第五話 春と秋と”カテドラル学院”
広大で美しい湖の真ん中に浮かぶ巨大な城。
カテドラル学院
先輩は見た方が早いと言ったが、俺は逆に見ることによってさらにわからなくなっていた。
「ありゃ?さくらーんどこだっけ?」
「ここよ。ここ。」
桜は赤い魔法陣の隣に立ち、その魔法陣に飛び込む。
「ハルくんとアッキーも突入だよーーーー!」
「おい!唯!」
ハルとアキもその魔法陣の中にはいると、ある建物の中に出る。
「もしかしてここがさっき見てたでかい城の中か?」
「そゆことぉーーーー」
すぐに後ろから吉田と名護も来て全員が城の中に集まる。
「おい!何ボサっとしてる寝癖!行くぞ!」
「はっはい!」
この城を知っている美術部メンバーの後をアキとハルがついて行く。
「ハル見て教室だ!」
「中は学校になっているのか…?」
その後もカテドラル学院の中では学校と似たような道具や設備があったのをハル達は見つけた。
「ここは一体どういう場所なんだ?」
「行けばわかるさ!」
吉田が言う。
「着きましたわ!」
「理事長先生の部屋とおいよぉーーーーーーー」
ドアをノックする桜
「失礼します!」
「りじちょぉーーーーー!」
高級そうな椅子に座る理事長
「いらっしゃい!」
理事長は品のある70代のお婆ちゃんに見える。
理事長はハルとアキを見る。
「あなたがアキちゃん、そしてあなたがハル君ね。話は吉田君から聞いているわ・・
アキちゃんは絵の中に入ることができるようね!」
「は、はい。」
「あなたをこのカテドラル学院に招待いたします。」
「え?ここは何をするところなんですか?」
「そうですね。説明が先でした。このカテドラル学院がどういうところなのかを説明しなくてはいけませんね。」
理事長の話の内容は以下の通りである。
カテドラル学院は生徒数120人
この生徒数は紅葉高校美術部の数と実は同じである。
つまりカテドラル学院生は紅葉高校美術部なのであり、美術部=帰宅部という考えは美術部員以外が考える美術部の姿でしかないのであった。
カテドラル学院は”悪の黒から生まれるナイトメア”と戦う戦士を育てるこの世界公認の裏の自衛隊である。
ナイトメアというのは絵の中から現われる人間を襲う黒い魔物。
絵の中から出てきたナイトメアは近くにいる生物に取り込み、強力なナイトメアになる。
ナイトメアは世界中に現われ、人間に取りつき化け物へと変身を遂げる。
生物に取り付いたナイトメアは町を破壊したり、たくさんの人を殺す。
絵の中にいるナイトメアはナイトメアの卵のようなもの。
アキが戦ったのもナイトメアの卵であり、これから外に出ようとしていた。
現実の世界に現われたナイトメアをしとめることがカテドラル学院の生徒の使命なのだが、その場合”ナイトメアに取り付かれた生物が出てから”、要するに必ず被害が出てからでしか動けないためかなり効率が悪いのである。
絵の中にいる弱いナイトメアの状態で倒すことができれば良いのだが絵の中に入ることのできる人間は限られており、世界に4人しかいなかった。
そして、アキが絵の中に入ることのできる5人目であるのだ。
「あれを見た後じゃ信じるしかないな・・・副部長達もここの生徒なんですか?」
ハルがたずねる。
「ああ!そうだ俺、唯、桜、名護はカテドラル学院の生徒だ。」
吉田が答えた
「あなたの力で初動の被害を減らすことができるのです。カテドラル学院で世界を救うために戦って欲しい。」
ハルが矛盾に気づく。
「待て待て。この場所も絵の中だろう・・・?」
「確かにここは絵の中だが、なぜかここだけはただの人間でも出入りできるんだ。こればっかりは俺達には分からない。でもナイトメアが出現した例は無いし、アジトとしてはぴったりだからここを学院として使っているんだ。」
吉田が答えた。
「ナイトメアが出る絵には誰でも入ることはできないのです。世界の人間を代表してあなたにお願いするわ。」
