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第三話 春と秋と”ペインティング”

「ただいまー。」

「あれあんたアキと一緒じゃなかったの?」

母がハルを見て言う。

「姉ちゃんまだ帰ってきてないのか?」

「まだ学校にいるのかしらねえ・・・」

ハルが腕時計を確認するとちょうど7時になるところである。

姉ちゃんは夜遊びするタイプじゃないしなぁ。一応通学路歩いていってみるか。

「母ちゃん!俺一応外見て来るよ。」

「うんお願いハル。」






結局、姉ちゃんに会わず、学校に着いてしまった。

「あれ?マジでまだ帰ってない?」

朝のアキの言葉を思い出す。

「「コンクール近いんだから!」」

「まだ描いてんのか?」

案の定、美術室には電気がついていた。


美術室に来るのは久しぶりだな。

ハルは美術室、美術準備室をくまなく探すがアキの姿はそこにはない。

「いねえな・・・」

ハルが不意に隅に置かれた不思議な絵に目をやる。


それは黒い大きな丸が絵の真ん中にある、いたずらされたと美術部内でもちょっとした騒ぎとなった部長の絵であった。


へんてこな絵だな・・・特にこの黒いのなんだこれ?何か意味があって描かれているのか・・・・

「・・・・!!!」

ハルは絵の中の女の子の姿に注目した。

その女の子はショートヘアーで前髪をピンで留めている、さらに紅葉高校の夏服を着ている。

「これ、もしかして姉ちゃんなんじゃ・・・・」

違う!!姉ちゃんをモデルにした絵なんだ!!姉ちゃんをモデルにするなんてとんだ物好きがいたものだ!!

ハルは自分に言い聞かせる。

しかし、そんな心の声虚しくその絵が真実をうつしだす。

部長の絵が急にパノラマのように動き出したのだ。

アキのような女の子は黒い球体から攻撃を受ける。

すると絵には一つも描かれていないはずの”赤”がその女の子から液体のように流れ出す。


<<<<<間違いない。これは姉ちゃんだ。>>>>>


ハルは立ち上がり何か道具を集めだす。



その頃アキは。

「いったぁ・・・・なにあいつ・・」

「グルアアアアアアアアア!!!!」

黒い大玉は意志をもった”魔物”であった。

豚のお面を被っており腹が大きな口として開く。この奇妙な魔物はアキを狙う。

正確にはアキを食そうとしている。


「ここから逃げないと・・・・・・あれはもしかして・・」

アキは絵の一部の空間がゆがんでいてゆがみの隙間から美術部部室が見える。

「あれを通って私はここに来ちゃったんだ!!またあれを通れば戻れるはず。」

アキはゆがみの元へ走って駆け込もうとするが、”魔物”がゆがみの前に鉄格子を掛けてアキが逃げないようにした。


「これじゃあ逃げられない・・・どうしたら・・」

「グルオオオオオオオ!!!」

何度もアキへの突撃を繰り返す。

アキは足をつまずき倒れこんでしまう。

「しまった・・・!!!」

”魔物”の攻撃は目の前まで迫っており、アキは死を覚悟した。




そのとき、アキの目の前に巨大な盾が現れる。

ドカアアアアン

魔物は盾に激突して吹き飛ぶ。


「なんで盾が?」


<<ハルだ!!お前は姉ちゃんなのか?>>

空間に突然文字が現われる。

「ハル!?ハルどこにいるの!!!?あいた!!」

アキの頭に何かが落ちてきた。

それはピンク色の携帯電話だった。

「なるほど・・電話をかけろってこと・・かな!?」






「一応盾を描いてみたけど、助かったのかな。」

プルルルルルルルル

「おわっ!!・・・もしかして。もしもし・・・」

「もしもしハル!?」

「姉ちゃん・・・」

本当にかかってきた!!!

「あのさ一応聞くけど・・・いまどこにいるの?」

「絵の中だよ絵!!絵!!」

覚悟はしていたがまさか本当だったとは・・・。

「今どうなってるんだ!?そこから出られないのか・・・?」

「この絵の中に空間のゆがみがあるの!そこから美術室が見えるからそこに飛び込めば戻れると思うんだけど、この黒い奴が邪魔して戻れないのよ!!」


「なるほど・・・姉ちゃんがそいつを倒すしかない!」

「無茶言わないでよ!!!」

ハルには勝算があった。

「さっき俺が描いた盾、うまく防げたか?」

「うん。なら戦えるはずだ!」

ハルは携帯電話を置き、パレットと筆に持ちかえる。絵の具を筆につけ、ハルが描いたのは巨大な剣。


ハルの考えはアキに一つのぶれも無く伝わる。

アキは剣を持つ。意外と軽くアキは驚く。



「・・・・・・わかった。サポートは任せるよ。」

「グロオオオオオ」

黒い魔物はアキの有利にまったく気づいていない。

橙で描かれた50メートルもある70もの柱が魔物の行く手、行動範囲を奪う。

ハルはさらにかきくわえる。


空を飛ぶための翼。

機動力を上げるための64方向のブースター。

身を守るための防具。


ハルは絵を描いているうちに”絵の描き方”思い出す。

おじいちゃん子であったハルは絵をよく祖父に習って描いていた。

絵のレベルは素人が見て、プロとなんら遜色は無い。


アキは魔物に近づく。

背中に翼が生えたのを確認し空を飛ぶ。

翼は実際には形だけで、空を飛んでいる動力は64の方向のブースターである。


<帰ったらハルに報告しよう。翼は自分の意志では動かすかすことはできなかった。>

アキは自分の圧倒的有利に余裕さえあった。



黒の魔物は追い詰められ、背水の陣の体制になる。

正面から刺すような目でにらみつけてくる敵を真正面から迎え撃つ。



敵とアキ攻撃の準備は万端。

魔物の攻撃は正面のアキを完全に捕らえ消し去った。




わずかな沈黙。





言うまでも無いが

勝利を手にしたのは、アキであった。

魔物は真っ二つにわれ消え去る。


実は魔物が正面を向いた時点でアキの勝利は確定していた。

これは”どちらの攻撃が強いか”の勝負ではなく、本物のアキを見破れるかの勝負であったのだ。

ハルはアキとまったく同じの姿を描き、そのアキの偽者はそのまま魔物に突っ込む。

そして本物のアキはブースターで上空に上がり魔物を上部から撃ったのだった。


驚くことに、戦闘中ハルとアキは一度も言葉を交わしていない。

どうしてそんな芸当ができたのか、理由は単純。

無二の姉弟であること。そして、誰にも理解できない次元の信頼があったからである。


しかし、この信頼が後に訪れる”真実”で刃物へと姿を変えることを、二人はまだ知らない。




空間の歪みに鉄格子のようなものは消える。


アキはブースターを炸裂させ歪みに飛び込む。


「おわっ!!!!」

アキはハルの胸に飛び込む形で絵から出てきた。

「くるしいよ姉ちゃん・・・」

「あっごめんね」

二人は一息つく。

「姉ちゃん怪我大丈夫?」

「うん!」

「帰ろう」

どうして絵の中に入ることができたのか。気になることが多すぎて二人は目の前のことにしか神経を注げないでいた。



そんな二人を美術室前で見ている男がいた。

その男とは、美術部副部長の吉田だった。

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