がいいんだよね。どこに行こう。

迷ったときは希姫さんのお店に行くのが、いつもの町での過ごし方だけど、今日は行かないでおこう。

いつもと違う過ごし方も、きっと良いはず。なんだかウキウキして、道行く人たちの間を、思わず走り出してしまう。


充実感に浸っていると、小さな喫茶店の前にたたずむ、一人の女の子が目についた。

女の子は帽子を深くかぶっており、表情はよく見えないが、どこか暗い印象がある。長く綺麗な銀色の髪を後ろでうまく束ねていて、着ている白いワンピースがとても合う。大人びた感じがあるが、背の高さからして、小学三年生くらいだろう。

女の子の周りを見ると、保護者らしい人が見当たらない。一人で来た…わけでもなさそうだ。誰かを待っているか、あるいは迷子か。

「ね、どうしたの?」

心配なので、声をかけてみる。

すると、女の子はハッとして顔を上げた。

「……?」

透明感のある白い肌に、左右非対称の色をした澄んだ瞳。いわゆる、オッドアイ。

テレビや雑誌でも見たことのないような、容姿端麗さ。すごく可愛い。

「……何…?」

「え、あ、ああ………こんなところでずっと立ってるけど、どうしたの?」

上目遣いなのがまた可愛らしい。

「………さっき…はぐれたの」

やはり迷子だったか。

「誰と?」

(るい)…と」

「類?」

「……私の身の周りの……お世話して…くれる人…」

『類』って何のことかと思った。人の名前か。

身の周りの世話……執事とかかな?この娘、結構高そうな服着てるし。

「保護者さんだね。私が一緒に捜そうか?」

「…いいの?」

「うん、暇だし」

女の子の表情が、いっきに明るくなる。

「あ、えーっと…私は乃愛!君、名前は?」

「…(しずく)……」

「雫ちゃんか、じゃあ行こ!」

二人で歩き出そうとした、その時。

「…あ」

「どうしたの?」

「類……来た」

私たちの前方から、息を切らして走ってくる、スーツ姿の青年の姿が。

それを見た雫ちゃんは、そちらに向かって叫んだ。

「類ー!」

「雫様、ご無事ですか!?」

青年は、私の目の前まで来ると、ニコッと微笑んだ。その穏やかな顔つきもあってか、こちらまで表情筋が緩んでしまう。

雫ちゃんが名前を呼んでいたのだ。この青年が、類だろう。

少しの沈黙がなぜか続いたが、この空気を変えようと、雫ちゃんが小さな声でゆっくりと口を開いた。

「乃愛がね、私を類のところに連れて行こうとしてくれたの」

たどたどしくそう言う姿を見た類…さんは、雫ちゃんではなく、私に向かって話しかけてきた。

「乃愛…様とは、貴女のことですか?」

「は、はい」

も、もしかしてこのパターンは!「雫様にお声をかけていただき、誠に感謝しております。この度は(わたくし)めの不注意により招いたトラブルです。なにかお礼でもさせていただけないでしょうか」とか言われて大豪邸に連れて行かれて、すごいおもてなしを受けるというやつかもしれない!

これは憧れの高級タラバガニを口いっぱいに頬張れるチャンス…?考えるだけでお腹いっぱいだよ…。

ニヤニヤしながらそんなことを思っていた、その矢先。

「雫様に、少しでも触れたりしていませんよね?」

類さんの優しい目つきが一変して、ギロリとこちらを睨みつける。背筋に悪寒が走り、まるで蛇に睨みつけられている獲物のように、身体が固まってしまう。

これは、完全な敵意だ。

固まってしまった身体を動かすように、やっとの思いで声を出す。

「い、いえ……」

「……そうですか。なら良かったです。まぁ、本人に聞いた方が早いんですがね」

類さんはもとの優しい目つきに戻っていた。先ほどの強い敵意は、まるで感じられない。むしろ微笑んでいる。

「…類……行こ」

「そうですね。では」

え、もう行くの!?お礼無しに!?

私の期待返して…。

二人は私に(きびす)を返し、私が向いていた方向と反対の方向に歩き出した。

私は呆然として、ただ立ち尽くしている。

「…あ」

歩き出していた雫ちゃんが、何かを思い出したかのように声を出し、こちらに振り向いた。

「どうされました?」

すぐに類さんも振り向く。

雫ちゃんは私の目をしっかりと見つめ、少し微笑んだ。

「さようなら。中真学園の、櫻井 乃愛さん」

「…え……?」

雫ちゃんはそう言い放ち、類さんと二人で、足早に去って行ってしまった。

なんで私の学園と苗字を…?学園の人……なわけないよね。高校生ではなさそうだし。どういうことだろう。忘れてたことを急に思い出したみたいに言ってたけど。

忘れてたことを思い出す?あ、そういえば!遠足のときに入ってきたあの魂、寮の二人に紹介するの忘れてた!あまりに存在感が薄いから…。

『悪かったのう、影が薄くて』

え?誰?

周りを見渡しても、私に声をかけている人はいない。でも、確かに声は聞こえた。

『儂、儂。今は脳内に直接話しかけてる』

脳内に直接?

道行く人々の邪魔にならないように、できるだけ道の端に寄り、耳に手を当て目を閉じる。すると、真っ暗な視界の中に、一人の古風な女性が。

「へぇ〜、こうやって話せるんだね」

『すごいじゃろ?』

女性は笑う。言葉は、脳内で考えただけで通じるようだ。

「で、急に出てきてどうしたの」

『儂はな、昔式神だったんじゃよ。…帰りのバスという乗り物でハクヤに聞いたが、今では操人形というらしいな』

女性の表情が、少し暗くなる。

「うん、乗り移られたときに、そんな感じはしたよ。あれ、今は違うの?」

『陰陽師……人形操士が死ぬと、操人形もともにか消えるのは知っているだろう?儂は凶人形どもとの戦いで主を失い、本来なら主とともに消える運命だったのじゃ』

そう、操人形の『死』とは、『術者である人形操士が死ぬこと』。人形操士が死ぬとすぐに、魂の宿らないただの人形に戻り、額のクリスタルが消える。

逆に言えば、『人形操士が死なない限り、操人形は戦い続けられる』のだが。

クリスタルを破壊するというのは、人形操士が操人形に送る力を一時的に遮断すること。人形は一度クリスタルを破壊されると、長くて三時間、短くて一時間は人形のまま動くことができなくなる。これは、常に人形操士から送られ続けている力を強制的に遮断した、反動によるものだ。

『じゃが儂はある狂人形に、それを阻まれたのじゃ』

「阻まれたって…つまり、死んでしまうところを救われたってこと?知性を持たないはずの狂人形にそんなことが……あ」

乗り移られた直後のことをふと思い出す。あそこにいた青年の形をした狂人形は確か言葉を話し、物事を考えていた。

狂人形と操人形には、共通して額にクリスタルがある。操人形のクリスタルの色は様々で、個体差があるが、黒のクリスタルは無い。それに対し、狂人形にあるクリスタルは黒のみ。あのときに見た人形には、黒く光るクリスタルがあった。だから、狂人形だと認識したのだ。

『お前はまだ死ぬなって言われてな。そしてあの神社にあいつとともに封印されたんじゃ』

「ところであの狂人形は何者なの?」

『…これは、お主には全てを知ってもらう必要があるな』

女性は目を閉じ、大きく息をする。そして目を開くと、力強い眼差しで言った。

『あれか。あれはな………『真の人形操士』なんじゃよ』

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