理事長はなんとアキに頭を下げる。
アキは何の迷いも無く答えた。
「頭を上げてください!わたしでよければお手伝いさせてください!」
そんなアキの考えなしの発言にハルが驚く。
「何考えてるんだ!!昨日のは運が良かっただけだ!!下手したら死ぬんだぞ!!」
「ハル。私思ったんだけどおじいちゃんが行方不明になったことや、地下室の絵のこととなにか関係がある気がするの。
私知りたいの。」
「姉ちゃん・・・・・」
ハルは少し考え理事長の前に立ち言った。
「理事長・・・・俺もこのカテドラル学院に入れてくれ!」
「それはなりません。カテドラルに入学できる生徒は無限の感性をもつ人間だけ・・・美術部に入部する際、ペーパーテストをしたのを覚えていますか?」
「?・・・・そういえば。」
4月12日
「今からちょっとしたアンケートをとりたいと思います。このテストは入部を合否を決めるテストではありません!ただのアンケートですので気軽に答えてください!紙には好きなように描いてください。」
吉田がアンケート用紙を美術部に集まる新入生40人に配る。
「けっこう入部希望者いるんだね・・・」
アキがハルに耳打ちする。
「そうだな・・・」
噂では美術部は名前だけで実際は帰宅部って聞いてたけど、全員部活したくないのかな・・・
まあそりゃそうだよな。勉強だけでも疲れるのに。みんな考えることは同じってことか。
ハルははじめからサボるために入部していた。
アンケートがハルとアキにも配られる。
何だこりゃ。
<<あなたのイメージする”死”をこの紙で表現しなさい>>
ハルは戸惑ったが、祖父のことを静かに思い出す。
ハルはこのアンケート用紙をシャープペンシルで真っ黒に塗り上げた。
アキは真っ白な質問が印刷されていない紙を受け取った。
「「紙に好きなように描け」」というのを思い出しアキは適当に描いた。
「あのアンケートがこのカテドラル学院へ入学するための試験だったのですよ。あなたがその試験を受けてカテドラルに入学していないと言うことは感性の才能がなかったということ。カテドラルに入学してもただ命を無駄にするだけでしょう。」
ハルは少し落ち込む。
「ちょっと待って下さい理事長!」
吉田が声を上げる。
「確かにハルは入部してすぐの入学式に出席しませんでした。ですからカテドラルにはいませんし当然入学もしていません。そのときからハルはすでに帰宅部になっていてこの入学式を知らなかったのではないでしょうか!?」
理事長はハルを見つめる。
「名護さん。そこの扉を開けて上から4番目の紙の束を持ってきていてください。」
「はい!」
名護が理事長に渡した紙の束は入部アンケートと合否の判定表だった。
「・・・・・驚いたわ。確かに”鶴見春”あなたの名前が名簿に存在するわ。」
「先生!私の名前は載っていないのですか!?」
アキが尋ねる。
理事長は名簿を隅々まで確認する。
「ないわね。」
「アンケート何描いたの!?」
ハルがアキにたずねる。
「・・・・・クルトガを尖らせるために線を引きまくってた。」
そこにいる全員はアキっぽいなという気持ちになっていた。
「とりあえずハル君!・・・・いいでしょう!あなたのカテドラル学院入学を認めます。」
ハルは笑顔になる。
「よし!」
「ですが入学式に行うはずだったランク選定試験を受けてはいないのであなたはこのカテドラルではランクEからのスタートとなります。よろしいですか?」
「ランクE?」
「ランクっていうのはその人の強さみたいなものだよぉーーーーーー」
「Aが一番上でその次がB,C,Dとなり最弱のランクがEというかんじですわ。」
桜と唯がハルに説明する。
「そうです。そしてさらにランクAより上のレベルが存在します。その称号”特級Aランク”を持つ人間が絵の中に入ることができる人間。アキさんあなたです。」
ハルは目を見開く。
「うそだろ!?俺が最弱のランクで姉ちゃんが最高のランク!!!???」