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足跡  作者: 皐和
第二章/小学生と一匹わんこ、見参なり
7/11

その七/尋問 一

黒い着物を着たその人は、スタスタと歩いてきて、横になっている僕の隣に座った。


あ、この人刀持っている。


時代劇とかでよく見るけど……実際に見ると、かっこいいなぁ。


……いや、そうじゃなくて。


この刀、本物?偽物?


もしも本物だったら……本当にタイムスリップしちゃったって事だ。


思わずごくっと唾を飲み込んだ。


同時に、心臓が尋常じゃないほど暴れ出す。



「緊張してるか」


「……」



してるに決まってる。


平成から、時代を越えてここまで飛んで来たんだから。


あ、でも一つだけ分かった事がある。


ここは過去だ。


どの時代かは分からないけれど、目の前に侍がいるから多分過去。


だって、日本の未来に侍が復活する……なんて、考えられない。



「何故井戸の中にいた?」


「……え?」



僕は押し黙った。


井戸の中?


青い池に入ったから、タイムスリップした先が井戸なんだって考えられるかも。


でも……何て答えればいいのかな……。


青い池に入ってタイムスリップしようとしたら、いつの間にか井戸にいましたなんて言っても、信じてはもらえない。


どうしよう。



「答えられないのか?」



男の人は表情は変えずに、しかし声を低くする。


何だか怖い……


体が少し縮まったけど、何とか口を開いた。



「あ……遊んでたんです!こ、この犬と鬼ごっこしてて、そしたら、犬が井戸の中に入ってしまって、それでそのまま、寝てしまいました」



途中で噛んで途切れ途切れになりながらも、何とか伝えた。


言い切って、とりあえず一安心した僕だけど……もちろん、全部嘘だ。


だってこう答えるしかない。


未来から来たなんて、信じてもらえるはずがない。


嘘、通じるかな?


このまま、“そうか。じゃあ、帰れ”とか言って見逃してほしい。


でも、それにしても……怖いよ、この人。


早く逃げたい。



「遊んでたのか」


「……はい」


「しかし、門には見張りを付けていた。井戸まで行くのは、至難の業だ」



疑いの目を僕に向けるその人。


ギクッと体が縮まった。


どうしよう……。


これ以上、嘘は通じない気がした。



「……」


「答えられないんだな?」


「すみません……」



なぜか謝ってしまった。


だけど、僕の口からはこれしか出なかった。


男の人は僕をじっと見つめる。


何だか、自分の感情を表に出さない……その人から、そんな印象を受けた。


でも僕の今の状況、よく考えたら尋問されてるんだよね。


だけど、僕だって気になる事がある。



「……ここは、どこなんですか」


「自分から入ってきたのに、ここがどこか分からないのか」


「……」



やっぱり僕よりもこの人の方が一枚上手だ。


また、僕は黙り込んでしまった。


本当にどうしよう……。


何とか逃げたいけど、門に見張りがいるって言ってるし……。


するとその人は、仕方なさそうに、小さく息をついた。


本当に小さく、まるで僕に気付かれないように。



「ここは壬生浪士組の屯所だ」



壬生浪士組の……屯所……?


……って……えぇ⁉


壬生浪士組⁉


そういえば池に飛び込んだ時、何だかスロットみたいな物が頭の中に浮かんだような……


あぁ、そうだ。そうだよ。


今やっと、あれの正体が分かった。



《1》《8》《6》《3》《0》《7》《2》《6》



つまり……


1863年07月26日。


幕末の時代に、僕はタイムスリップしたんだ。


しかも、人斬りと言われる、後に新選組となる壬生浪士組の屯所に。


僕があまりに驚いた顔をしたからだろう、男の人は、少し眉をひそめた。



「お前……本当にここが分からなかったのか?」


「は、はい。でも、今思い出しました」



よく考えたら、新選組って……簡単にここから逃がしてはくれない気がする。


現代でいう警察みたいな存在だし……。



「親類はどこにいる?」


「あ、いません……」



この時代には。


そういうのを前提にすると……いない。



「天涯孤独の身か……」



男の人はまた、ため息をついた。


僕、どうなるんだろう。



「つまり、帰る場所がないって事だな?」


「あ、はい……。でも探すので大丈夫です」



早く出ていきたい一心で僕がそう言うと、男の人は、いや、と首を振った。



「親類がいないのなら話は別だ。副長に報告してくるから待ってろ」


「え、あの……」


「逃げるなよ」



僕が何か言葉を発する前に、男の人はそう念を押すと、さっさと部屋を出てってしまった。


まだ、ぽんたが寝ている。


しーんと、静寂が漂った。


本当に……僕、どうなるんだろう……。

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