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人形操士NOA  作者: 菜柚月
学園生活編
10/14

狂人形討伐作戦-②-

俺はふと思い出す。

「狂人形レベル確認装置使うの忘れてたな。レベルは……六…か」

俺は走りながら、櫻井のいる方に振り向く。

あいつの操人形は、巨大な狂人形の足を少しずつ切り刻んでいる。狂人形の行動に必要な足を崩し、その後弱った相手のクリスタルを俺が貫き、倒すという作戦のようだ。

これは、狂人形を複数人で倒す際に、最も用いられる方法。あいつも、ちょっとは成長したか?

「……あ……あいつら…!」

あいつの操人形は、動きは速いが、そこまで攻撃力は高くないらしい。攻撃に夢中になっていたようで、狂人形に捕まっていた。

その操人形は、狂人形の手の中で苦しそうにもがいている。このままでは、クリスタルごと握り潰されてしまうかもしれない。

しかし、操人形は無理矢理狂人形の手を武器で切り開き、苦しそうな様子で地面に転げ落ちた。あの高さから落ちたのだから、布製のもろい操人形なら、クリスタルにひびが入っていてもおかしくない。


不安ながら、俺は高い木の上によじ登った。もちろん、俺の操人形、ルトナも連れて。

森自体の湿度が高く、木の表面がかなり湿っている。木に登るだけで一苦労だ。手に棘がささることも多々ある。


やっとの思いで見晴らしの良い枝の上まで来ると、俺はルトナに指示し、例の狂人形に向けて、銃を構えさせた。

ルトナの銃はかなり重く、その分相手のクリスタルを狙いやすいうえに、威力も尋常じゃない。

「ここで奥義発動するか?」

「はい!トーラ様も大変なようなので、早く決着をつけちゃいましょう」

ルトナは銃のスコープを慎重にのぞきながら、心配そうにそう言う。

櫻井の操人形の、トーラとやらが戦っている場所は、今俺たちがいる木の上から、だいたい三百メートルほど離れている。

奥義を使えば、銃弾は五百メートルくらいなら余裕でとどく。まあ、ルトナの人形のタイプも関係しているはずだが。

そんなことをしばらく考えていたが、ルトナがなかなか相手を撃たないことに気がついた。

「どうした?」

「相手の動きが活発なので、うまくクリスタルを狙えないんです。…しかも、トーラ様がいて…」

三百メートルも先の戦う様子は、眼鏡をかけていても、俺には確認することができない。

「ちょっと見せてくれ」

ルトナに一言かけ、銃のスコープをのぞく。そこには、激戦の様子が。

「は!?」

トーラは三匹もの巨大な狂人形に囲まれ、かなりの苦戦を強いられている。櫻井は……ここからは見えないが、これほどの激しい戦いだ。少なくとも、無傷ではないだろう。

どうする?自分。焦るな。考えろ。

「…連射だ」

「え?」

「できるだけ連射に近い速さで発砲するんだ。あの狂人形どもに向けて」

「でも、クリスタルは狙えません」

「狙わなくていい。とにかく撃つんだ。……俺は狂人形のもとにまた戻る。ルトナは五百数えたら発砲を止めて、こちらへ向かえ」

「…?は、はい!」

木を滑り降り、雑に地面に着地する。右肩から着地してしまったので、少し傷めたようだ。

その後すぐに、木の上から何度も発砲音が聞こえた。俺は安心した。

その発砲音を背に、森の中を駆け抜けた。


櫻井たちのいる場所に着いた。そこには、三匹の狂人形と、それと戦う操人形。

トーラは、首から肩にかけてが大きく裂けており、まともに戦える状況じゃない。

ところで櫻井は……?

狂人形が腕を振り回すごとに、こちらまでとどくような強風が吹く。

その風に押されながらも、俺は櫻井を探す。あいつのことだから、むしろ心配だ。

「あれは…!」

狂人形が戦っている場所から、少し離れた木の影。そこには、櫻井がうつむいてしゃがみこんでいた。

そこに駆け寄ると、櫻井は顔を上げた。

「どうした!?」

「トーラに…ここにいてって言われて……」

櫻井曰く、ここで狂人形をやり過ごせと言われたらしい。

俺は、今のトーラの状況を伝えた。

「…このままじゃだめだ。トーラを助けに行かないと。大事な、自分の操人形だろ?」

「うん…」

「じゃ、行くぞ。走れ」

俺は櫻井の手を引き、先ほど来た道を引き返した。怪我をした場所が、足でなくてよかった。

櫻井が時々つまづいたりしたが、たぶん大丈夫だろう。

俺が心配なのは、櫻井の心配そうな表情だった。


例の場所に着くと、トーラはまだ必死に戦っていた。

俺は、トーラに声をかける。

「トーラ!」

「なっ…白井 博也…と乃愛様……なんでしょうか!?」

地上で、武器を振り回し続けていたトーラが、こちらに目を向ける。そして攻撃を止め、こちらに向かって走り始めた。

…そのとき。

「ま、まて!後ろ!」

「え…?」

一瞬で、トーラの体が持ち上がる。狂人形に、頭を握り潰されながら。

「が……ぁ………」

狂人形の手の中から、低い声が聞こえる。

「トーラ!!!」

俺の横にいた櫻井が、そう叫ぶ。

ルトナの連射で弱っていた狂人形の、突然の一撃。狂人形は、にやりと笑みを浮かべる。

ガラスのような物が割れる、耳をつんざくけたたましい音。森全体に響き渡った。

櫻井は目を瞑り、手で顔を覆う。

クリスタルの破片が周囲に飛散する。

「櫻井、よく見てみろ」

櫻井は顔を上げ、狂人形の方を見る。

しかしそこには狂人形の姿はなく、地面に倒れこむトーラの姿が。

「…?…」

櫻井があまりにも不思議そうな顔をしていたので、トーラのもとに落ちている物を拾い上げ、しっかりと見せてやった。

「死んだのは狂人形。俺の作戦どおりだよ」

俺が拾い上げたのは、人形姿に戻った狂人形。いや、死んだ、という表現は少し違うか?

櫻井は、頭の中がかなり混乱しているようだ。

「あとは俺たちに任せろ。残りの狂人形は片づけておく。ちょうどルトナも到着したしな」

「五百数え終わりました。そして、狂人形を一匹倒しました!」

息を切らせて走ってきたルトナは、嬉しそうにそう言った。

「では、始めましょうか。狂人形さん、あなたの相手はこっちです!」


ルトナが銃を構える。

その目は、まるで狩人(ハンター)のようだ。

「奥義、発動ですっ!『雷帝(ライジング)(ショット)』!!!」

銃の先から、黄色い光が目にも留まらぬ速さで放たれる。その光は、狂人形のクリスタルを一瞬で貫いた。

「まだまだ!あと一匹ぃ!」

すると先ほどの光が、意思を持っているかのように、くねくねと自由に動き始め、もう一匹の狂人形をも貫いた。

「す…ごい……」

櫻井が小声でつぶやく。俺にはそれが聞こえていたので、それに返答した。

「まあ俺たちは、人形操士全国大会優勝者だし」

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