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人形操士NOA  作者: 菜柚月
学園生活編
13/14

狂人形討伐作戦-⑤-

討伐作せ……否、遠足の帰りのことだ。

疲れた様子の者や、まだ元気そうに話をしている者が周りにいる中、俺は帰りのバスの中でふてくされていた。

隣にはキョロキョロと物珍しそうにあたりを見回す櫻井が。

こいつは、どこから誰がどう見ても櫻井だ。

真実を知っている俺でさえ、気を抜くと『間違え』てしまう。

そう、こいつは櫻井だが、櫻井ではないらしい。

どういうことか。それは、二時間程前にさかのぼる。



「そうか。儂は封印されてたのじゃった…ハハッ、いつの間にか何年もたったらしいのう。すっかり忘れておった。ところでお主は?晴明殿に似ているが、少し違う。おかしな着物?を着ているが、お主何者だ?」

「え、ええ?ああ…」

急に何者だと聞かれても、返答に困るのは必然だ。

つか、こいつがその『悪魔』という奴か。あの男が言っていたような、悪者には見えない。

悪者には見えないとは言ったものの、見た目は櫻井だが。

俺はとりあえず、名前などの軽い自己紹介をすることにした。

「俺は白井 博也。人形操士で、お前が今入っている身体は俺の連れだ」

『今入っている身体』と聞いて、偽櫻井(仮)は、自分の身体をまじまじと見る。

「そうだ、入っていたのを忘れておった。先ほどはうまく扱えなくて、攻撃を避けるのがやっとだった。『奴ら』を追い払ってくれたのだな。礼を言う。えっと……ハクヤ?」

「博也でいい。じゃあ、次はお前の自己紹介だな」

「自己紹介?」

「名前とか」

偽櫻井(仮)は、虚空を見つめて何かを考え始めた。

自己紹介くらい、さっとできないのか。

「名前は……なんじゃったっけ?」

「いや、逆に聞かれても困るが!?」

天然かっ!とツッコミを入れたくなる。

「名前は自分でも分からないが、簡単に自己紹介をするならば」

偽櫻井(仮)は、存在をすっかり忘れていた、石の台の方を指差した。

「あれが儂じゃ」

石の台の上には、先ほどの事件が起きた元凶である、あの小さな何かが。

近づいてよく見ると、それは土のようなもので作られた、フィギュアのようなものだった。

「じゃあ、お前は…」

「式神じゃよ」

え、そこは『操人形じゃよ』じゃないのか。

「式神?」

「なんじゃ、お主も陰陽師じゃろう?儂と同じ式神を使っておったではないか」

偽櫻井(仮)の話を整理すると、つまり、人形操士=陰陽師、操人形=式神ということだ。

かなり古い時代に封印されたのだろう。昔は人形操士を陰陽師と呼んでいたのか。陰陽師は陰陽師で別物だと思っていた。

にわかには信じ難いことばかりだが、偽櫻井(仮)曰く、そうらしい。

「納得はできないじゃろうがなぁ」

「ああ、簡単に納得しろと言われても難しいな。お前は自分のことを知らなさすぎるし」

「まぁな。……そうだ、封印を解いてくれた礼に、儂に出来ることならなんでもするぞ?」

偽櫻井(仮)に出来ること。

少し考えてみる。

俺ははっと、我に返った。

「じゃあまず」

「なんじゃ」

「お前は今他人の身体を乗っ取っているわけだ。で、その身体をもとの持ち主に返してやってほしい」

「いいぞ」

「そこ、もっと悩んだりしないものか?」

偽櫻井(仮)が、ゆっくりと目を閉じる。

「いち〜にの〜さんっと」

開いた櫻井の目は、もとの優しげな目だった。

今まで気がついていなかったが、偽櫻井(仮)時は髪が少し逆立っていたようで、髪ももとの髪型にもどった。

「びっくりした?」

「ああ、今もな」

意外にも櫻井は、自分が乗っ取られていたときのことをきちんと覚えていた。

さらに、乗っ取られることがさほど不快ではないらしく、平然としている。

「そうだ、この娘の名前考えてあげないと」

「いや、まずはここから出ようか」

この娘とは、偽櫻井(仮)のことだ。

俺たちは、その建物から出た。

