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人形操士NOA  作者: 菜柚月
学園生活編
12/14

狂人形討伐作戦-④-

青年は俺の表情をうかがいながら、まるで心を読んだかのように話しかけてきた。

「いまいち分からないって顔だな。つまり、『そいつの中に今入ったやつ』の封印が解かれないようにしてんの。『そいつ』は他の生き物の体に自分の魂を移すことができてな。今その娘はその娘じゃない。他のものが乗り移った、違う生き物だ。俺は、それが人間に悪さををしないように見張っているんだよ」

櫻井に違う生き物が?

「じゃあ『そいつ』とやらは、なんなんだ?」

「悪魔だ」

青年は即答した。そのどこか暗い表情からうかがえるように、『そいつ』に、深い恨みのようなものがあるようだ。

「やつは俺たちを滅ぼそうとしたんだ。やつを封じ込めて、俺たちの暮らしの安寧を守るのが、俺の使命だ」

まだよくわからないが、そういうことらしい。

「なるほどな。じゃあこいつからその悪魔とやらを出してほしい」

「そうだな……なっ!?」

その瞬間、櫻井が青年の顔に向かって、物凄い勢いで殴ろうとした。

青年はとっさに身を(ひるがえ)し、すんでのところでその攻撃を避ける。

よく見ると、櫻井の目は殺気に満ち、表情が変わる様子が全くない。

「チッ……こいつ、本気で俺を殺そうとしてるな。新しい身体に慣れてないからあんまり動けないようだが。なら」

青年は服のポケットから白いものを二つ取り出した。よく見ると、それは人間の形をした人形のようだ。

その人形を両手に持ち、前に手を伸ばす。

青年は、呪文のようなものを唱え始めた。

「狂人形…?」

すると人形は、二体の大きな操人形………否、クリスタルが黒く光る、狂人形と化した。

普通人間には、狂人形を操ることなどできないはずなのに。

「やれ」

狂人形が櫻井に向かって腕を振り下ろす。櫻井は間一髪でそれを避けたが、バランスを崩し転倒する。

櫻井は、人形操士といえど人間。狂人形の強烈な攻撃を一度でも受けてしまうと、ただではすまない。

「なっ…お前、悪魔とやらを倒すだけなんじゃなかったのか!?」

二体の狂人形は、櫻井に向かって何度も何度も攻撃を繰り出す。

櫻井は攻撃を避けるばかりで全く戦おうとはしないが、なかなか危なっかしい。

「ああ。だから、そいつごと殺すんだよ。それが一番手っ取り早い」

俺はその言葉に憤りを感じた。

「お前、何言ってるんだ?」

思わず人形を取り出し、手に握りしめる。

「意味の分からないのはそっちだろ〜?……って、お前まさか人形操士?」

俺の人形を見た青年は、表情を曇らせる。

「そうだ」

「っへぇ〜そうなんだぁ。これはこれは、人形操士さん」

青年は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。


「じゃあ、お前も殺さねぇとな」


青年はどこからか刀を抜き、こちらに向かって斬りつけてきた。

俺はとっさにルトナを操人形化させたため、防御されて相手の突然の斬撃にどうにか対応することができた。

「当たらなかったか。いや〜でも、操人形なんか久しぶりに見たな。ああ、忌々しい」

「忌々しい…?」

「人形操士はさ、操人形を使って狂人形と戦うだろ?俺たちはその逆で、昔とある人形操士どもに滅ぼされかけたんだよ。間一髪で逃れたがな」

じゃあ、お前は一体何者なんだ?

そんなことを言う暇も無く、相手は先手をうってきた。

ルトナが攻撃を受け止める。ルトナは鉄でできているため、通常の攻撃はほとんど通らない。

後ろでは、櫻井と狂人形が戦っている。

「なんだ、後ろを気にしてるのか。安心しろ。あの娘もどうせ人形操士なんだろ?あいつは俺の狂人形がちゃんと殺ってくれるさ」

「…させるものか」

ルトナが小さい銃を両手に一つずつ持ち、連射する。しかし相手の動きは想像以上に素早く、一撃も浴びせられない。

奥義を使うか否か。

一度奥義を使うと操人形には大きな負担がかかり、使った後に人形状態に戻ってしまったり、人形が急に意識を失うことがある。

一日に一度くらいが限界だ。

ルトナの奥義『雷帝(ライジング)(ショット)』は、放った銃弾の形や動きを十秒間自在に操ることができると同時に、強い電流で相手を麻痺させるという技。

これは便利な技だが、先ほど使ったばかり。ルトナの体力が持つか分からない。

考えているうちにも、戦いは続いている。櫻井もルトナも、そろそろ疲れが出てきたようで、ダメージが増えつつある。

これは一か八か、やってみるか…。

やらないで後悔するよりは、やって後悔する方がマシだ。

「ルトナ!奥義だ!」

「え、ええ?本日二回目ですよ!?」

「時間がない…!奥義発動!!!」

ルトナのクリスタルと瞳が光り、青年と距離をとりながら銃を構える。

雷帝(ライジング)(ショット)!!」

光輝く銃弾は、まず青年の右手首を貫いた。

「がっ……!」

青年は刀を床に落とし、苦しげに右手首を抑えた。

さすがに人間を殺すわけにはいかない。それを思って、武器を持つのに必要な、手首だけを狙った。


しかし。

青年の手首からは全く出血せず、傷口はまるで布が破れたようになっていた。

これでは、まるで人形じゃないか。

「お前……それ…」

奴は狂人形なのか?いや、狂人形なら知能はほとんど持たないはず。

なら操人形か?…違う。操人形なら撃たれても痛みは感じないし、人形操士が近くにいる。

「っ……!」

青年はかなり焦った顔で、すぐさま二体の狂人形をもとの人形姿にもどした。

「……また会おう…今度は絶対殺してやるからな………!」


そしてその瞬間、姿が消えた。


俺はその後、少しの間あっけにとられていた。

我に返った後、すぐに櫻井のもとに駆けつけた。

櫻井は、冷たい床に疲れた様子でで倒れている。

「大丈夫か!?」

「う……ぅぅ…」

櫻井は、頭を抑えながらゆっくりと身体を起こした。

大丈夫そうだと確認した後、ぐったりした様子のルトナを人形にもどし、カバンの中にしまった。

「こ…こは……」

「ん、どうした?」

櫻井は大きく伸びをした。

「なんじゃかよく寝た気がするのう。儂はどうしたものか…」

「そうか…………って、は?」

それは確かに櫻井の声だった。しかし、声以外は全く別物だった。

「ん?なんじゃ?お主は」

俺は櫻井の目をよく見る。

その目はいつもの櫻井と違い、鋭く、覇気を感じられるものだった。

「お前は……誰……だ…?」

「儂か?」

櫻井ではない『何か』はあたりをキョロキョロと見回す。

「って、なんじゃこりゃああああああああ!!!」

『何か』の声は、耳が痛くなるほど大きかった。

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