出るときに気になったのは、入る前に感じた怪しげな雰囲気が消えていたことだ。

あれほどまで入り難かった建物だが、帰りにはとくに何も感じなくなった。

これも、あの男を追い払ったからだろうか。


建物からは、あっさりと抜け出すことが出来た。

「白井、なんかすごく疲れた顔になってるよ?大丈夫?」

櫻井がジャージのポケットから手鏡を出し、こちらに手渡す。

「すまん。……本当だ」

先ほどの戦いのせいだろう。鏡に映る自分の顔は、青白く、目もしっかりと開いていない。あの櫻井に心配されるのも、無理は無い。

戦い終わりの人形操士って、こんなに疲れているんだな。

「せっかくの男前なんだから、気をつけないと!」

「別に男前じゃない!」

「いいじゃんそんなことは〜。じゃ、ちょっと休憩でもしない?」

今まで気がつかなかったが、かなり喉も渇いている。

「…そうだな。弁当でも食べるか」

先ほどの建物を背に、地面の上にそのまま座る。

森全体の湿気が多いせいか、地面は若干湿っている。虫もいるので、少し不快だ。

だが、そんなことばかりは言ってられない。

櫻井の方を見ると、もうすでに弁当を膝の上に広げ出していた。早い。

じゃあ、俺も。

背負っていたリュックを下ろし、弁当を取り出す。取り出す。取り出………。

無い!?朝バスを降りた後に先生から配られたはず!

…いや、櫻井のことで頭が一杯で、もらうのを忘れてた気が……。

一応言っておくが、櫻井のことで頭が一杯っていうのには、深い意味は無いぞ。決して。

どうする!?俺。

腹がへった…だが仕方ない。水はあるし、我慢するか。

「白井、食べないの?」

櫻井はまだ割り箸を割ったところだった。

「もしかして忘れたの?」

「それは…ない!」

「じゃあ早く食べれば?」

「う…」

櫻井はニヤニヤしながら飯を口に運ぶ。

羨ましくなんて…ないんだからな……?

「忘れたんでしょ」

…意地を張り続けてもしょうがないな。

「そうだ。そうだよ」

俺はふてくされてうつむく。

「…分けてあげてもいいけど」

フン、何を今更。

一瞬櫻井が天使に見えたのは、とんだ見間違いだろう。

俺がそんなことに同意するとでも?

「分けるなら半分は欲しいものだな」

「いや、半分は無理」

同意するに決まっているだろう。

「ちょっとならあげれるよ。でも、食べる手段はどうしよう」

俺の分の割り箸なんて無いからな。手で食べるわけにもいかないし。

櫻井が、米を少し箸で掴み上げる。そしてそれの下に手を添え、こちらに差し出してきた。

これはまさか。


「はい、あ〜ん」


なん………だと……?

櫻井の笑顔が眩しい!そして少し上目遣いなのがまた……。

いやまて、そもそも櫻井は俺の彼女でもないし、友達でもない!(と、信じている!)

俺が、そんな奴の誘いに乗るとでも?

「…あ……ああ…りがとう」

さすがに、このシチュエーションには乗らざるを得ない。

あたりに誰もいないのをしっかりと確認し、差し出された米を食べる。

認めたくはないが、これを嬉しく思う自分がいる。

…それにしても、櫻井のこんなに明るい笑顔はまだ見たことなかったな。

可愛…くなんかないぞ。ないない。いや、可愛い。え、可愛い?

「美味しい?」

「……」

「無視ですか」

「あ、ああ!美味しかった!」

しまった、俺は櫻井に見惚れていたのか…?


飯を食べ、俺たちはバスへともどった。そのときは、すでに集合時間ギリギリだった。



そんなこんなで、俺は今帰りのバスの中にいる。

バスへと向かう途中、櫻井は偽櫻井(仮)に変身(?)した。

櫻井に理由を聞くと、「この娘バスとか乗ったことないみたいだから。いろいろ見せてあげて」だそうだ。


そもそも偽櫻井(仮)って、あの口調で女子なんだな。


ハクノア(博也×乃愛)がえらいことに…!

ちなみに乃愛の見せた満面の笑みには、深い陰謀が隠されているのです(棒)

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